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ヒトクイー暴食種狩りー  作者: 太陽に灼かれて
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起章【転移編】 第二話「迎撃戦」

 地獄の筋トレの日々が始まった。

 俺は早希に毎日鬼の様にしごかれていた。


「ゼェ・・・ゼェ・・・流石にペースが・・・ゼェ。激しっ・・・ゼェ」


 思わず倒れ込むと、早希は焦ったようにタオルを取った。


「や、やりすぎたかしら」


 俺の頭の前に屈みこみタオルをそっと添えた。

 制服を着た女子高生。

 の短いスカートの中身があと少しで見えるという絶妙な角度で屈む。

 ふっくらとした白いふとももが眼前に存在を主張する。


 神よ。


 もうこのシチュエーションだけで十分だ。

 5発はいける。


「・・・」


 それはわびさびである。

 風情豊かな光景が眼前に広がっていた。

 だが人間は体力に余裕がない時、性に対する欲求は減少する。


「駄目だ・・・股間が反応しない・・・」


 スパァン!

 JK侍の右腕が唸った。


「ピク・・・ピク・・・」

「心配して損したわ。立ちなさいよ腐れ童貞」

「だから勃たないって言ってるだろ・・・」

「股間の話じゃないわよ!!」


 スパァン!


「ほら、次は・・・えーっと背筋よ!」

「え?休憩は・・・」

「うるさいわね。とっととやりなさい!」

「・・・」


 本気か・・・。

 サァと顔面の血が引く音が聞こえた。





 こうして壮絶な特訓を続けて一か月が経った。

 木刀をしっかり振れるくらいまで身体が慣れた。

 足の傷も完治した。

 体調も好調だ。

 それに心なしか体が軽い。

 無駄な脂肪が落ちた気がする。


「木刀振るのにここまで時間がかかった男は初めてだわ。あんたカスね」

「・・・」


 威力抜群の言葉の暴力にも大分慣れた。

 うん。

 順調だ。



 そしてこの日、刀匠級の面々が再びトレーニングルームに集められた。

 トレーニングの前にシンバから話があるとの事だ。

 シンバはどちらかというと、皆というより俺とせりな二人に向けて口を開いた。


「お前ら、刀ってぇのは意外と脆いんだ」

「脆い?刀が?」

「あぁ。俺もこちらに来て分かったことだ。どうも実際に使ってみると中々脆さが目立つ」


 シンバは刀を刀身をながめるようにして言った。


「大体、2,3匹斬ると切れ味が格段に落ちた。粘性のある奴らの体液に触れるとな」

「は、はぁ」

「奴らの骨に当たって斬れない時もあるし、無理に斬ると刃がこぼれる」


 俺の気のない返事とは裏腹にせりなはコクコクと一生懸命うなずいている。


「刀の切れ味がおちるとどうなるか分かるか」

「抵抗が増えて・・・斬るのにより力が必要になる?」

「いい線だ。だが・・・」

「?」

「切れ味がおちるとな・・・抜けなくなるんだ。刀が。奴らの身体からな。つきささったまま、骨や肉にひっかかって抜けなくなっちまう。奴らはそれでもおかまいなしにかぶりついてきやがる。だから・・・」


