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ヒトクイー暴食種狩りー  作者: 太陽に灼かれて
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転章【激闘編】 第九話「シンバが守りたいもの」

 

 俺達が戦うのは場面は主に二つに分かれる。


 一つは基地での迎撃戦。


 もう一つは基地外に繰り出す遠征戦。

 森の奥深くで戦う迎撃戦はともかく、遠征戦で回数を重ねると暴食種と呼ばれる敵の最強種の姿をたびたび目にする。

 既に俺は遠征に数え切れないほど出ている為、様々な暴食種を見てきた。

 しかしだ。

 人面犬だったり、雌ライオンだったりで、暴食種=異形な化け物として認識していた俺でも、その姿にはつい息を飲んだ。


「お前ら、動くなよ・・・」


 建物の影に隠れながらシンバは小声で俺達を制した。


「コ、コ・・・」


「コ、コ、コォ・・・」


 俺と早希と美麗、シンバの四人で出た遠征戦開始直後。

 即座に発見し、隠れて様子をうかがっている相手は―――


「コケェエエエエエエッ!!」


 腐乱人・暴食種。

 筋骨隆々のプロボクサーのような肉体に、鶏の頭を持った一匹の暴食種だ。


「コケッ!」


 ぎょろぎょろと大きな瞳を動かして鶏男はあたりを伺っていた。

 その横には似たような姿の鶏男が地面に倒れている。

 つい先ほどシンバが倒した個体だ。


「俺がやる・・・獅子神輿」


 シンバは静かに能力を発動すると、右手に抜いた刀を持ったままその場でグ、グ、グと体を捻り力を溜めた。

 ギギギ・・・。

 ボッ!!


 それまでの静の動きは一転、エネルギーを一気に開放し全力で刀を放った。


「コケッ・・・」


 キュォンッ!!

