承章【邂逅編】 第七話「気纏(きてん)」
気が付くと、俺は真っ白な部屋に立っていた。
頭はぼんやりとまどろんだままだ。
ここはどこなんだろうか。
「曙ハレ太・・・」
「!」
目の前に水色のワンピースを着た少女が座っている。
「私を殺して」
は?
「殺してちょうだい」
死にたいのか?
茶色のショートカットの髪は涙で濡れている。
「貴方は元の世界に帰りたい?」
あぁ、帰りたいさ。
少女はうつむいた顔を上げた。
くりっとした大きな瞳は涙に濡れている。
「1000匹殺せば貴方は帰れる」
「私を殺せば皆が帰れる」
「殺して・・・お願い。殺して・・・」
少女は「殺す」という単語を何度も何度も使った。
なんでそう死にたがる?
ぼんやりと頭に疑問が浮かんだ。
少女は悲しそうな顔をして俺を見つめ、俺の頬に触れた。
「ァ・・・?」
俺の頭に直接、彼女の記憶が流れ込むように様々な景色が浮かびあがった。
無機質な部屋で白衣を着た大勢の大人たちがせかせかと動いている。
「君は今日から№ゼロ、原型だ」
眼鏡をかけた男性が肩に手を置き、言い聞かせるように言った。
「そんなの知らないわ。パパとママはどこ?」
「研究に協力してくれるね?」
「いやよ!!帰して!!家に帰して!!」
身をジタバタと悶えさせるが、眼鏡の男はガシィッと恐ろしいほどの強さで両肩を抑えたまま離さない。
「やっ!!助けて!!」
いくら叫び声をあげても周りの大人たちはすこし表情を歪めるだけで動かない。
「君・・・麻酔を」
横を向いてぶつぶつと眼鏡の男が話す。
「離して・・・っ!!?」
チクリ。
首筋にわずかに刺されたような痛みが走った。
「今は・・・お眠り・・・」
「ァッ・・・」
意識が遠のく・・・。
「君のそのチカラは必ず医学の発展に貢献できるだろう」
「い・・・や・・・」
「№ゼロ、原型。いや・・・」
次の言葉の後、ぼうっと遠のく意識と共に場面が切り替わった。
「君は悪魔の子供だ」
次は森の中に立つ巨大な白い建物の前で言い争う大人達の姿が浮かんだ。
男女二人と、白衣を着た数名の男達の姿だった。
「杏子を返せ!!」
「杏子!!杏子!!」
「ママ!!パパァアアアア!!」
父と母だ。
二人は建物の門から中に入ろうとするも、大勢の白衣の男達に抑えられていた。
「もういい。離れろお前達・・・」
眼鏡の男はそう指示を出すと懐から黒光りした何かを取り出し、両親に向かってその先端を突き付けた。
「ひっ!」
「あんた、なんでそんなものを・・・」
拳銃。
両親は思わずたじろいだ。
怯えた表情を浮かべる母を父が守るように前に立った。
「貴方たちの言いたいことはよぉく分かります・・・実の娘を奪われて研究の為と称し軟禁される・・・身を引き千切られるような思いでしょう・・・」
「だがこれは医学の発展、もっと言えば人類の発展の為に必要な事なのです」
「多くの命が救われるのです。そのために尊い犠牲に」
「もういい・・・黙れ」
「は・・・?」
父は今にも爆発しそうなほどの憤怒の表情で男をにらみつけた。
「杏子を・・・返せ!!」
ダッ。
向けられた銃口を気にしないと言わんばかりに眼鏡の男向かって突っ込んだ。
「ちっ。馬鹿が・・・」
ズダァアアアアアアン!!
「ギャッ」
どさ・・・と音がして父は地面に倒れ、苦痛の叫びをあげながらもがき苦しんだ。
「・・・娘を・・・返ぜっ・・・」
「大した精神力だ・・・娘さんは返せません」
その言葉にギロリと射貫くような視線を向けた。
「外道共が・・・!!」
「これはね・・・国を左右するプロジェクトなんです。それにね・・・」
眼鏡の男はゆっくりと引き金を引いた。
「お前らの子供は化け物だ。利用価値のある、な」
ズダァン!!