 経験故の言葉だろうか。シンバの言う言葉には鉛のような重い説得力があった。

 普段何かとうるさい早希ですら神妙な面持ちをして黙って聞いている。


 全て各々が体験した実話、という事か。


「基本は一撃で仕留めて、離脱。つまる所ヒットアンドアウェイが奴らに対しては有用と言える」


 シンバは立ち上がって壁に立てかけてあった木刀を握った。


「奴らの動きは緩慢だ。まずは怖がらずに刀の間合いまで近づいて」


 前に素早くステップを踏むと木刀を構えた。


「一撃で仕留める」


 そう言って横一閃。

 ヒュンッ!と木刀が空気を切り裂く。


「そして、離脱だ」


 ババッと即座にバックステップで下がる。

 速ぇ・・・。

 驚嘆している俺とせりなにシンバは言った。


「絶対深入りするなよ―――」


 ゴクリと二人とも生唾を飲んだ。


「死ぬからな」


 刀匠級の皆は神妙な面持ちで黙りこんだまま、口を挟まない。

 最初‘‘奴ら‘‘に向かって行った時の光景が頭をよぎる。


 刀が抜けない。

 恐怖しか感じなかったあの瞬間・・・。

 今でも背筋が凍りそうだ。


「分かるか?俺らにとって切れ味は命だ。そして自分の刀は絶対に失っちゃならねぇ、何があってもだ。いいか、絶対に自分の刀を失くすな」

「も、もし刺さって抜けなくなったらどうすればいいですか?」

「死ぬ気で抜くか助けを求めろ。幸いやつらに噛まれたところで俺たちは感染するわけでもねぇ。どうにかして抜いて、後方に下がれ」


 抜けなくなったら死ぬ気で抜けってそれは・・・。

 まぁ何にせよ用心しろという事か。


「ヒットアンドアウェイに重要なのは距離感だ・・・。せりな、振ってみろ」


 その言葉にせりなは皆から距離を置き、手にした木刀で型を披露した。


「は、はいっ!」


 ブンッブンッ!!

 振り下ろし、横なぎ。

 彼女の動きもこの一か月で随分と様になっていた。


「うむ、いい形でござる」


 仏子は厳しい目で彼女を見据えた。


「この時、刀の切っ先近くで捉えるように・・・だな、距離を測って・・・」

 そう言ったシンバの鋭い目が、わずかに泳いだ。

 ぶるるん!!


「えいっえいっ」


 カッ!!

 目もくらむような鋭い眼光が俺とシンバの眼から放たれた。

 ぶんぶんと木刀を振るせりなの胸が、

 ぶるんぶるんと暴力的なまでに揺れている。


 ぶるん!

 ぶるるるるるん!


「なんて圧倒的な・・・」


 気付けばせりなの胸に向かって向かって手を伸ばしていた。


 ガシッ。


「ハレ太、気持ちは分かるが・・・抑えろ」

「師匠」

「あぁいうのはな、触れられいないからこそロマンがあるんだ」


 シンバは鋭くせりなの揺れる胸を捉えたまま言った。


「分かるか?」

「分かりません」

「・・・。ならばもういう事はねぇ」


 揉め。

 と、シンバが言おうとした時だった。


 バコン!!

 美麗の渾身の蹴りが炸裂し、俺とシンバは勢いよく天井に突き刺さった。


「乙女の前でなんて会話してるんですか・・・!」

「クズね・・・」


 凍り付くような眼で早希と美麗は俺達を見据えた。

 仏子と藤司は横目でそれを見た。


「どっちがクズなのか分からんでござる」

「どっちもクズだね」



 こうしてこの日、俺達は刀の抜き方、汚れのふき取り方、消耗した刀身の研磨の方法を教わった。




 その後筋トレをおえ重い身体をひきずりながら寝床へ向かっていると、男の声に呼び止められた。


「よう、最近どうだ、調子は。筋トレばかりで辛いだろうが・・・」

「師匠・・・」

「お前だけに良いもんを教えてやる。さっき俺の木刀の動き、剣先は見えたか?」

「まったく見えませんでした」

「だろうな。あの剣先のキレを出すためにはなぁ腕じゃねぇ」


 シンバは右腕を突き出してパンパンと手首を叩いた。


「手首だ!手首筋力(リストマッスル)の強さがキレにつながる。そして重心が手首にある事を意識しろ。明日からここを鍛えてみろ。すぐ強くなれるぜ」

「おお・・・師匠っぽい・・・」


 刀の重心は柄にある作りになっているからこの鍛え方が一番正しい。

 茶化すなと言わんばかりにシンバは補足した。


「とは言え・・・相対する敵との間合いや距離感は実戦でしか磨けねぇもんよ。どれ、今の実力をみてやろうか」


 そしてシンバに連れられ俺は建物の屋上に出た。


 俺が壁と思っていた建物の屋上は、万里の頂上の様に整備された長い道になっていた。

 夕日が影を伸ばしべージュ色の地面を黒く塗り潰している。


「少し風があるか・・・まぁいいだろ、ほれっ」

 シンバは木刀を俺に投げて渡すと少し距離を取って言った。

「全力で打ち込んで来い」

「はい!」


 ゴクリ・・・。

 シンバは右手で木刀を握りただ立っている。


 構えはない。

 隙だらけだ!