 凄まじい勢いで放たれた刀は鶏男に一直線に向かい空気を切り裂いた。


「コケェエエエエエッッッ!!」


 直後、鶏男の断末魔が市内のビル群の間に響いた。


「ったく、何を喰ったらこんなのが生まれるんだか・・・」

「リーダー、お疲れ様」


 シンバは早希の差し出すタオルを受け取り顔をごしごしと拭いた。

 額に噴き出る汗が先ほどの戦闘が見た目ほど容易ではなかったことを示している。


「いいなお前ら。何もやらせずに殺る、だ。暴食種と戦うときは何もやらせずに一方的に叩け、いいな」

「了解ッ」


 先ほどの戦闘は俺達に手本を示すかのようなものだった。


 突如発見した二匹の鶏男に対し、背後から即座に豹袁人で一撃、狼狽する鶏男を一方的にズタズタに切り裂きほんの数秒で一匹を仕留めた。

 そしてすぐさま逃走し、先程の死角からの投擲。


 それぞれ反撃させる間もなく、二匹を沈めた。

 両者の自力に大きな差があったとは思えない。


 しかしシンバは無傷。


 無傷で二匹の暴食種を倒してしまった。

 流石はリーダーと言ったところか。


「師匠、怪我は・・・?」


 一応確認してみる。見えないところを痛めてるかもしれない。


「なんともねぇよ、ハレ太それよりだな」


 シンバは俺を見た。


「なんでそいつがここにいるんだ」

「にょおん♡」


 厳密にいうと俺の肩にのったふっさを見た。


「いや、ついてきてしまったというか・・・」

「ついてきてしまったじゃねぇよ。遠征戦だぞ。分かってんのか」

「す、すいません・・・」

「にょ、にょおん・・・」


 ふっさは俺の後ろに隠れるように頭を下げた。


「そこまで怒らなくてもいいじゃないですか・・・ねぇ、早希ちゃん」

「え、ええ・・・そうね」


 すかさず美麗が宥めた。

 同意を求められた早希は目を泳がせながら曖昧な返事をした。

 俺は知ってる。

 ふっさをつれてきたのは俺じゃない。

 早希(そいつ)だ。

 そこで目がバタフライしてるお前だよ、お前。

 俺が見ると早希は全速力で目をそらした。


「ちっ」


 シンバの苛立ちが最近目立つ。

 どうにもふっさに対してあたりが厳しい。

 ふっさの親が暴食種だからだろうか。

 かわいい子猫に対して何をそんなに怒る必要があるんだ。


「にょ、にょお~ん・・・」


 心なしかふっさも哀しげだ。



「ハレ太・・・あんたケガしてるわ」


 帰りのバスに乗る直前、早希が俺の頭から流れる血に気づいた。


「あ、悪い」

「にょお~ん」


 ふっさが心配そうな声を上げて俺の頭をペロペロと舐めた。

 その直後の事だった。


「グルルル!!」


 耳元から聞いたことのないような獣の声が聞こえた。


「うわっ」


 思わず俺は身を屈めた。


「え・・・」


 何が起きたか理解するのに時間を要した。

 ふっさがいない。

 だがふっさの代わりに俺の後ろには立派なたてがみを持った一匹のライオンが立っていた。


「ふっさ・・・なのか?」

「グルルルル!!」


 頭の中で仏子が、美麗が散々説明した、解説がぐるぐると回った。


 暴食種。

 人間の血肉を摂取することで強靭な肉体を手に入れた‘‘奴ら‘‘の最強種。

 普段は一般的な動物と判別がつかないが、戦闘時は身体を強靭に活性化させ襲い掛かる。


 暴食種化。

 暴食種が戦闘時に身体を強靭に活性化させる変身の事。


 まるで今のふっさを指してるみたいじゃないか。

 なぜふっさが・・・。


「遺伝・・・?」


 暴食種の特性のみが?

 そんなことあるのか?

 普通の子猫だったふっさが・・・。


「・・・」


 瞬時に気持ちを切り替える。

 始末をつけるのは俺だ。

 静かに左手で刀の鯉口を切った。

 チャキ・・・。

「・・・」


 だがすぐさまもう一つの疑念が生まれた。

 そうだ。

 通常のふっさは人を喰うそぶりは一切見せなかった。

 今朝もお魚を美味しそうに食べてたんだ。

 今、ふっさは猫型の暴食種と同じ姿をしているが―――。

 人は、喰わないんじゃないか・・・?


「ぐるるる・・・」


 よく見ろ。

 襲い掛かってくる気配はないんじゃないか。

 良く観ろ。

 俺の目を見るふっさの目に―――


「敵意がない・・・!!」

「本性を現しやがったか」


 チャキ・・・と背後から刀を抜く音が聞こえた。


「師匠!待ってください!!」

「てめぇ何言ってやがる・・・」


 シンバは俺を冷たい目で見つめた。

「師匠・・・!」


 あの目は見たことがある。

 父の眼だ。

 父が俺を蹴りながら向けていた眼。

 侮蔑の眼だ。


 シンバはそのままふっさの方を向き、刀を振り上げた。

 ゆっくりと、すぅっと掲げられた刀は、突然躊躇なく振り降ろされた。


 ガキィン!!


「何のつもりだぁ、ハレ太・・・」

「待ってください師匠、ふっさは人を襲いはしません・・・!」


 気纏と先眺眼を発動。

 俺は両手で支えた刀でシンバの一振りを受け止めた。

 ぎしぎしと全身の筋肉が軋む。


 重い・・・。

 こっちは気纏を発動しているというのに・・・。


「どかねぇかハレ太。そいつに敵意があろうとなかろうと関係ねぇ」


 俺の背中に怯えたように隠れるふっさを、シンバは一瞥した。


「獅子神輿」


 ドカッ。


 蹴り飛ばされた俺は自分の目を疑った。

 シンバはふっさを斬るべく能力を発動し、無抵抗のふっさに向かってから―――


(((ふっさを突き刺し殺す)))


「やめろぉおおおああああ!!」


 真横からシンバの太い刀剣をたたき落とすべく、全力で刀を振り下ろす。


 バシィ!!


「グウッ!!」


 刀の峰がシンバの腕を捉え、握る刀がガシャンと落ちた。

 間に合った・・・。


「てめぇ・・・!!」


 シンバが俺に向けて殺気を放つ。

 眼が血走っている。


「ンッ!!」


 刀を振り下ろしたまま俺は右ひざでシンバの頭を刈る。


 バキッ。

「グハァッ・・・!」


 シンバの膝がガクンと落ちた。


(((そのままフラフラと倒れようとするも、なんとか持ちこたえる)))


 チャンスだ。

 このまま気絶させて終いだ。

 シンバの言いたいことは分かる。

 暴食種化した以上、人を殺す力を持ったふっさは危険だという意見はよぉく分かる。


 だがふっさが人を襲わない以上、話し合いでなんとか解決できるはずだ。

 今回の遠征はひとまず中止。まずは皆で基地へ戻って―――。

 その時だった。


 先眺眼で捉えていたシンバの未来の影がぶれた。


「え」


 バシン!!


