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ヒトクイー暴食種狩りー  作者: 太陽に灼かれて
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起章【転移編】 第六話「暴食種(ランシュ)2・人面獣」

「ふぉふぉふぉ。ここはまず私が」


 群がる奴らの前に内田はスーツのジャケットをバッと上空へ投げるように脱ぎ捨てた。


「最損益の賭博者(ハイギャンブラー)・発動」


 ボボボボ!!と音を立てて内田の持つ刀が赤黒く染まった。


 ズバァアアアアアン!


 内田の振った刀が広範囲に渡り、奴らを真っ二つに斬り飛ばす。


「すげぇ・・・」


 バサ・・・。


「・・・っと」


 内田は上から落ちてきたジャケットを手に取り、丁寧に畳んでバスのサイドミラーに掛けた。

 随分と余裕な・・・。

 内田がシャツのボタンを開け袖をまくりあげると、細いながらも逞しい腕が覗いた。


「ふぉふぉふぉ。リーダー、ここは私たちに任せて例の物を」

「すまねぇ爺さん!行くぞお前ら!」

「「了解!!」」


 シンバと藤司と俺はすぐさまドアをたたき壊し、広いホームセンターへと飛び込んだ。

 打ち合わせ通りだ。


「中々広いね・・・」


 先に中に飛び込んだシンバが呟いた。

 店内の照明は割れ、外からの光が遮られた店内は奥に行くほど暗い闇に包まれている。


「俺は中央、ハレ太は右、藤司は左を!」


 薄暗い店内中央の大きな通りを縦に並んで進む俺達は指示に従い散開しようとした。


「待てっ」


 だがそこでシンバが前を見たまま立ち止まった。

 つられて俺達も立ち止まる。


「リーダー?」


 シンバの前を見ようとひょこっと顔をだした藤司の顔が歪んだ。


「これは・・・」


 どす黒い山があった。

 何か棒のようなものが積まれている。

 その下にはぬるっとしたどす黒い液体が広がっていた。


「骨だ・・・人間の」

「骨・・・」

「相当な数だな」

「腐乱人か腐乱獣か・・・。どっちにしろ喰った奴は完全に暴食種(ランシュ)に・・・」

「あぁ・・・」

「ていうか、まだ新しいよ、これ」


 藤司が刀の鞘で骨を突っつきながら言った。

 血だまりはまったく乾ききってないし、骨の表面はまだ血で濡れている。


「まだ近くに・・・」


 シンバが神妙な面持ちでつぶやき、ゾクリと背筋に悪寒が走った。

 いや大丈夫だ。

 シンバがいる。

 藤司もいる。

 皆で一緒に探せば安全だ。


「時間がねぇ、ダッシュで探すぞ。なんかあったら声出せ。店内は広いが声は通るはずだ」


 いやいやまじか・・・。


 と、反論する暇はなかった。

 言葉通りシンバと藤司はダッシュでそこから移動した。


「ひっ・・・」


 既に二人は持ち場について探し始めている。


「~~~ッ!!」


 こうして当初の予定通り俺は広い店内の右側を、シンバは中央を、藤司は左側を探しはじめた。




 以外にも、砥石はすぐ見つかった。

 店内の最奥―――俺の担当の右奥に駆けると、すぐさま天井に「砥石コーナー」とポップな文字で書かれた巨大な板がつりさげられているのを見つけた。

 砥石コーナー・・・。

 目の前の壁には様々な種類の砥石が山積みになっていた。


「ハァハァあった・・・!!」


 俺はその瞬間壁に近寄り、持たされた麻袋に砥石を入れようと手を伸ばす―――

 前に、周囲を伺った。


 ここで油断してはいけない。

 やったと思った瞬間敵に見つかる。

 漫画とかでよくあるパターンだ。


 天井、背後、並んだ商品棚の向こう側・・・。

 よし。

 何もいない。


 右側の壁に付いているドアの上には「非常口」と看板がかかっている。

 何かあればここからも外に出られる。


 ・・・大丈夫だ。

 何もいない。

 気配もない。

 俺は目の前の砥石を手に取り材質を確認した。


【アルミナ系 褐色アルミナ系(A)】


 昨日必死で覚えた刀に使える砥石、数々の種類の中の一つと一致した。

 これだ・・・。

 即座にメモと照合する。

 合ってる!!