 俺は伊達に早希の鬼のようなトレーニングをこなしていたわけじゃない。

 何かと溜まっているストレスや性欲や性欲、

 性欲等をぶつけるように猛然とシンバに向かい駆けた。


「うぉおおおおおおおおっ!!」

「来い・・・!」


 結論から言おう。

 ぼこぼこにやられた。


「やっぱ弱ぇよなぁ、お前」

「あい、ずみまぜん・・・」





 そして翌日、痛む体で筋トレをやり遂げ、秘密のトレーニング(手首強化)を終え部屋に戻ろうとした時の事だった。


「・・・ぁっ・・・ぁんっ」


 聞き覚えのある踊り子お姉さんの声がどこからか漏れていた。

 皆が寝静まっている基地内には、ただゆらゆら壁の蝋燭の火が揺れる他に動くものはない。

 静かに響く音を辿るとある扉の前に着いた。声はその扉の向こう漏れていた。

 シンバの部屋から。


「ぁっ!駄目っ・・・んんっ・・・!」


 肉同士が激しくぶつかりあう音が響いている。

 少し開いたドアから覗くと、やはりそこでは予想通りシンバと美麗が身体を重ねていた。


「あぁっんっ!!シンッ・・・いやぁっ・・・」


 美麗はベッドに手を突くような格好をしている。


「あんっあっあっあっ!やぁあっシンバァっ・んっ」

 あのドSな姐さんが後ろから(以下自主規制)・・・。

 ゴクリ。

 思わず生唾を呑み込んだ。


 これが指揮者(リーダー)の特権・・・。

 ※違います


 扉から中を覗いていると背後から聞き覚えのあるJK侍の声がした。


「あんた、なにしt」


 俺は極めて流体的かつ素早い動きで早希の口を塞いだ。

 黙ってろ。

 今良い所なんだ。

 ハンドサインで静かに、シュ、ババッと、中を確認するように指示を出す。

 俺の真剣な表情から何かを察したのか、早希はおずおずと視線を中へと向けた。


「嘘・・・」


 そして頬をピンク色に染めた。

 うん。

 処女の反応だなこれは。

 可愛い。


「初めて見た・・・」

「え?」


 初めてなのか。

 深夜とは言え、こんなにおおっぴらに音が響いているのだから皆知ってるのかと思ったが・・・。

 そうでもないらしい。

 まぁ早希が知らないだけかもしれないな。


「うん、いつもはこの時間寝てるから・・・って、あんたこそ何で起きてるのよ」

「ぶっ倒れるまで反復横飛びさせたのは誰だよ!」

「わ、悪かったわよ!あれもトレーニング・・・あ、愛の鞭よ、愛の鞭!」


 早希は今日、俺が喘ぎながら反復横飛びする様子をキャッキャと爆笑しながら見ていた。

 その時の苦しみと怒りを忘れてはいない。


「な、なによ!その目は!」

「しっ、静かに!また音がはげしくなったぞ!」

「あ、私にも・・・」


 コソコソ声で話しながら開いたドアの隙間に頭を重ねた。


「こ、これは・・・」

「え、えぇ・・・」


 俺達の視線の先で、昼間は頼れる二人の大人が身体を激しく求めあっていた。

 体位は先程と打って変わり、今は美麗がシンバに跨って堪えるような表情で激しく腰を(以下自主規制)


「あああっ!シンバァ・・・」

「んっ」

「ぁ、そこぉ・・・」

「もっとぉ・・・!」


 ぐっちゅぐっちゅと濡れた音が(以下自主規制)


「いやぁ・・・シンバァ・・・」


「やばいな」

「そ、そうね・・・」


 俺達は扉の隙間に頭を重ねたまま様子を伺いコソコソと会話した。


「あぁんっ!あぁっ・・んっ気持ちっ、イイっ」


 豊満な美麗の胸がぶるんぶるんと(以下自主規制)


「ああああんっイッちゃ・っ!んああっ!」


 だが俺はそっとドアを閉めた。


「あちょっと何勝手に閉めてるのよ」


 早希が反射的に俺の顔を見上げた。

 頬が真っ赤に染まり、ほのかに蒸気をあげている。

 対照的に俺はなるべく真面目な顔をして言った。


「ああいう時ぐらい邪魔なく気持ち良くさせてやったほうがいいんじゃねえかな。昼間は二人とも気ぃ張ってるだろうし」

「あ、あんた意外と大人なのね・・・」

「まぁな」


 俺の股間が暴発しそうだったから閉めたとは言えない雰囲気だった。


「私、部屋に戻るわ」

「俺もそうするよ」


 早くそうしてくれ。

 俺はトイレで早くこのビッグマグナムを発(以下自主規制)


「カンカンカン!」


 その時、基地内にけたたましい音が響いた。


「なんだ!?」


 同時に基地内を非戦闘員が駆け抜けた。


「奴らだ!!」

「「!!」」

「バタン!」


 扉が勢いよく開いた。


「きやがったか!!」


 ・・・あれ?


