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ノンフィクションファンタジー

作者: 吉野恵摩

「今日もコメントなし、と……」



僕は趣味で物語を書いている。最初の頃は誰にも見せず、自分だけの世界をただつらつらと紡いでいたわけだが、徐々に欲が出て誰かに評価してもらいたく、小説家になろうだなどと言う大それた名を持つサイトに自分の話を載せ始めた。だが自分ではそれなりに思った出来の物でも他者から見ればそうでもないようで、載せたばかりの頃はその反応の薄さに正直心が折れかけた。



「そうそう上手くいかねぇな」



完全に心が折れる前に、どういう物ならばウケるのかと、他人が載せている話を読むようになった。



「えぇーっと? 今日は昨日書いたところの続きだから、」



僕は今、ファンタジー小説を書いている。まだまだ書き出しな僕の話を「小説」などというのはおこがましい気もするが、とにかくそういう物を書いている。舞台は僕らが生まれる遥か昔の地球、…もしくは地球に似たどこかの、羽のある種族と羽のない種族の物語だ。



「……うわぁ、我ながら走り書きの字が汚くて今後の展開が読めないや…」



こんなことを言うと頭がイカれてると思われるだろうが、僕がここで書く話はファンタジーというカテゴリではあるが、フィクションではない。全て現実に起こった出来事だ。いや…、厳密には、全て現実に起こったであろう出来事だ。いつの頃からか僕は今僕が書いている羽のある種族と羽のない種族がいる世界の話を夢で見るようになった。それは日毎に断片的であるものの、全体を通して話は繋がっており、それまで見ていた夢とはどこかが異なる物だと言うことだけは、その夢を見始めるようになってから半年程度経過した頃には思うようになっていた。そしてある時を境に、僕は見た夢を記録するようになった。それは記録と言うにはややお粗末な箇条書き、走り書き程度のものではあるが…。その走り書きの記録ノートが1冊終えようとする頃、物書きの性分とでも言うのか、その記録…言い換えれば話のネタをそのまま放置しておくのも何だと思い、思い切ってこの世界を舞台とした話を書き出すことにした。



「電気うなぎさん、新しい話出したかな…」



その話を少しずつ、ここで公開していったわけだが、なんとか1つの物語としてそれなりに見れる形になった頃、1通のメッセージが届いた。この物語と似た世界観の話を書いていると言う内容の物で、僕はそこで紹介されていた話を早速読みにいった。そこで驚いたのは、その物語は過去の世界のこと。つまり僕が書いている物語世界の100年以上前の話だった。何故それが僕が書いている世界の過去の話と言えるのか。それは、僕が夢見た世界の時間軸では至極当たり前として受け止められている歴史の1つが、今起こりえる物語として書き起こされていたからだった。その人の作品を一通り読んだ僕は直ぐにメッセージを出した。おかしな話だけど僕はあなたの書いた世界の100年以上後を生きた者です、と。



「お、新作更新されてるな!けど時期的にそろそろ民族間戦争が始まる頃なんだよなぁ…」



そのメッセージには直ぐに返事が届いた。いつからかこの夢を見るようになり、自分は羽のある種族側でしたが、あなたはどちらでしたか、と言う内容だった。その返事を見た時、大きく1つ心臓が脈打ち、徐々に身体が熱くなっていったことを今でも覚えている。だから僕もまた直ぐに返信した。僕は羽のない種族でしたが、そもそもあの夢は何なんですか、と言うような内容だったと思う。そのメッセージにも作者ー電気うなぎさんーから、直ぐに返事が来た。あれは所謂前世の出来事だと思う、と。それを夢と言う形で追体験しているのではないか、と。そして電気うなぎさんが小説を書き始めたのは、自分のような人間が他にもいないのか、探してみたかったからだ、と書かれていた。どう考えても眉ツバな話だと思う。だが実際に僕が夢を見たのは確かで、縁も所縁もなかった電気うなぎさんが、僕が夢見た世界で実際に起こった過去の話を書き上げているのも確かなことだった。



「あぁ…、やっぱりロジオン死んじゃったのか…」



だから僕は電気うなぎさんに問いかけた。僕ら以外にもこういう夢を見ている人はいると思うか、と。彼からの答えは至ってシンプル。自分たちだけが特別なわけがないからいるだろう、とのことだった。……あの夢の世界は、過去僕が、いや、前世と言われる存在の僕が経験したことで、僕と似たような夢を見ている人がいる可能性があるならば、僕にはどうしても探してみたい人がいる。当時、羽のない僕と種族を越えて結ばれるために自らの羽を捨てた女性。彼女も、今この時代に生き、そしてあの夢を見てはいないか…。仮に生きて、その夢を見ていたとしても、彼女がこのサイトを見ているとは限らないのは十分理解している。それでも、それまでの全てを捨ててでもかつての僕と共にいることを選んでくれた女性が現実にいるかもしれない、と言う淡い期待くらいは持っても罰は当たらないだろう。……そう思う程度には今の自分に満足出来ずにいるのだろうことは素直に認める。だけど夢があると思わないか?会ったこともない夢で見た人が、実際にいるかもしれない。しかもその人に出会えるかもしれないなんて。だから僕は書き続ける。かつて実際に起こった出来事を。…だけど案外、なろうにはそんな人が多いのかもしれない。僕や電気うなぎさんのように前世を夢で見て、同士を見つけようとしてる人。そう思うと、ここにファンタジーが多いことも、とても夢があるように思う。



「よし、書くか!」



そして今日も、かつての物語を綴る。

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