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ヒトクイー暴食種狩りー  作者: 太陽に灼かれて
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結章【決戦編】 第十七話「強くならねば」

 

「俺から一つ案がある」


 それは一種の賭けだった。

 親睦お泊り会を敢行した次の日、俺達は訓練室に再び集まった後すぐに言った。


「気纏の訓練をしよう」

「はぁ?」


 早希が無理だと言わんばかりに眉間にしわを寄せた。


「あんた・・・私たちがそれをやってないとでも思ってるの?」

「それは知ってるけど・・・」


 早希のツンが激しい。

 昨日の小恵比寿との事が原因か?


「やきもち焼く早希ちゃんは可愛いなぁ」

「・・・バカ」


 あれ?

 殴られない?

 まぁいい。

 俺は何も言わず早希の手を取った。


「な、なによ」


 ジェララバードとの戦いの(あの)日、俺は死にかけてたにも関わらず内田から渡された練気のおかげで傷が塞がり生き延びだ。


 その時から、俺の中にはある一つの仮説が浮かんでいた。



 ―――気纏の力は、共有することが可能なのではないか。―――


 内田が試していないだけで―――

 単独最強の、老師だからこそ考えつかなかっただけで―――。

 もしかしたら。


「気纏、発動」


 練り上げた練気を、早希に。

 渡す。

 そんなつもりで練気を手に右手に集中、つないだ早希の手に移動させる。

 ボワッ。


「えっ?」


 不思議な音が出ると、早希の身体からブワァアアアと練気があふれ出した。


「お・・・?」

 これは・・・。


「俺が練気を全開放したときと同じ姿・・・」

「ちょっと、なにこれ・・・すごい、力が溢れてくる・・・」

「早希ちゃん、それでジャンプしてみてくれ」

「ジャンプ?ジャンプすればいいの?」

「そう。軽くね、軽くだよ」

「分かったわ」


 早希は軽く膝を曲げた。


「軽くだよ、軽く」

「わ、分かってるってば」


 そしてトンッ、と地面を軽く蹴った。


 バッガァアアアアアアン!!


 物凄い勢いで早希の身体が飛び上がり勢い良く天井に突き刺さった。

 耳を抑えたくなるような激しい音が部屋に響いた。


「こ、これは・・・!!」


 仏子の、普段開かれることのない目をカッと開いて言った。

「あんちゃんこれって・・・」

「成功・・・しました。これは正真正銘、気纏です」


 ぶらんぶらん、と天井からぶら下がる早希の半身を全員が見つめた。


「成功・・・なの?」

「んんー!!んんー!!んー!!」


 天井からぶら下がる体がじたばたと揺れた。


「見てください、頭が天井に突き刺さっています」


 唖然とした表情を浮かべる美麗が同意する。


「突き刺さってますね・・・」

「なのに早希ちゃんにはあの通り意識がある」

「ありますね・・・」


 俺は皆の方を向いて言った。


「これがどういうことか分かりますか?あれだけの衝撃を受けて気を失っていない。つまりは―――」


 ごくり、と全員が喉を鳴らす。隅で社長秘書のように見守る小恵比寿を除いて。


「防御力が向上している、ということです」

「な、なんですって・・・?」

「これは素晴らしいでござる・・・!」

「あんちゃん・・・これなら僕達もっと強くなれるよ!!」


 美麗の、仏子の、藤司の、遠征隊皆の目に希望の光が灯った。

 よし、士気が戻ったぞ!


「そうだ!!俺達はもっと強くなれる!!」


 ワァアアッと訓練室が歓喜の声に包まれた。


 よし!!

 これで戦える!!


「いやいやいや」


 小恵比寿があきれた声で言った。


「下してあげようよ」

「んむむむーー!むぐー!」

 はしゃぐ俺達は小恵比寿の声に、天井に目をやった。


「「「「・・・」」」」



「「「「あ」」」」





 一週間後。


「皆!休憩だ」

「ハァッハァッハァッ!!」


 俺の声に皆がガックリと腰を地面へと落とした。


「そろそろ昼食を取ろう。もう昼は過ぎてるはずだ」

「ハァハァ・・・そうで、ござるな・・・ハァ」

「あんちゃんお腹減ったよぅ・・・」


 皆の顔に疲労の色が浮かんでいる。


「今日は拙者が用意した昼食があるでござる」


 その言葉に皆がほっとした表情を浮かべた。

 ナイスタイミングだぜ、仏子さん。


 そして俺達は外に案内された。





 ギュオン!!


 凄まじい勢いで目の前のレールの上を白い何かが通り過ぎた。


「あの・・・これは?」


 仏子は竹のレールに滝から汲みつないだ大量の水を流しこんでいた。

 お陰でドドドと物凄い勢いの水が竹のレールに流れこんでいる。


「皆構えるでござる・・・!!」


 ザザッ。


 仏子のその言葉に3人は自らのお椀と箸を持ってレールの前に立った。


「おい、皆」

「見てなさい、ハレ太・・・」

「行くでござる」


 彼がそうめんの玉をレールの上にそっと乗せた。


 ぽちゃん。

 ぎゅおん!!


 スポーツカーが通り過ぎるような勢いでレールの上をそうめんが流れた。


 ぽちゃん、ぽちゃん。

 ぎゅおん!ぎゅおん!!

 カカカッ!!


 神速のストレートを放つが如く、三人は自らの標的が目の前を通り過ぎるその一瞬を図って箸を突っ込む。


「これは反射神経を尖らせるべく仏子さんが編み出した修行兼食事よ。あんたが眠ってる間にね」


 早希の言葉に皆が神妙な面持ちでコクリと頷いた。


音速(ソニック)そうめんでござる」

「ふざけてんのかお前ら」

「拙者達は食事の時間さえ無駄に出来ない・・・そうでござろう。リーダー」

「仏子さん・・・」


 ごくり。


 俺はおもむろにつゆが入った椀と箸を構えた。

 そうだ。

 俺達に時間はない。

 やれることはやる。

 考え着くこと、全て。

 新人賞を獲る時もそれが大事だった。

 少しでも可能性があるなら、やる。

 ただそれだけだ。

 ボボッ。


「気纏―――発動」


 俺は全神経を尖らせるように、

 静かに気纏を発動した。


「流してくれ、仏子さん・・・!!」



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