 刀を持ったシンバが部屋から出てきた。

 次いで美麗がいつもの和服姿で飛び出した。

 さっきまで裸でそこに・・・。


「早希!お前は刀持って俺と来い!美麗はハレ太と展望台へ!そいつに見学させとけ!」

「「了解!」」


 その声で美麗と早希、2人の纏う空気が一気に変わった。


「今日は誰も死なせねぇぞ!」


 走り出すシンバに俺達は着いて行った。




 長い廊下を走る中、シンバの背中を見た。


「今日は誰も死なせねぇぞ!」


 先程の言葉が未だ脳裏に残っている。


 普段ちゃらんぽらんなこの人の真剣な声には妙な力がある・・・。

 それにこの行動力と素早く指示を出すリーダーシップ。


 なぜこの人がここのリーダーなのかが少し分かった気がした。

 廊下を一気に駆け抜け屋外へと向かうシンバに尋ねる。


「師匠、ここは安全なはずじゃあ・・・」

「たまにはぐれた奴がここらに来るんだ。このままだと俺らが建物の中にいるのがばれちまう!」

「ばれたらどうなるんですか?」

「・・・美麗!とっととこいつをつれてけ!」

「了解!」


 目の前に大きな野原の道を挟んで広がる林が姿を現した。

 俺は美麗に連れられてシンバ達とは別に2階の高台へと連れられた。


 すぐさま基地の前に広がる林の中から出てきたふらふらと歩く人影が目に入った。

 茶色とも黒ともいえないボロボロの皮膚に、ぎょろっと飛び出るかと思う程見開かれた眼。


「ァ・・・ア」


 ‘‘奴‘‘だ・・・。

 ズパン!!

 しかし数秒後、、基地内から飛び出したシンバが奴の首をはねた。

 糸が切れたようにドサリとそいつは前に倒れ込んだ。


「・・・」


 静寂が訪れた。


「・・・」

「・・・倒しちゃいましたよ?」

「林の奥を見てください」

「は?」


 暗闇の中目をこらして、美麗の見つめる先を追った。

 注意深く観察すると、木々の間に無数の赤い目がぼんやりと浮かんでいるのが分かる。

 まさかあれ全部・・・。


「奴らは仲間を呼びます」


 奥からぞろぞろと奴らは現れた。


「たまにこうしてはぐれた奴らが来ます。するとこの中に私たちがいるのがばれてしまいます」

「ばれて・・・どうなるんですか?」

「‘‘奴ら‘‘の特性を聞きませんでしたか?」


 その言葉に初夜のバスで仏子が言った言葉を思い出した。



【‘‘奴ら‘‘は仲間を呼ぶ】



「そう・・・。そうなると外には出られなくなります。だから寄ってこなくなるまで・・・つまりここら一体の敵を全て狩り終えるまで倒します」


 そう言い終えるや否や林の中から続々と奴らが現れた。

 10,20では効かない数だ。

 ざっと見ただけでも50はいるだろうか。


「あ、あんな数どうやって・・・」

「シンバ下がれぇえええ!!」


 大きな声が響き、シンバはバックステップで壁へと寄った。


「放てーっ!」


 その瞬間、

 ギャンッ!

 と音がしたかと思うと横の壁からものすごい数の矢が奴らへと降り注いだ。

 ズダダダダダダダ!!


