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ヒトクイー暴食種狩りー  作者: 太陽に灼かれて
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転章【激闘編】 第十四話「老錬兵の激闘」

 ※内田視点


 音を頼りに駆けつけると、既に二体の影が地面に倒れているのが見えた。

 影の一つは曙ハレ太。

 こちらの世界で稽古をつけた唯一の弟子。

 もう一つは獣。

 雄ライオンの姿をした、獣の暴食種。

 たしかハレ太が手懐けたと聞いた。

 ふっさ・・・という名前だっただろう。


「これはひどい・・・」


 ふっさはまだぷるぷると力が入らない脚で立ちあがろうとしている。

 しかし骨が数か所折れているのが見ただけでわかる。


 ハレ太は虫の息・・・。

 いけません。

 死にますね、このままでは。

 さてどうしたものか・・・。


 その二人の身体に触れ、練気を流し込んだ。

 するとふっさに活力が戻り、むくりと立ち上がった。

 お。

 ハレ太の傷はふさがり、血が止まった。

 あてずっぽうにやってみましたが、なんとかなりましたか・・・。


「ハレ太くんを基地まで送り届けてください。できますか?」

「グルルル・・・」


 ふっさはハレ太を背に担ぎ上げ、森の奥へと走り出した。

 言葉が通じたようですね。

 賢い猫です。


「さて・・・黙って見守ってくれているということは貴方は味方・・・なんでしょうか」


 道の先に一人立つ恰幅の良い老人は目を見開いた。


「驚いたのぅ・・・ヌシは人間じゃろう」

「ふぉふぉふぉ・・・いかにも」

「カッカッカッカ。なら敵じゃ。若に人間は皆殺しにするよう言われておる」

「困りました。孫達を死なせるわけにはいかない」

「ガハハハハ・・・。お互い若いのに振り回されるのう・・・」

「ふぉふぉふぉ。それが年寄りの興。守らせてもらいますよ・・・!」


 とは言ったもののこの恰幅の良い老人は先日シンバが戦っていた暴食種最強個体の一人でhないか。


 元々こいつはハレ太と連携して二人で倒そうとしていた相手。

 私ひとりで持ち堪えきれるか・・・。


「さて、・・・この滾った血はどうしたもんか・・・」

「ふぉふぉふぉ。斬り合うしかないでしょう」

「笑わせるわ。ワシは完全体暴食種の肉体を持っておる。ヌシら人間は刀匠級と言ったか・・・なにやら妙な術を使うが所詮は生身の人間、負けはせぬ」

「ふぉふぉふぉ。それは戦えば分かる話・・・!」


 丹田に気を集中した。

 細くしなやかなな筋肉に練気を通す。

 練気を纏う事で、身体能力を爆発的に上昇させる。


「気纏・・・発動」

「む・・・また先ほどの者と同じ・・・」

「喝ァアアアツッッ!!!!!」


 ボンッ!!


 黒スーツに包まれた細い体が分厚い筋肉で膨張した。

 練気をさらに細分化し筋繊維のすみずみまで浸透させる。

 これが気纏における最終形態。

 奥の手。


気纏爆疾(きてんばくさ)・・・発動」

「ほう・・・ほっほっほっほ!」


 ダルムが愉快そうに笑う。

 何が面白いんでしょうかね。


「中々に楽しませてくれる!存分にやり合わせてもらうとしよう!」


 チャキ・・・と刀を左手にもち親指で鯉口を切り、柔らかに右手を柄に乗せる。


「この技は腰に応える・・・早く終わらせてもらいますよ」


 上半身を捻り右肩を押し込むにして居合、抜刀の構えをとる。

 抜刀体勢。


「ガハハ。むぅ・・・」


 ダルムはその体勢を見て嬉しそうに笑いながらも、警戒心から無防備な構えを直した。


 ビュウウウウウ。


 一陣の風が二人の周囲に生い茂る木々の葉を揺らす。


 ザザザ・・・ザザザ・・・。


 二人は動かなない。

 ピタァッと、居合の構えのまま静止した私と、

 ジリ・・・ジリ・・・と常人なら気づきもしないだろう足先の微細な動きで絶妙に距離を

 測るダルムと二人。



 風の中に、立つ。



 ビュォオオオオ!


 そのとき、強い陣風が勢いよく森の中を駆け巡り、木々の葉を一斉に舞い散らせた。


 ザザザザ!!


 二人を包み込むように葉が舞い上がり、地面へ次々と落ちていく。

 その最後の一枚が落ちた時。


 ヴン・・・。


 私の体がぶれた。


爆纏刀(ばくてんとう)・・・」


 次の瞬間、刀を抜き終えた状態でダルムの後方に立った。


「―――抜老斬(ばつろうざ)


 チャキ、と納刀する。


「む・・・何を」



 ズバァアアアアアアアアアン!!!!



 激しい斬撃は遅れてダルムを宙へと吹き飛ばした。

 斬撃で狙った箇所はあらゆる生物の急所。

 首。

 手ごたえ、アリ。

 直後にドシィイインとダルムの巨体が地面へと落ちる音が聞こえた。


 倒せてはいないだろうがこれで時間は稼げるはず・・・。

 にしても腰がいたい。

 疲れましたね。


「早く帰還させなければ・・・」

「帰還・・・じゃと?」


 背後から唐突に放たれた殺気に思わず身構えた。


「!!」


 振り返ったそこには、

 首に必殺の斬撃を浴びなお、無傷のダルムが仁王立ちしていた。


「発動・・・」


 バキン!と音を立ててダルムの首を覆った黒い痣が広がり、その肉体が黒く、硬く硬質を帯びた。


肉体変化(ボディ)剛蓮(ゴウレン)


 硬質化能力ですか。

 爆纏刀の斬撃が通らないとは・・・。


「カカカカ・・・ヌシは今殺す」

「思い通りにはいきませんね・・・」


 再び抜刀の構えをとる。


「ガハハ。大人しく首を差し出せ、老いた錬兵よ」

「そうはいきません」

「分からんのぅ・・・勝算のない相手になぜ挑む」

「孫達の命を守るのが私の役目です。そのためにも死ぬわけにはいかない」

「中々骨のある男よ・・・カァッ!!」


 バゴォオオン!!


 振り落とされた拳が地面を割り、私の身体は宙高く吹き飛んだ。





 ※葛西早希視点


 今朝バスに乗り込む時、リーダーは言った。


「今日で俺達の戦いも最後になるかもしれねぇ。いや、最後にするんだ。気合入れろよお前ら!」


 今日で最後―――になるのだろうか。

 私たちは今まで何度ものその‘‘最後‘‘を求めて命がけの遠征に繰り出してきた。

 だけど一向に見つからない手掛かりに皆‘‘最後‘‘という希望と、気概をいつの間にかなくしていた。


 その‘‘最後‘‘が突然現れてたのだ。

 シンバの表情はいつになく固い。

 皆も同様だ。


 この状況はあまりいい気がしない。


 不確定事項が多い中、皆これでは・・・。

 気負いすぎではないか―――。

 即時撤退のパターンも全員頭に入れておいた方がもいいのでは―――。

 でも―――私は返事をした。


 リーダーを信じる。

 そして全力でサポートする。

 今まで通り、着いてゆく。


「「「「「了解ッ!!」」」」」


 例えその‘‘最後‘‘が、私たちの終わりなのだとしても。



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