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ヒトクイー暴食種狩りー  作者: 太陽に灼かれて
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転章【激闘編】 第十二話「シンバと謎の影」

 ※シンバ視点


「手掛かりが見つかりそうだ、手伝ってほしい」


 内田は俺にそう言ってきた。

 一人でこの世界の謎と‘‘夢の少女‘‘を追う内田からの相談だ。

 断るわけにはいかなかったし、断る理由はなかった。

 即座に俺達は二人でコンビ遠征を敢行した。

 基地から二つほど山を越えた地点が内田の言う‘‘手掛かりがありそうなエリア‘‘らしい。




 ちくしょう。

 何が手掛かりが見つかりそう、だ。

 目的のエリアに着き、

 さて、探索を始めようと言ったところで内田が言った言葉が蘇る。


「ふぉふぉふぉ。私はこの辺を探すから、シンバ。貴方はこの辺を」


 内田は地図に書いてある山を二つ指差した。


「・・・は?」


 何度も聞いても内田は同じことを言った。

 内田の言うこの辺とは、

 山一つの事を指していた。


「おいおい広すぎだろ・・・」

「ふぉふぉふぉ。だからあなたに来てもらったんですよ。並みの人間にこの遠征は少々過酷ですからね」

「・・・」


 こうしてアバウトすぎる爺さんの説明を頼りに探索を続けた。

 我ながら良くやっているものだ。

 もう30日は経った。

 何も見つかりやしねぇ。

 ちくしょう・・・。


 目の前に巨大な木々が生い茂る厳かな山がそびえ立っている。

 野道をぼんやりと照らす月明かりはその山の入口で完全に途絶え、

 その先にはただ暗闇が広がっている。


「くそぉ・・・暗ぇな」


 独りぶつくさとぼやきながら、大きな山の山頂へと続く小さな獣道へと足を踏み入れる。

 外から見た通り、やはり山の中は暗い。

 そしてやはり―――。

 何か、いる。

 それは猪や兎、猿などの気配だけではない。

 これは‘‘奴ら‘‘の気配も含まれている。

 この山にはたくさんの‘‘奴ら‘‘がいる。


「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」


 息が苦しい。

 いつ見つかるか分からないという重圧が体力を削る。

 そもそも今日の探索を初めてもう6時間は経っているのだ。

 腹が減った。


「ハァ・・・ハァ・・・」


 脚に鉛でも巻き付いてるみてぇだ。

 身体全体が重い・・・。


「フゥ・・・」


 振り返り見る、先程入ってきた山への入口は大分小さくなっていた。

 俺は道の脇に目をやった。


「少し・・・休むか」


 キュポンッ。

 ごくん、ごくん。


 丁度道の脇に出来ていた段に腰をかけ、水筒にいれた水を飲んだ。

 滝で採取したばかりの水はまだ冷たい。

 燃えるような熱を帯びた体が冷やされ、多少の清涼感を味わった。


「・・・ぷはぁ」


 まだ上り道は続いている。


「まだ・・・戦えるか?」


 内田がわざわざ俺の力を借りると言った理由は一つだった。

 手をグーパーと開きながら感覚を確かめる。


「残っている練気は三分の一ってとこか・・・」


 それは敵の数の多さだ。

 内田と離れてからすぐ遭遇した敵は思いのほかに強力で、今日は単独遠征開始直に予想外の苦戦を強いられた。


 今回だけではなかった。


 内田に連れられてこのエリアを訪れた時から、嫌という程の数の敵に遭遇している。

 しかも暴食種の割合が高い。


 そしてこの広範囲探索だ。

 勿論移動に練気を使うわけにはいかない。

 練気切れの時に暴食種と遭遇すれば命の危機に関わる。

 何の手掛かりを掴めないまま、死ぬ。


「くそ・・・」


 夢の少女を倒せば、皆が元の世界に戻れる。

 簡単な話なのだ。

 ただ、その所在が不明という一つの問題だけが、俺達を苦しめている。

 どうしようもない問題。


「ま、ここで座り込んでいても仕方ねぇか・・・」


 きゅっきゅっ。


 水筒の蓋を締め、背中のポーチに仕舞う。

 その時だった。


「ぎゃおっ」

「ぎっ」


 遥か後方の森の入口から聞こえた。

 二匹の獣のような声。

 つまりは―――。

 俺は即座に腰を上げ前へと全力で駆け出した。

 敵だ。

 夜の‘‘奴ら‘‘は鼻が利く。

 まだ見つかってないか・・・?