 次々と砥石を麻袋に詰める。


「・・・」


 順調。

 俺は砥石を詰めながら冷静さを取り戻した。

 難しく考えすぎたか・・・?

 考えれば外の敵は皆が食い止めてくれているし、

 この店内に敵が潜んでいるという根拠はないわけだし。

 うん。

 必要以上の用心で動きが固くなるのは良くない。


「こんなもんか。はやいとこ砥石を―――」


 その時だった。

 ピチャ・・・。

 ピタッと砥石を掴む手が止まった。

 何だ?

 何の音だ?


「・・・」


 パチャ・・・。


 何の音だ?


 背後を確認する。

 音は遠い。

 勿論何もいない。


 パチャ・・・。


 音はかなり遠くから、かすかに聞こえる。

 良くわからない音を気にする余裕はない。

 俺は砥石を麻袋に全力で詰めた。


 あと少し・・・。

 あと少しで入れ終わる。

 そしたらすぐバスに戻って―――。


 その時だった。


 背後のドアが突然キィ・・・と音を立てて開いた。


 そしてピチャピチャとドアの向こう側から何かが出てくる音が聞こえた。


 俺は振り返る前に全力で左の商品棚の死角へと逃げた。


 やばいやばいやばいやばいやばい。


 バクンバクンとそれまでの静寂を打ち消すように鼓動が悲鳴を上げる。


 扉から出てきた‘‘何か‘‘の姿は確認していない。

 だが明らかに足音はシンバや藤司のものではない。


 見られた!?

 逃げなきゃ・・・。


「・・・落ち着け、落ち着け・・・」


 ガクガクガク。


 脚が震えて動かない。

 まずい。

 俺の馬鹿野郎・・・。


 バスの中から奴らがあっけなく斬り飛ばされる姿や、内田の一騎当千ともいえる斬撃、順調すぎる展開に認識が甘くなっていた。


 なんか大丈夫なんじゃね?と馬鹿な余裕をこいていた。

 油断だ。

 俺は敵に見つかったら間違いなく殺されるくらい弱いのに。

 馬鹿が、くそっ。


「・・・」


 ん?


「・・・」


 音が止んだ。

 商品棚ごしに耳を立てる。


「・・・」


 変わらず音はない。

 どこか行ったか?

 それともさっきの音は聞き間違い・・・ということはあるまい。

 ドアをちらりと除く。

 確かに先ほどまで閉まっていたドアは開いている。

 先ほどドアが開いたときには確かに何かが出てきた。


「・・・」


 どういうことだ?

 何も音がしない。

 俺は恐る恐る顔をのぞかせた。

 ドクン、ドクンと鼓動の音は耳に届いているままだ。


「・・・え?」


 一瞬思考が停止した。


 何もいないと思って見つめたドアの前には一匹の小犬が立っていた。

 小さい、俺のひざ下程度の大きさしかないであろう小型犬だ。


「犬・・・?」


 その顔がこちらを向いた。

 その犬の頭には人の顔があった。

 本来の凹凸は一切なく、中年男性のような顔が張り付いていた。

 だがそれだけではない。


「オィイイイ・・・」


 その人面犬の顔面は、

 血で真っ赤に染まっていた。


「あぁッ・・・」


 そして震える俺を見て、

 ニヤァアッ、と人面犬は口元をゆがめた。

 びちゃびちゃと口元から血が零れ落ちる。

 さっきの音は、落ちた血を踏んで出た―――。


「あ・・・っぁっ・・・」


 やばい。

 声が出ない。

 ぱちゃり。

 ぱちゃり。

 人面犬は腰を抜かした俺を見てさらに口元を歪め、ゆっくりと近づいてくる。

 まるで俺が恐怖する様を見て楽しむように。

 ぱちゃり。


 ダンッ!!


 そして一気に近づくとビタッ!!と俺の前で止まり、大きく口を開いた。


「ひぅっげぇほっ」


 むわっと鼻の奥を抉るような臭気が大きな口から広がる。


「げぇほっうぉええ・・・」


 死ぬのか。

 俺はここで死ぬのか。

 なんて情けない死に方・・・!!


