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ヒトクイー暴食種狩りー  作者: 太陽に灼かれて
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結章【決戦編】 第二十話「ラストバトル!」

 

 ぼろぼろの身体を引きずるようにして、俺達は来た道を引き返した。現れる敵をなんとか躱しつつ森を進む。


「美麗さん・・・ハァハァ大丈夫ですか」

「ハレ太君こそ・・・脚がもう・・・」


 貫かれたふとももの痛みは歩くたびに増した。

 今歩けているのは使命感か。

 俺一人ならとっくにへたりこんでいるに違いない。


 今はあまりもの痛みに気を失わないで済むと前向きに捉えよう。


 痛みに堪えながら進む。

 すると、道の先からシャリン、シャリンと刃物がこすれ合う音が聞こえた。


「・・・くそっ」


 木漏れ日の先に、異形なオーラを漂わせながら全身針に覆われた‘‘奴‘‘を見つけたときには既に隠れるという選択肢が消え去っていた。


 背から生えた刀身状の棘はいまや全身を覆い、肥大化したブレードが右腕全体と一体化し巨大な刃物と化していた。

 右腕のブレードは真っ赤に、刀匠級の刀身の色と全くの同じ色に染まっている。


「ジェララバード・・・」

「・・・」


 見つかってしまった。

 まだこちらは数名に体力の余裕はある・・・戦えるか?

 ジェララバードは満身創痍だというのが見て取れる。


「皆・・・いけるか?」


 ジェララバードの左腕は肘から先が千切れており、全身の棘は自身のものであろう血でどす黒く染まっている。

 足取りはおぼついていない。

 しかしジェララバードは俺達を見据えるとニヤァと大きく口元を歪めた


「シンバとか言ったか、お前らの仲間は美味かったぞ・・・」


 まさか―――。

 ジェララバードのさっきの全方位攻撃は。


「シンバを喰って、手に入れた力・・・?」


 その時、プツンと音がした。


「気纏刀ォオオオオ!!」

「よくもシンバをォオオオオオオオ!!」


 早希と藤司が気纏を瞬時に発動して襲い掛かった。


 ガキィン!!


「むぅ・・・!!」


 右腕の大ブレードで受けたジェララバードが笑った。


(((全身の棘が急速に伸びる)))


「!!二人とも退け!!」


 間に合うか?!

 怒りで我を忘れている二人に声が届くか!?


 二人は即座に声に反応しバックステップを踏んだ。

 ズバババ、と急速に伸びた棘が空を刺す。


 良かった・・・落ち着いてる。


「ハレ太!!やれるわ!!今なら私達全員でかかれば!!」


 確かに・・・。

 ジェララバードの動きが鈍い。

 針攻撃も若干鈍くなっている。

 いけるか・・・?


「気纏解放!!」


 俺は痛みで朦朧としながら無理やり体に練気を流し込んだ。

 仏子も、美麗も、のこりわずかとなった練気を振り絞って気纏を発動した。

 俺も含めて疲労の色が濃い。

 危険な賭けだ。

 全員があの攻撃をかわし切れるとは思わなない。

 だがだれか一人でも斬撃を直撃させれば―――。

 犠牲はある程度覚悟しなければいけない。


 あれ・・・?


 そこで、一つの疑問が生じた。

 犠牲は覚悟の上って・・・。

 俺は何を?


「逃げるぞ」

「!!??」


 早希と藤司が信じられないものを見るような眼を俺に向けた。



 それを一番に向けたのは誰でもない、ジェララバードだった。



「逃げるなよ人間・・・」


 藤司が猛々しく叫んだ。


「逃がさないのは僕たちのセリフだ!!殺してやる!!あんちゃん!!今皆でこいつを倒すんだ!!皆で同時にかかれば一人の攻撃は通るはずだ!!」

「止めろ!!」

「なぜ止める」


 ジェララバードが口を開く。


「俺はもう戦いたくない」

「何言ってんだよあんちゃん!!」


 藤司が泣きそうな声で叫んだ。


「強大な力を持って何を言うか。我は貴様らの仲間を喰って新たな力を手にしたのだ。憎かろう」

「・・・俺はこの世界に来る前、復讐とか下らねぇと思ってた」

「なに・・・?」

「漫画とか、小説の中だけの話さ。そんなのに命を懸けてどうするんだよ。現実にそんな人いねぇからって、俺は最近までそう思って笑ってたんだ。そんなの創作の中の物語だ、ありえねぇってな」

「仲間が殺されて何も感じぬか、腰抜けめ」

「違ぇよ。仇を打つとか、仕返しをしたいとか。大なり、小なり、世界にはそういう思いが存在するんだ。俺はお前を・・・殺してやりたいよ」

「ならいいだろう!思いのままに戦え!」

「そうよ!・・・こいつはシンバを・・・!!今戦えば押し勝てるわ!!」

「そうだよ!今なら!!」


 早希が急かすように声を荒げた。


「あぁ、倒せるかもしれない」


「でも―――確実に誰か死ぬ」


「「「「!!」」」」


 ごくり、と皆が固唾を飲んだ。


「状況が見えぬ愚か者ではないようだな」

「だから戦わない・・・」

「む?」

「死んだ仲間の為に死ぬのはごめんだ」

「戯言を抜かすな。その気がなくても今から貴様達は殺す。貴様はそこで指をくわえて見てただ立つか」

「いや・・・」


 俺は小恵比寿を抱きしめた。


「こうする」


 グサッ。


 そして自らの胸に刀を突き刺した。

 刀は小恵比寿ごと、俺を貫いた。

 熱い。

 胸の中に熱湯を流し込まれたようだ。

「貴様・・・!!」

「ハレ太!!何を・・・!!」

「っ・・・こ・・えびす・・・ごめんな・・・」

「ハレ・・・太く・・・ん」


 口元から血を流しながら小恵比寿は女神のような表情で俺の頬に手を添えた。


「優しい・・・ね、ハレ太くん」

「・・・俺も一緒にいってやるさ」

「臆病者がぁああああ!怖気づいたか!!!」


 ジェララバードが鬼の形相で叫んだ。

 俺は笑った。




「違う・・・大人になったのさ」




 そして視界が真っ黒に染まるほどの暗闇が広がった。


 死ぬのか・・・。

 不思議だ。


 あれだけ死ぬのが怖かったのに、今は怖くはない。


「・・・」


 そっと目を閉じ、意識をその闇へと預ける。

 その瞬間、俺達をカッとまばゆい光が包み込んだ。


「ありがとう・・・」


 小恵比寿の声が、眠りゆく脳にかすかに響いた気がした。



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