「ここは‘‘奴ら‘‘が通ってできた道か・・・ちくしょう!」


 幸い風下の現在の位置関係ならともかく、万が一こちらに近づかれた場合いかに道の脇に隠れていようと見つかってしまう。


 相手は二匹。

 体力も練気も限界に近い今の状態で勝てるかどうか・・・。


 来るな!!

 頼むからこっちに来るな!!


 そう念じながら全力で駆けた。

 しかし俺の遥か後方からかすかに山に響く二匹の声はどんどん近くなってきている。

 なんでこっちに来るんだ!!

 風下だから匂いでばれてはいないはずだ。


 たまたまであってくれ!!


 声はどんどんと近くなっている。

 俺が山を駆けるスピードより随分と速い。

 この速度から行くとおそらく敵は暴食種だ・・・。

 豹袁人(レオパルマ)を発動するか・・・?

 そうすれば少なくとも逃げ切ることは出来る。

 だが移動に練気を消費すればその後が危険だ。

 新たな敵に出会わないとは限らない。


「ハァッ!ハァッ!・・・」


 俺はこちらに来ない事を願い、生身の身体で全力で走り続ける選択をした。

 暗闇の中、木々の枝が頬を掠める。

 構うことなく全力で前へ前へと木々の間を潜り抜け、茂みを飛び越え駆ける。


 ザザッ。


 しかし麓から聞こえた二匹の声はいつの間にか俺と10メートル離れたすぐ真横の位置に移動していた。

 黒い影が、二つ。

 視界に入った。

 まずい。

 見つかってしまった・・・。


「がぁあっ」

「ぎぃいっ」


 ドドドッ!!


「!?」


 俺はすかさず屈んでその様子(・・・・)を伺った。


「ぎゃっ」

「がぁああっ!!」


 ドサッ。

 ギィンッ!!


 暗闇に包まれた森の中、二匹の‘‘奴ら‘‘が重なり、争い合っていた。


「グォオオオ!!」

「ぎぎぎ・・・」


 ガササササッ。


 まるで周りが見えていないかのように、二つの影がぶつかり、茂みを潰し木を揺らし争っていた。


「ハァ・・・ハァ・・・」


 なんだ?

 こいつらは何をやってるんだ?


 ドゴォオオオン!!

 体当たりで吹き飛ばされた一つの影が、太い木の幹に激突し葉を落とすほど揺らした。


「・・・!」


 争い合ってる。

 ‘‘奴ら‘‘が争い合うなど聞いたことがない。

 ごくり。

 どたっばたっと身体がぶつかり合い、取っ組み合う二つの黒い影を息を飲んで見つめる。

 奴らの嗅覚感知の範囲に入ってないことを祈った。


「グォオオオ・・・!!」


 目を凝らすと、二匹の身体がわずかに浮かび上がった。

 二匹とも暴食種だ・・・。

 尻尾の生えた腐乱獣と、腐乱人の暴食種が争っている・・・。

 次第に声が小さくなっていった。

 人素体の暴食種は獣素体の上に跨り、手にもった昆のような棒を振り下ろした。

 ぐしゃっ。


「ぎぃいいっ!!」


 それっきり四足獣はぱたりと動かなくなった。


「フーッ!!フーッ!!」


 荒い息遣いに生じる音だけが、暗闇に残った。

 俺はその奇妙な光景に熱が入ったように見入っていた。


 争いあう‘‘奴ら‘‘

 道具を使う人素体の暴食種。

 今まで見てきたどの‘‘奴ら‘‘にもない特徴を持った一匹の暴食種・・・。

 何か手掛かりがつかめるかもしれない。

 息を潜めながらそう考えた。

 その時だった。

 ふぅふぅと荒い息を吐く奴の身体がピクリと何かを察したように起き上がると、眼が暗闇の中真っ赤に光を放った。


 カサ・・・。


 足元に目をやった。

 思わず力が入りわずかに茂みを揺らしてしまった。


 しまった・・・。

 ばれたか?