ガクン、と父の首から力が抜け地面に突っ伏した。
「あなたぁああああああ!!」
ズダァン!!
「あ・・・パパ・・・ママ・・・」
父と母は二つの銃声の後、動かなくなった。
ガクガクガクと視界が揺れた。
「ゼロ・・・。君は僕たちと共に生きるんだよ。いいね?」
眼鏡の男は何もなかったように振り返り言った。
「パパ・・・ママ・・・」
‘‘イキカエッテ‘‘
ドクン―――ッ!!
ビクン!!
と、二つの遺体が跳ね上がるように痙攣した。
「なっ!!これは・・・!!」
「ギギギッ・・・!!」
「ガ・・・ガ」
二人は‘‘奴ら‘‘として起き上がった。
「研究は失敗だ!!殺せ!!‘‘奴ら‘‘を殺せ!早っぐぁあああああ!!」
白衣を着た大人は次々と奴らに喰われた。
噛まれた人間はすぐさま‘‘奴ら‘‘と化し、さらに大勢の人間達にかじりついた。
少女には見向きもせず・・・。
「パパ・・・ママ。なんで・・・なんでこんなことに・・・」
少女は絶望に顔をゆがめた。
また場面が変わった。
人間がいなくなった代わりに世界には‘‘奴ら‘‘が闊歩した。
「皆を戻さなきゃ・・・」
10年が経った。
「戻らない・・・どうしても元に戻らない・・・」
20年が経った。
「ダメ・・・どうやっても皆戻らない・・・もう死ぬしかないのかな・・・死にたくないなぁ・・・」
数え切れないほどの時間が流れ、世界は徐々に荒廃していった。
その中で一人、少女は拭抜けたように立ち尽くしていた。
「・・・」
「死ねない・・・死ねないのね、私・・・」
「苦しい・・・いつまで・・・いつまで私は・・・」
「死にたい・・・」
「誰か・・・殺して・・・。終わらせて。お願い・・・」
「・・・」
「死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にた
「あああああああああああああああっ!!」
ガバァッと布団から飛び跳ねた。
あたりには薄暗い空間が広がっている。
隣から寝息が聞こえた。
東吾がすやすやと寝息を立てている。
「夢・・・夢か」
背中がぐっしょりと濡れている。
悪夢だ。
やけに鮮明に映像が入ってきた。
「人が死んで・・・腐乱人になって・・・」
周りの人間たちを喰った。
「おぇ・・・」
トイレで思いっきり吐いた。
「げぇええええ・・・」
どうもこっちに来て吐く回数が増えた気がする。
未だにグロテスクなものに対する耐性はついてない。
「うぉおおぇえええええええ」
苦しい。
怖い。
逃げ出したい。
遠征戦は怖い。
もう行きたくない。
動きたくない。
「ハァ・・・ハァ・・・」
がしかし、こうして便器に顔を突っ込んでいても問題は一切解決しないのだ。
俺は口元を拭って、ぺっと口の中に余った胃液を吐き出した。
「人が変わるのは、立って、具体的な行動を起こした時だけ・・・」
俺は立ち上がり―――よろよろと便器を後にした。
「カッ」
木がぶつかり合う乾いた音が訓練室に響いた。
「カカッ」
目の前で巧みに動く老人めがけ、木刀を振る。
「カン!!」
「踏み込みは悪くない、だが肩に力は入れずに、はいもう一度」
老師、内田とのマンツーマンの修行が始まり約一か月が経過していた。
「はい!!」
片手で縦に木刀を構える内田に対し、俺は両手で再度打ち込んだ。
右足で地面を蹴り、伸ばした左足の親指でキュッと地面を掴む。
大腿筋で勢いを受け止め、慣性で生じたエネルギーを上半身へ、上半身から腕へと伝達させる。
そのエネルギーと自らの筋肉を力を合わせ、そのまま剣先を走らせる。
「フッ!!」
袈裟懸け―――
カンッ!!