「刀を持たずとも戦えると、シンバが編み出した答えがこれです」


 矢の雨はあっという間に奴ら全員を射殺し、かろうじて息のある奴の首をシンバと仲間達が撥ねた。


「すげぇ・・・」


 10人ほどの刀を持った男たちが倍以上の敵を一気に狩り終えてしまった。

 だが数秒後、奥から続々と奴らは出てきた。


「ハレ太君・・・皆の動きをよく見ておいてください」

「は、はいっ!」


 注意深く観察してみる。

 しかし奴らの数は多く、皆もばらばらに動いている為よく分からない。


(一撃して、離脱。ヒットアンドアウェイだ)


 ふとシンバの言葉がよみがえった。

 意識してようやくすこし分かるようになる。


 刀を持った音たちは足を斬ったり腕を斬ったりする場合もあるものの、ほとんどの者が一撃で首を落としている。

 誰もが5度以上切り付ける前に、必ずと言っていいほど下がる。

 そして交代・・・次々に基地内から入れ代わり立ち代わりで刀を持った男たちが出てくる・・・。

 シンバの言ったとおりだ。

 真剣に見入っていると美麗が確認するように俺に尋ねた。


「ハレ太君。あのように皆が交代で戦うのはなぜですか?」

「切れ味命・・・だからです」


 正解、美麗はそう言った後、最前線で戦う筋骨隆々の男を指さした。


「が、例外もあり・・・」


 その指差す先にいたのは・・・シンバだ。


「あれは!?」


 シンバは何匹も続けて切っていた。


「5、6、7・・・」


 次々と首を落としていく。

 切っ先が見えない。

 腕を振ったかと思うと周囲の奴らの首がシュバッと音を立て宙を舞う。


「キレが良いとはああいう事ですね」


 美麗が言う間にもシンバは斬り続けた。


「まず強く踏み込んだ脚の力を腰に、腰の力を肩に、肩の力を腕に」


 シンバの動きと同調するように美麗は言葉を綴った。


「最後は手首で返す」


 スパン!

 言い終えるや否やシンバの周囲の奴らの首が宙に舞った。


「リーダーは手首の強さは勿論、身体の使い方を熟知しています。ストリートファイターとして育った、ある種の特性と言えるものかもしれません。彼は転移したその時から刀を操って敵をなぎ倒していました。あそこまで鋭く振れれば殆ど切れ味が落ちることなく戦う事が出来ます」

「な、なんて人だ・・・」


 シンバは鬼のようにずばずばと奴らの首を落とした。

 しかしそれでも奴らの数は多すぎる。明らかに多勢に無勢だ。

 そう思っている時、シンバが声を発した。


「牽けぇえええええ」


 そう言った瞬間、男たちは一気に壁へと寄る。


「放てェエエエエエエエ」


 バババババババババ!!

 その声と重なるように矢が放たれた。

 一陣とは比較にならない量の矢の雨が奴らへと降り注いだ。


「このように弓の援護と白兵の交代制度を用いて効率よく敵を倒すのが迎撃戦です。リーダーがこの戦闘展開を考えてから、迎撃戦の被害はめっきり減りました」


 息をのんで戦いの様子を見守る中、美麗はそう言った。

 今の陣形はシンバを中心に全員で援護するような形だ。

 攻めるが深追いはせず適度な場面、タイミングでうまく引いている。

 すると投摘部隊が弓でやつらの頭部を射抜く。

 雨のような矢を浴びて虫の息の奴らの首を白兵部隊が効率よく跳ね飛ばしていく。


「・・・」


 練り上げられている。

 数との闘い。刀の消耗。迎撃の有利性。

 この状況下では最善と言える陣形。

 だが―――


 この最善が出来上がるまでに、何人が死んだ?


 これが幾重もの犠牲の上に出来上がったものという事は想像に易い。

 一体どれだけの犠牲が・・・。

 気分が悪くなり俺は考えるのを辞めた。


「迎撃戦で最も死の危険が付きまとうのが、奴らの肉体強化です」

「肉体強化?」

「そう、奴らは人間の血を一舐めするだけで強力に細胞を変化させます。肉をひと齧りすれば誰も追いつけないくらい素早くなります。これを強化型と呼びます。非常に危険ですから迎撃戦では絶対深追いせずヒットアンドアウェイを徹底して」

「あの、姉さん」

「なんですか?」

「あそこで一人、肩にかぶりつかれてる人いますけど」

「きゃぁああああああああっ!!!シンバ!右手で一人!齧られてます!」


 美麗の叫びがシンバに届く前に、ギュオッと男の肩にかぶりついた奴の腕が伸びた。

 そして近くにいた男の首を掴むとそのままグシュッと握りつぶし、バクンとかぶりついた。

 パキン。

 じゅるるる。

 脳みそを啜る不気味な音が響く。


「全員引け!!」

 皆が基地の内部へと急いで駆ける中、シンバは只一人その場に残った。


「やられちまったのか・・・くそっ」


 シンバがそう呟いた時、ビキビキと音を上げ‘‘奴‘‘の肉体が豹変した。

 いかにも貧弱そうだった奴の身体が見る見るうちに膨れ上がり隆起した筋肉に覆われる。


「ギギギ」


 音をたて右手の爪が鋭どく尖鋭の形を成した。

 そして次の瞬間、


 ダンッ。


 奴は激しく地面を蹴り猛然とシンバに飛び掛かった。


 ガキィン!!


