起章【転移編】 第三話「暴食種(ランシュ)」
【‘‘奴ら‘‘―――腐乱臭を放つ未知の生命体】
【奴らは大きく二つの種類に分けられている】
人型を腐乱人。
獣型を腐乱獣。
総称して‘‘奴ら‘‘と呼ぶ。
【‘‘奴ら‘‘は人の細胞を摂取することで、自らの細胞を活性化させる】
【そして脳による肉体の制御が外れ、驚異的な身体能力を誇る‘‘奴ら‘‘を―――】
「強化型、と言います」
美麗は遠目で地面に這いつくばる死体に目をやりながら説明した。
空は東の方角から徐々に白く染まり、高台にはすこし冷たい風が吹き始めた。
「あれが強化型・・・」
怖ぇ・・・。
俺は少し勘違いをしていた。
初めの一匹、腐乱人をシンバが倒してから恐怖心は大分薄れていた。
次々と倒れていく腐乱人を見て、敵の危険性はその圧倒的な数にあるなと思った。
一匹一匹は弱くても、圧倒的な数の有利、数の暴力で殺られる。
油断との闘いだ。
だからこそなるべく危険性を己の中から排除する為に、確実に仕留めてすぐ下がる。
ヒットアンドアウェイの徹底で生存率を高める。
俺も次の迎撃戦の時にはわずかながら力になれるだろう。
だが強化型を見て、己の認識の温さに気付いた。
強化型?
なんだよあれは。
眼にも止まらない動きとはまさにあの事だ。
もしあの場にいたら・・・。
俺は真っ先に殺られていたじゃないか。
それこそ成すすべもなく。
喰われた2人の男―――一人は肩にかぶりつかれ、一人は頭をもぎ取られ、死んだ。
俺がああなっていてもおかしくはなかったのだ。
「・・・」
遠くに倒れる遺体に、自分の影が重なって見えた。
※シンバ視点
やっと終わったか・・・ちくしょう。
刀を持つ仲間を見渡した。
「ゼェ・・・ゼェ・・・」
皆の表情や、息遣いから疲労の色が伺える。
勿論俺も例外ではない。
久しぶりに能力を使っちまった・・・。
全身が重ぇ。
腕に鉛でも巻き付いてるみてぇだ。
獅子神輿は俺が刀匠級になって直ぐに発現した能力だ。
自らを纏う練気と呼ばれるオーラを獅子の分厚い毛皮に変え、神輿のように上から羽織る事で高い身体能力を身に付ける。
正直この状態で俺は敵に負ける気はしない。
が、危険性がないわけでもない。
「ハァ・・・ハァ・・・」
この疲労感だ。
能力発動の後には凄まじい倦怠感が身体を襲う。
俺は両膝についた手を引きはがす様に立つと、皆に向けて声を上げた。
「俺達の勝ちだ!皆、ご苦労だった!体を休めてくれ!」
その声を聞いてやっと皆の顔に安堵の表情が浮かんだ
。重い身体をひきずるように基地の中に十数名の仲間が入っていくのを確認しながら、俺は刀匠級の皆を集めた。
安堵の表情を浮かべる兵達と違い、こいつら刀匠級の面々は浮かない顔をしている。
「埋めるか・・・」
「はい・・・」
仲間が二人死んだ。
その責任を感じているからだ。
藤司、美麗、仏子、早希、そして今は単独で偵察に出ている内田。
こいつらが一緒に責任を感じてくれている。
立派な奴らだ。
感じる必要のない責任を一緒に背負ってくれている。
こいつらは絶対に死なせねぇ。
絶対にだ。
「よし、スコップはどこだ。俺が穴を掘るから―――」
その時だった。
「ガサ・・・」
林の奥で漆黒の何かが動いた。
「グルルルル・・・」
強靭な筋肉に覆われた四本の脚と口元から覗く大きな牙を覗かせて、そいつは現れた。
「ガァアアアアアアアッッッ!!!!」
空気が震えるような雄叫びが、基地前の野原に轟いた。
第二回戦の、開始だ。