「あんちゃん、伏せて!」


 俺の頭上をふっと一陣の風が通り抜けた。


 バゴォオオン!!


 同時に目の前の人面犬暴食種が吹っ飛び奥の商品棚に激突した。

 ガララララと一気に棚が倒れ込み、人面暴食種に商品が降り注いだ。


「・・・カヒュッ!!」

「あんちゃん・・・大丈夫!?」

「ゲホォ!!」


 いつの間にか呼吸が止まっていた。


「藤司ぃ・・・ゲホッ」


 胸の中にヘドロが詰まったみたいに胸が苦しい。

 どんな臭気だ・・・。


「あんちゃんはリーダーを呼んで!!暴食種は僕が・・・」


 ガラガラガラ・・・。

 倒れた商品棚の中から一匹の人面犬が立ち上がった。


「オイッ・・・」


 その顔面は大きく縦に切り裂かれ、眼球は片方が飛び出し、大量の血を滴らせていた。


「なっ・・・あれでまだ生きて・・・」

「あの程度じゃ暴食種は殺れないよ・・・」

「オオォイ・・・オオィイイイイイ!!」


 人面暴食種は奇妙な雄たけびを上げた。

 するとボコッ、ボココッと体が隆起し始めた。


「コホォオオイ・・・」


 小型犬ほどだった体は大型犬ほどの大きさの筋肉の塊に膨れ上がった。


暴食種化(ランシュカ)・・・」

「オオオィ!!」

「三分間の英雄(インスタントヒーロー)・発動!!」


 藤司は黄色のオーラに包まれると同時に地面を蹴り肉薄した。

 そのまま勢いよく両腕を振り渾身の太刀を振り下ろした。


「コホィッ!?」


 敵は突然の攻撃に反応できていない。

 人面暴食種の両前足がバツンと音を立てて千切れた。


「ホホッ!!」


 奴はそれを意に介さないように体を勢いよく伸ばし藤司の喉元に噛みついた。

 刀を振り下ろした無防備な体勢の藤司の首からブシャァと鮮血が舞った。


「藤司!!」


 が、次の瞬間。


「偽りの正義(フェイクジャスティス)


 ボンッと音を立てて藤司の体が霧散し、その背後から斬撃が放たれた。

 分身!?

 あれも刀匠級の固有能力がなせる技か。

 中二臭い事はこの際どうだっていい!!

 頑張れ藤司!!


「オオオイ!!」


 キンッ!

 人面暴食種は自らの背後の気配に即座に反応すると、振り下ろさせる刀を甲殻に覆われた尻尾で受け止めた。


「あらら、反応早いね・・・」


 藤司がバックステップで距離を取る。


「オイッ!!」


 ボッ!!

 人面暴食種は変わらず奇妙な雄たけびをあげ、切断された傷口から前脚を生やした。

 脚が、生えた。


「うわ、再生機能持ちか・・・」

「オオオイ・・・」


 分身。

 再生。

 もう何が何やら分からない。

 人面暴食種はその場でグググッと腰を沈め力を溜めている。


「オオイッ!!」


 ダンッ!!


 溜められた力は一瞬にして脚へと伝わり、蹴られた床はバキンと音を立て陥没した。

 ギュオンと凄まじい速さで藤司の懐へ飛び込んだ人面暴食種は、勢いそのままに甲殻に包まれた尾を叩きつけた。


 それは死角から襲い掛かる無警戒の攻撃。

 迎え撃つべく刀を構えていた藤司は、その渾身の一振りが体に中るまで気づくことができない。


 バキッ!!

「ぐっ・・・!?」


 骨がきしむ音がまるでこちらにまで聞こえそうなくらい、藤司の体がくの字に折れた。

 まじか!!


「藤司イイイイイィッ!」


 崩れ落ちる藤司に、人面暴食種は頭を丸のみにするかのように口を大きく開いた。


「やっめ、ろぉおおおお!!」


 声にならない声を出しながら全力で駆けた。

 奴の動きを止めなければ―――。

 まずい。


 間に合わない!!