「クッ!!」

「師匠!!」


 受け太刀をしたシンバの身体が軽く吹き飛ばされた。

 宙で上手く体勢を整え着地する。

 しかし強化型の追撃はやまない。

 伸びた爪を刀で受ける度にガキィン!!と刃物同士がぶつかる音が響いた。


「ガァアアアアッ!!」

「ちいっ!」


 そして3度目の音が響いた時、シンバの足元がよろけた。

 奴はすぐさま地面にググッと踏み込むと体をバネのように使いシンバの懐に飛び込んだ。

 一瞬の出来事だった。


「カウンター!!!」


 一直線に突っ込んでくる奴の腕を切り落とそうと即座に構えたシンバの目の前で、強化型は空中で上半身を捻った。


「くぉっ・・・!?」


 振り下とされる刀を強化型が鼻の先で躱した。

 瞬間、ギギギとしならせた体を解放するような渾身の蹴りを放たれる。


「ぐぉあああ!!」


 ドゴォオオン!!


 シンバは壁に激しく叩き付けられた。


「師匠ォオオオ!!姉さん、師匠が!!」

「私のツッコミといい勝負ですね、あの衝撃は」

「そんな事言ってる場合か!」

「よく見て置いてください、ハレ太君」


 ザンッ。


 すなけむりが立ち込める中、シンバは雄々しく立ちあがった。


「あれが刀匠級の戦い方です」


 シンバは刀を両手で構え、ギン!!と射殺すように強化型を睨み付けると大きな雄たけびを上げた。


「オオオオオオオオオオオオッ!」

「あれは・・・」

「彼が刀匠級になった時、あれが使えるようになりました」

獅子(しし)神輿(みこし)!!」


 師匠の背中にライオンを模したような大きな毛皮が出現した。


「ガァッ!!」


 ボンッ!!


 空気が震えた。

 シンバの肉体はそれまで以上に膨れ上がった筋肉に覆われ、口元から牙が覗いた。

 刀はそれまでの弧を描いた細い姿から一変、巨大な刀身をもつ大剣へと形状を変化した。


「刀匠級は固有能力(パラメイタ)と呼ばれる特殊能力を用いて戦います」

固有能力(パラメイタ)!?」


 ヒュンッ。


 目を戻した瞬間、シンバの姿が一瞬にしてその場から消えた。


「消えた!?」

「あそこです」


 美麗の指した所、先程の場所から10メートル程離れた所にシンバは立っていた。


「なにを・・・」

「終わりましたよ」

「・・・!?」


 シンバの持つ刀の先には奴の頭部が突き刺さっていた。

 ばたり。

 直後に頭部を失くした強化型の身体が地面に崩れ落ちた。


「な・・・速すぎる・・・」

「ォオオオオオオ!」

「こ、これが・・・」


 獅子のような姿の師匠が雄たけびをあげると、男たちは一斉に歓喜の声を上げた


「オオオオッ!!」


 これが刀匠級・・・!!




 人間達が一様に歓声を上げていたこの時。

 獲物を見つけたと言わんばかりに、林の奥から接近している生物がいた。

 四本の強靭な脚、鋭く巨大な爪。

 木々や地面に数々の傷を残しながらその漆黒の生物は猛然と餌へ接近していた。


 ボタボタと、巨大な牙が覗く口元から流れる唾液は、その生物の食欲の増長を示していた。


 遥か視線の先で人間達は、皆が勝利の雄たけびを上げる。


「オオオオオオオッ!!」

「倒したぞ!リーダーが敵の強化型を!」


 人間達は誰一人としてその殺気に気付いてはいない。

 気付く様子もない。


 闇夜の中、100メートル程先に群がる‘‘餌‘‘に狙いを定めてその生物は小さくうなりを上げた。


「グルルルル・・・」




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