 そう思い、顔を上げた。


「・・・・」


 息が止まった。

 暗闇の中浮かび上がる赤い瞳が完全に俺の姿を捉えていた。


「・・・」

「・・・」


 ヒュォオオオオオオ・・・。

 ザザザ・・・。


 互いの影を捉えたまま、時が止まった。

 ハッとなりすぐさま戦闘態勢にはいる。


「来るなら・・・来やがれ!!」


 が、次の瞬間、奴はそのまま前へと走った。


「は?」


 どうなってんだ?


 獲物を見つけた‘‘奴ら‘‘は必ず襲い掛かってくるはずだ。


 ザザザッ。

 黒い影は真っ赤な二つの瞳を浮かべあがらせたまま、木々をかき分け前へと駆けていった。

 おいおい。

 どんだけイレギュラーだ!!


 全力で追いかけた。


「ハァッハァッハァッ」


 先ほどまで、体力は確かに限界を超えていた。

 しかし手掛かりが見つかるかもしれないという一抹の希望が、俺の身体を動かす。


「待てっ!!待ちやがれ・・・ハァハァ!!」


 ザザザザッ!!


 先程とは打って変わったような速度で暗闇の中森を駆ける。

 一つに減った影の正体を突き止めるべく、懸命に前方の影を追った。


 ガサガサガサッ。


「ハァッハァッ」


 俺達の息遣いと足音と、木々をかき分ける音だけが暗闇の森に響く。

 徐々に影が大きくなってきた。


「・・・」


 野郎、疲れてるか知らねぇが速度が大分落ちてやがる!!


 手が届く・・・とまではいかないが少しずつ、だが確実に距離が縮まってきている。


 すぐさま前を走る影は獣道の分かれ道に突き当たった。

 茂みの先には崖。

 右は荒れ果てた道。

 左に向かえば俺と内田のキャンプベースだ。

 うまく行けば内田と挟み撃ちに出来るかもしれない。

 こいつは生け捕りにしたい。


 左に行け!!

 左に・・・っ!!


 ザザッ。


 数秒後、俺の希望の通り奴は突き当りで左に曲がった。


 よしっ!!

 なんとか内田に連絡を・・・。

 大声で叫ぶか・・・?

 他の敵にばれる可能性があるが、今はそれが最善・・・!!


 そう考える俺の考えはすぐさま打ち消された。

 奴は分かれ道を左に曲がったあとすぐ右側のしげみに突っ込んでいった。

 その先は崖だ。


「くそがぁあああ!!」


 迷わず奴の入ったしげみに飛び込み後を追った。

 ゴンッ!!


「おおっ!?」


 さらに密集した木の太い幹で頭をひどく打った。

 すぐさま能力を発動して体を強化する。


「くそっ奴はどこだ・・・!!」


 ざざっ。


 前方に黒い影を発見した。


「待ちやがれ!!」


 木が密集しすぎてもはやどこになにがあるか分からない藪の中を、ほぼ一直線に突っ込む。


 ガガガッ。


 先程とは比較にならない程の木々が体にぶつかり全身に鈍い痛みが走った。

 しかし先を行く奴はまるで暗闇の中の木々が全て見えているかのようにするすると避けて前ヘすすむ。

 すこし差が付く。が、


「へへへ、その先は崖だぜ・・・」


 崖まで、あと数歩。


 ザザッ。


 予想通り、奴は崖の前で疾走を止めた。


「動くな!!」


 そう叫ぶとビタッと奴の動きが止まった。

 が、さらに予想だにしない光景に目を疑った。


 ヒュヒュヒュヒュ!!