 無我夢中だった。

 このままでは藤司は死ぬ。

 どうにかして、奴の動きを止めないといけない。

 俺は咄嗟に刀を抜き、全力で奴へと投げつけた。


 苦肉の策だ。

 藤司に中らない保証は一切ない。

 しかし運良く俺の投擲した刀は奴の大きく開いた口の中に吸い込まれた。


 ザクッ。


「刺さった!!」

「・・・」


 奴の動きが止まった。


「ォオイ・・・!!」

 ギロリ。


 奴は後頭部から刀を生やしてもなお、とてつもない殺気を込めた視線をこちらに見せた。

 高揚する俺の想いは一瞬にして消え去った。


「ひぃいいいいいいいいっ」


 次の瞬間、両者の間に一つの影が走りガキンと重い金属音が鳴った。

 ザッ。

 現れた男の両腕は毛皮に覆われている。


 獅子神輿・・・違う。



【獅子神輿の対となる能力。毛皮に覆われた腕で一対二刀の刀を持ち―――主に跳躍、高速移動等の機動性を主として身体能力が劇的に向上する固有能力】



豹袁人(レオパルマ)・・・発動」

「師匠ォオオオ!!」


 ブワァッと安堵の涙が瞳から溢れる。


「おいおい、すぐ呼べって言ったろ?」

「ホォオオオオイッ!!」


 奴は健在だ。

 シンバの斬撃を喰らってもなお、無傷。

 藤司はシンバのわきに抱えられ、ぐったりとしている。

 既にグロッキーだ。


「硬ぇな、どいつもこいつも」


 シンバはそうつぶやくと、刀を鞘に納めた。


「シッ!!」

「オオイッ!?」


 何が起きたのか分からなかった。

 ただ、シンバの姿が一瞬ぶれたかと思ったら、ぼとぼとと。

 ぼとぼとと、人面暴食種の体は肉塊と化し、地面へと落ちた。


「よし、帰るぞ」

「師匠・・・」


 まるでこの程度の相手はいつも相手にしているといわんばかりに、シンバはそうつぶやいた。



 順調に事は運ばれた。

 そして周囲を警戒しつつ砥石を回収し終えた俺とシンバは藤司をかついだまま外へ出た。


「遅いわよ、リーダー」

「悪い悪ぃ」


 外では大量の奴らの死体の山が出来ており、刀匠級の皆が瓦礫の山に腰かけていた。

 蹴散らされた奴らの山を除けながらバスで駐車場を後にする。


「怖かった・・・」


 ブロロとバスが駐車場を出る。

 砥石は全て回収した。

 もうここには二度と来ないだろう。

 そう思いながら見つめるホームセンターの入口に二つの影が姿を現した。


「えっ?」


 一つは先の細い青年。一つは恰幅の良い老人。


 人!?


「どうした、ハレ太」


 背後のシンバの声に、振り向き前を指さした。


「あそこに人が!」

「あぁ?誰もいねぇじゃねぇか」

「・・・は?」


 先ほどまであった入口付近の二つの影が見あたらない。


「あれ・・・確かにさっきまでそこに」

「疲れてんじゃんねぇよ。とっとと席に座って休んでろ」

「はい・・・」


 見間違いか?