―――から息を付かず横一文字に薙ぎ払う。
最後に逆方向から返しの太刀を浴びせる。
「ハッ!」
カンッ。
「ハァッ・・・ハァッ・・・」
膝に腕を付く俺に、内田はにこにこと孫を見るように細い目を向けた。
「はいもう十本」
「ハァハァ・・・はいっ!」
訓練室に木刀同士がカカッとぶつかり合う音はその後も響き続け10分後―――ダラダラと流れる汗をタオルで拭きながら、俺は夢について内田に尋ねた。
「ふぉふぉふぉ。そうですか、あれを見ましたか」
「はい・・・あの夢は皆が見たもの―――ですね?」
勿論老師も―――。
内田は俺の続けた言葉に頷いた。
「いかにも。ふぉふぉふぉ、人によっては寝込むほどの苦しみを味わいますがハレ太君、君はどうでしたか」
「吐きました」
「む・・・そのぐらいで済みましたか」
内田は意外そうに返事をした。
「老師はどうだったんですか?」
「私ですか?なんともありませんでしたよ」
「・・・」
確かせりなは夢を見て発狂しかけてた。
それに寝込む人もいるということは吐くぐらいで済んだ俺は比較的軽い症状のはずだ。
シンバが内田は老人の姿をした化け物と言っていたが確かにこの爺さん、そこが知れない。
フィジカルモンスターだ。
メンタルもモンスターだ。
夢について詳しく尋ねてみた。
1000匹殺せば貴方が帰れる。
私を殺せば皆が帰れる。
個人により違いはあれど、この二つの言葉は皆の夢で共通しているらしい。
シンバ達刀匠級の皆は夢に出てくる‘‘私‘‘を殺し、皆で元の世界に帰る為遠征を繰り返しているという事だった。
ちなみに俺は皆を助けようと(そんなこと)は考えていない。
刀匠級になってとっとと帰らせてもらう。
そう考えていると、内田が唐突に話題を変えた。
「練気はご存知ですか」
「練気・・・ですか」
何度か耳にした言葉だ。刀匠級の皆が固有能力を使うときにでてくるアレだ。
「通常の人間が纏う気。元の世界でも気功など治療にも使われている練気はこちらの世界で異常に発達してます。それが具現化したもの・・・それが固有能力、刀匠級の能力です」
「は・・・はぁ」
内田の話はいつも唐突だ。
だが老師が考えなしの会話をしない事はこれまでの彼との会話で分かる。
だがいつも唐突。
彼はB型に違いない。
「私も驚いたことですが・・・どうやらこちらの世界は元の世界より気というものが発生しやすいようです」
「気・・・というと、具体的にはどういったものになるんでしょうか」
かめは●波とかやるときに使うあれの事か?
「わかりやすく言うとかめは●波を打つときに使うあれの事です」
唐突ゥ・・・。
「こちらの世界ではそれを練気と呼びます」
「練気・・・!」
まじか。
胸が高鳴る。
俺は健全な高校3年生だ。
オーラとか気とか聞いてわくわくする子供だ。
「集中して刀を振っていれば力が湧いてくるのを感じる時が来ます。その感覚を―――まぁつまり練気を操れれば刀匠級にならずとも超人的な身体能力を得ることは可能です」
このように―――そう言うと内田は俺から少し離れて木刀を構えた。
「ハァアアアアア・・・・」
前に構えた両腕にボコボコと血管が浮き出た。そして白い湯気のようなものが噴出した。
バシュゥウウウウ。
これが練気・・・?
それが一気にギュン!と圧縮されたように内田の身体に纏われた。
それまでの線の細い体は、しなやかな力強い筋肉で覆われた。
「老師、これは・・・」
「見ててください・・・シッ!!」
ビュビュビュビュ!!
内田が刀を振り空気が切り裂かれる音が響いた。
速い。
肩から先が見えない。
元の世界で見たスポーツ選手のどの動きよりも数倍速い。
「身体能力を上げるこれを、気纏と呼びます・・・」
「気纏・・・!?」
「そして・・・!!」
チャキン。
と音が聞こえるかのように内田は木刀を鞘に納めた形で腰に構えると、そのままプルプルと震えた。
「?老師何を・・・」
「バァッ!!」
次の瞬間、勢いよく木刀が振り抜かれた。
バッガァアアアン!!