 奴は懐から飛び出したひものついた何かを取り出し、それを振り回した。


 ぼぅっ。

 その先端が明るく光る。


 ヒュンッ。


 崖へと投げられ、深い深い地下深くへと続く谷底へと落ちていった。

 そして奴は飛び込んだ。

 明かりを追うように、下へ。


「嘘だろ!?」


 すぐさま追いつき、谷底へ目をやると明かりを纏った奴の姿が露になった。

 赤黒い甲殻。

 人間の者とは思えないそれに覆われた背中が見えた。


「くそっ・・・獅子神輿!!」


 ええいくそが!!

 いちかばちかだ!!

 頑丈な方に切り替えて、すかさず後を追う。


 ダンッ!!


 地面を蹴り俺も崖へと飛び込む。


「ァアアアアアアアアアッ!!」


 深く、深く暗い崖の闇に沈んでいくように、

 俺は吸い込まれた。





 ががががっ!


 ほぼ90度の崖ともいえる坂を木々にぶつかりながら落ちる。


「アガガガガガガッ!!」


 激しい衝撃が全身を襲う。

 能力のお陰か大した痛みはない。

 しかし落下しながら竹藪に包まれた地面が物凄い勢いで迫ってきた!!


「ォオオオオオッ!!」


 ズダァアアン!!


 ほぼ同時に地面に降り立った。

 3メートルほどか。

 近い。

 俺の目の前に奴はいる。


「ウァアアアアアアアッ!!」


 顔の前に交差して腕を構え、直線的に突っ込む。

 数々の竹が行く手を阻むが、無理やり体をねじこむように全身全霊で突っ込む。

 腕越しに見据えた黒い影は動かない。

 捉えきれる!!


「つかまえ・・・!!」


 ズドッ!!

「ガハァア!!」


 飛び込んだ俺の勢いを利用したカウンター。

 深々と奴の拳が腹にめりこみ、

 内臓が吹き飛ぶかと思う程の衝撃が襲った。


「ア・・・ガ・・・」


 地面が眼前に迫る。


 ドサ・・・。


「ちくしょう、待ちやがれ・・・うっ」


 がさがさと、倒れ行く俺の眼と鼻の先で奴が移動する。

 動け動けと念じるが体が動かない。


「げほっ・・・ぐっ・・・」


「ちく・・・しょお・・・!!」


 俺はそこで意識が途絶えた。





 洞窟の中、ゆらゆらとたき火の火が揺れていた。

 拳ほどの大きさで囲まれた火の周辺に、内田が昼に獲った鮎を突き刺した串が立っている。


「爺さん、助かったよ・・・」

「ふぉふぉふぉ・・・これでも食べて落ち着きなさい」

「おう・・・」


 俺は気絶した直後運よく、かけつけた内田に保護された。

 今回こそ死ぬかと思った。

 だが死ななかった。


「へへ・・・相変わらず悪運だけは強ぇわ・・・」

「・・・」

「・・・くそっ」


 香ばしいうまそうな匂いを漂わせる鮎の塩焼き串を受け取り、腹のあたりにかぶりつく。


「・・・!!塩じゃねぇか!」

「ここだけの秘密ですよ、シンバ。今日は特別に美味しいものを、ね」


 ごくりと喉が鳴った。

 きちんとした調味料で食べる飯なんていつぶりだ。


「・・・はぐっ」


 言葉が出ねぇ・・・。

 その強い風味から香魚とも呼ばれる鮎の香ばしい風りが口の中にひろがり、塩のうまみが素朴な味わいを醸し出す。

 美味ぇ・・・。


「はぐっはぐっもぐもぐ」


 無我夢中で骨までかみ砕いて食べた。

 ごくん。


「おいしいものは疲れた心に潤いをあたえる。ほら、まだあります。たんとお食べなさい」

「ったく、あんたは俺のお袋かよ・・・うめぇおかわり」

「ふぉふぉふぉ」


 内田は好好爺を示すが如く柔らかい笑みを浮かべたまま鮎の塩焼き串を差し出した。


「ごちそうさまでした」


 鮎を10匹程ぺろりと平らげた所で、内田が口を開いた。


「シンバ・・・そろそろその暴食種の話を詳しく教えてくれますか」

「あぁ・・・」


 その次の日の事だった。

 俺達が敵のボス。


 ダルムとジェララバードに遭遇したのは。




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