 止めを刺そうとするべく放った右ひざ蹴りはシンバの右腕に受け止められた。


「なっ・・・」


 ドゴン!!


 腹部に気が遠くなりそうな衝撃が襲った。

 おもわずうずくまり一瞬動きが止まる。

 すぐさま背中を掴まれ、宙でおもいきり蹴りを喰らった。


「う・・・ぐっ」


 咄嗟に練気を集中させて外傷を軽減させるも、まともに一撃が入った腹が激痛に襲われる。

 着地してその場に膝をつく。


 強い・・・。

 先眺眼を使ってこれか・・・。

 ていうかなんなんだ今のブレは。

 ふっさは俺の元にかけよるとぺろぺろと大きな舌で俺の顔を舐めた。


「ふ、ふっさ・・・」


 やっぱりふっさは自我を保っている!

 殺す必要なんかないんだ。


「シンバ!やりすぎよ!!」


 美麗が割って入るも、シンバは考えは曲げないと言わんばかりに刀を突き出した。


「どけぇ!!ハレ太!!」

「ぐるるる・・・」


 ふっさは威嚇しながら牙を露わにした。

 親と同じ、白い大きな牙が口元から覗いている。

 それを見て早希と美麗が思わず柄に手を掛けた。

 二人とも・・・ちくしょう。


 何見てきたんだお前ら。

 ふっさが人を襲ったりするもんか。


「ふっさは・・・誰も襲いなんかしません。ハァ・・・今も師匠が刀を向けているから威嚇しているだけです」

「まぁ・・・そうだろうな」

「・・・は?」

「でもなハレ太・・・仲間に何かあってからじゃ遅ぇんだよ。そいつは今だけ大人しいだけかもしんねぇ」

「その時は俺が責任を持って」

「ハレ太、お前が何と言おうと、仮にそいつが人を襲わないとしても、だ」


 その次の一言で、俺は再びシンバに飛び掛かった。


「こいつは殺さなきゃいけねぇんだ!!」

「この分からず屋がぁああああああ!!」


 俺は全力で気纏を発動した。

 体に纏う練気は増やせば増やすほど身体能力が上がる。

 だが同時に燃費も悪くなる。

 今はどうでもいい。


「なっ・・・」


 パァン!!


 うつ伏せの体勢から最小限の動きでシンバの頬をはたく。

 うまく意表を突けた。

 いける。

 先眺のブレもないい。

 俺はシンバの額をがっちり掴んでそのまま勢いよく地面にたたきつけた。


 ドゴォ!!

 地面とシンバの頭が衝突する激しい音が響いた。


「・・ア・・・ガッ」

「シンバ・・・」


 シンバはそこから反撃することはなかった。

 が、美麗がかけより数秒後ふらふらと立ち上がった。


「っくそが・・・」


 そのままヨロヨロと、一人でバスへと乗り込んでいった。

 それを見て美麗が申し訳なさそうに言った。


「ハレタ君、嫌いにならないでください・・・。シンバは基地の皆を護る為に・・・」

「分かりませんね、あんな分からず屋」


 バチン。

 横から早希に頬をはたかれた。


「馬鹿ね、あんたもリーダーも」


 うるせぇよ。

 黙れよ・・・。

 あれだけかわいがってたふっさに怯えやがったくせに。


「・・・」


 俺の‘‘眼‘‘に早希は若干たじろいだが口は閉じなかった。


「・・・今、暴食種に襲われてたらどうするつもり?」


 チクリと胸が痛んだ。

 今襲われたらかなりまずい。

 言われてみれば・・・自殺行為だ。

 ポン。

 その時ふっさが音を立てて元の小さい姿に戻った。

 ・・・血の効力が消えると元の姿に戻るのか。

 よかった・・・。


「ごめん・・・」


 視界が急にぐらついた。

 気纏の反動か・・・。

 そんな俺を見て早希がサッと肩を貸してくれた。


「あんまり心配かけるんじゃないわよ」

「ごめん・・・早希ちゃん」


 その日の帰りのバスの中は、これまでで一番重い空気に包まれた。




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