「なっ・・・これは!!」
放たれた木刀での居合。
老師の目の前の空間―――宙を斬ったはずの斬撃は10メートルほど向かいの壁に激しい音を立て、大きな太刀傷をつけた。
「斬撃が・・・飛んだ!?」
「気纏で体に纏った気を、刀に流し込む。気纏刀と言います。いまだにこれを使える者は私だけしかいませんが・・・ハレ太君、君は飲み込みが早い。まだ何色にも染まってない君は訓練次第でこれが使えるようになるかもしれませ」
「うっひょう!!かっけぇえええええ!!」
「・・・」
「老師、俺も金髪の戦士になれるということですね!?」
「ハレ太君・・・」
苦笑する老師を他所に俺ははしゃいだ。
ここの所死ぬとか修行とかストレスの溜まる話ばかりで禿げそうだ。
真面目な話ばかりしていては疲れるからな。
はしゃげる時にはしゃがせてもらおう。
「かめは●波は打てないんですか?かめは●波は!!」
「ふぉふぉふぉ。元気があってよろしい、若者はこうでなくては―――」
老師・内田の指導はその日から一層激しさを増した。
訓練が始まって一週間が経った。
「ぜぇっぜぇっぜぇっ・・・」
練気を自在に操る訓練は俺が最も苦手とする分野からはいった。
「ふぉふぉふぉ、次は反復横飛びです。ほら立って、開始めますよ・・・」
「ハァハァ・・・はい!!」
つまり身体を酷使する系のそれだ。
とにかく限界まで体を疲労させるのがこの特訓の趣旨らしい。
俺は老師、内田と二人で反復横飛びを全力で行う。
どんだけむさ苦しい状況だ。
どうせなら早希やせりなも一緒にやらせてほしい。
彼女らのが目の前で揺れているだけで俺のモチベーションは跳ね上がることはまず間違いないのに。
「ハァッ!ハァッ!」
ババッ。
バババッ。
「ふぉふぉふぉ」
内田は後ろに手を組みながら涼しい顔で俺の倍ほどの速度で反復横飛んでいた。
くそ。
何が悲しくてこのフィジカルモンスターと二人で筋トレしなきゃいけないんだ。
「ハァッハァッハァッ!!」
「ふぉふぉふぉ。自分を甘やかさない。スピードが落ちてきましたよ」
「ハァッハァッ・・・はいっ」
マンツーマンでこの訓練を開始してから未だ成果はない。
苦しい修行だ。
だが幼少時代、DVやいじめに耐えていたせいで辛抱強さには自信がある。
殴られ、蹴られ、馬鹿にされ、
それでもなお耐え続けていたあの日々は無駄ではなかったようだ。
正直、DVやいじめを受けていた当時はやられっぱなしだった自分を負け犬と思っていた。
だが今は違うといえる。
辛抱強さという武器が根付き、
その真価を実感した今となっては良い経験だったと思える。
あの負け犬の日々が。
辛抱強さ(これ)を手に入れる為の日々だったのだ。
思えば執筆に取り組んだ時もこの辛抱強さは役に立っていた。
どの分野でも通用する、かけがえのない武器だ。
とはいえ、それでもこの訓練には疑問を持った。
「ふぉふぉふぉ。良い塩梅に仕上がってきましたねぇ」
内田はいつの間にか用意した急須でお茶を淹れていた。
ズズ、静かな音を立てながら穏やかな顔で微笑んだ。
「あと60往復」
「は、はひぃっ!!」
まだやるのか・・・。
「ふぉふぉふぉ。余計な事を考える余裕があってはいけませんね。1セット追加しましょう」
「ヒィイイイッ!!」
ズサァッ!!