 そんなはずは・・・。

 抱いた疑念はバスがホームセンターから遠ざかるにつれ小さくなって消えた。





「皆、ご苦労だった」


 バスの中でシンバが言った。

 流石に皆消耗したのか、帰りの車内は行きとは違い賑やかな雰囲気はない。

 遠足の時の小学生かお前ら、

 とシンバがおどけた顔で言って誰も反応しなかったのがその証拠だ。


 ちなみに藤司は大きな怪我は負っていなかった。

 刀匠級の皆も、かすり傷などは多少あれど、全員無事だった。

 もちろん俺も無傷。

 シンバは言葉の通り、俺を守ってくれた。

 有言実行、敵を俺の目の前で圧倒した。


 だが。


 それでもだ。

 それでも。

 先ほどの戦いの事を思い出すとぶわっと立つ鳥肌が収まらない。


 俺は死んでもおかしくなかった。


 もし人面暴食種が躊躇なく襲い掛かってきていたら。

 もし藤司が来てくれなかったら。

 もしシンバが来るのが遅れていたら。


 死んでもおかしくなかったのだ。

 そんな‘‘もしも‘‘があるのは実際戦った刀匠級の皆も同じことだろう。

 危険なのは俺だけではない。

 それでも俺は心底その事実に恐怖を感じる。


 怖い。


 死んでしまっていたかも、という想いが不安で体を包み込む。

 ガクガクと震える脚を皆にバレぬよう、無理やり抑えつけた。


 俺が今日、こんな恐怖と危険と引き換えに手に入れたのは・・・。


「・・・」


 右手にざらりとした石を握っていた。

 レンガ程の大きさのそれにぽとりと汗が落ちた。

 ここでは札束や金貨より、粗野な砥石が価値を持つ。


 右手に持った砥石を見つめながら、俺は改めて感じた。


「こんな物の為に、俺達は命を・・・」



 ここは全くの、別世界なのだと。






 ※シンバ視点


 帰りのバスの中に活力のある顔を浮かべる者は誰一人としていない。

 ご苦労と皆に声をかけた後、冗談を投げかけるも誰も反応しない。

 流石に疲弊してるな。


 唯一ぴんぴんしている爺さんはバスの上で迎撃をやってくれている。

 聞けば、外の乱戦で一番敵をなぎ倒していたのは爺さんだと言う。


 あの化け物爺の体力はどうなってんだ?

 俺にはまねできない芸当だ。

 対一の戦闘なら誰にも負ける気はしないが・・・どうにも俺の能力は消耗が激しい。

 爺さんは常に能力を発動しながらも30分以上戦い続けるらしい。

 俺なら考えられない。せいぜい5分が限界だ。

 敵を倒すにはそれで十分ではあるが・・・。

 今はそんなことはどうでもいい。

 今回の遠征、無事に砥石が確保できたという事ともう一つ。

 大きな収穫があった。


 ハレ太の可能性だ。


 後ろの座席に座っているハレ太は青い顔をして俯いている。

 何を考えているかは大体察しがつく。

 どうも精神的に打たれ弱いところがあるな、あいつは。


 だが使える。


 俺が藤司の助太刀に入る前、ハレ太が刀を暴食種に刀を投げつけているのが見えた。

 案の定刀は暴食種に完全に突き刺さり、動きを止めることに成功していた。

 運の要素が強かったことは確かだろう。

 それでも咄嗟にあの判断が出来るのは戦いのセンスがある証拠だ。

 帰ったら特訓だな。


 一つ気がかりなのはあの暴食種の強さだ。

 あのホームセンターに入ってすぐ見つけた骨の山・・・5人分以上はあったはずだ。

 あの人数の骨で・・・あの強さは異常だ。

 帳尻がまったく合わない。


 弱すぎる。


 暴食種は人を食えば食うほど強くなる。

 以前二人の人間が丸々喰われたことがあったがその時は俺が奥の手を出さねば勝てないほど、敵は強くなっていた。

 刀匠級(おれたち)の中で一番ヒヨッ子とは言え藤司がやられたんだ。

 もう少し手ごたえがあるはずだが・・・考えすぎか?


 とにかく帰ったらやることは山積みだ。

 その前にちゃんと生きて帰らないといけねぇか。

 爺さんが上から、俺が中から。

 疲弊した仲間を守る。

 バスは基地のある山へと続く森の道に入った。


 基地に着くまでが、遠征だ。





 ※第三者視点


 山道を登るバスを、木の上から眺める二人の影があった。

 一人は黒色の細い髪の間から鋭い目つきを放つ青年。

 一人は恰幅の良い腹を抱えた大柄の老人。


「ダルム、見たか・・・中々の強さだ・・・」


 青年は一糸まとわぬ姿でそこに立っていた。

 細身ながらも、隆起した筋肉は頂上に吹く疾風を受け止めなお微動だにしない。

 隣の木の頂上に立つ、ぼろ布を纏った老人はガハハ、と笑った。


「あの上にのっておる錬兵には二人がかりでも返り討ちにあうじゃろうな。ガハハ」


 豪快に笑う老人に、若と呼ばれる青年は不敵に笑った。


「人間の分際で・・・面白いわ」

「ガハハ。そう言ってやるな、若よ」


 ダルムと呼ばれた老人はガハハと自らの巨躯を揺らすように笑っている。



「ワシらも元は、人間じゃったろう」   


 ●起章【転移編】終



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