勢いよく転んだ。
膝を擦りむいた。
痛ぇ・・・。
「おやおや、どれ手当をしましょう」
「ろ、老師ぃ・・・」
涙目で手当てを受けていると内田は言った
「ハレ太君・・・」
「はい」
「私が課す修行は、苦しいですか?」
「そ、そんなことは・・・」
「だが、やる意味は分からない。と」
「・・・」
「ふぉふぉふぉ」
「?」
「強いつもりで 弱いのが根性。弱いつもりで 強いのが自我。・・・少ないつもりで 多いのが無駄」
「・・・」
「そのつもりで、一緒に頑張りましょう」
にこりと内田は笑った。
「・・・はい」
数か月後。
「撃てぇええええええええ!!」
シンバの声に反応し、全力でバックステップを踏む。
その数秒後。
俺達の頭上―――基地二階の高台からものすごい数の矢が放たれた。
何度見ても目の前に矢の雨が降るこの光景の迫力には若干腰が引ける。
「グォオオ・・・」
刀を持ったまま眺める俺達の視線の先で、奴らが成す術もなく地面へと倒れこんだ。
数秒後雨がやみ、急いで息があるものに止めを刺す。
それが終える頃、林の奥から奴らは再び大量に現れる。
「うぉおおおおおお!!」
俺は雄たけびをあげなから近くに来た腐乱人へと接近した。
戦いの際、俺は基本的にシンバの真似をすることにしている。
相手をよく見て、間合いを測る。
こちらに気付いた敵ががばぁと口を開け思わず竦んでしまいそうになるが、怖がってはいけない。
敵が斬撃範囲に入った瞬間―――
ダンッ!!
強く踏み込む!!
「ハァッ!!」
ザンッ!!
横一閃、目の前の腐乱人の首がズパンと宙を舞った。
「次ッ!!」
初めて敵を殺す時に感じた躊躇が嘘のようだ。
何回目からかは数えていない。
多少怖くもある。
ただ俺ははいつのまにか、敵の首を斬り落とすことに一切の躊躇をない兵へと成長していた。
それもそうか。
「フッ!!」
ズパ!
目の前の敵の首が舞う。
躊躇しなくなるのも当然だな。
―――既に20回以上は出撃したのだから。
※シンバ視点
消耗を防ぐべく、基地へと引いた俺はハレ太の動きを見て疑問の声を上げた。
「あいつ・・・えらく強くなってねぇか?」
「ふぉふぉふぉ。彼は気纏のコツをつかみ始めていますね」
「爺さん・・・あんたの教えか?」
慣れた手つきで刀身に付着した体液をふき取りながら内田に横目をやる。
この爺さん、俺や他の奴には全然指導しなかったくせにやけにハレ太には指導しやがる。
「彼は・・・センスがある。それを扱う頭も持っている。実に素晴らしい兵になるでしょう。もう私が何も教えずともね」
「センス・・・?」
「そう、センスです。才能です」
「・・・それなら負けちゃいねぇはずなんだが」
「彼の強さは己の弱みを把握しているところにあります」
「弱みの把握・・・だぁ?」
「シンバ・・・貴方が持つ弱点はなんですか?」
「弱点・・・?知らねぇよ」
「即答しましたよ彼は。精神的に打たれ弱いところがある。身体が弱い。自分は弱い―――とね」
「・・・」
よく分かってるじゃねぇか。
曙ハレ太が言いそうな事だ。
「彼はしっかり自分と向き合っている。弱点が明確だからこそ、具体的な対応が出来る。そうして彼は隙の無い兵へとなるべく己を磨き上げています」
「・・・」
俺は自分を弱いだなんて思わねぇ。
「シンバ、貴方は強みをもっと伸ばしていけばいい、これまでのように。ただ貴方でさえ持ちえない力・・・気纏は心の強さと弱さ、両方を知って初めて扱えるものなのかもしれません」
「なるほどな」
刀身を拭き終え、チャキ・・・と刀を鞘へと戻した。
「なら俺には要らねぇ力だ!!俺は強いからな!!!ハハハハハ!!」
前線へと一気に駆けた。
「どけぇお前らぁああ!!」
疲弊した兵を下げると、迫りくる奴らに射貫くような視線を向ける。
「獅子神輿ッッ!!」
ズバン!!
振り抜いた大刀が、巨大な斬撃をとなり奴らの胴体を切断する。
内田は基地付近で気の抜けた声を出した。
「やれやれ、血気盛んなリーダーですね」