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ヒトクイー暴食種狩りー  作者: 太陽に灼かれて
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間話「老師内田の専門分野」

ブンブンと木刀を振り回す音が訓練室に響いていた。


「ハァッ!!」

ブンッ!!


「スラァアアアアッ!!」

ブンッ。


彼の名前は曙ハレ太。

20度以上の出撃を経て、つい先日刀匠級の権利を手に入れた一人の戦士である。


「よくやるわ・・・」

「あんちゃんは内爺に相当鍛えられてるからねぇ・・・あっ、ババだ」


訓練室の隅に置かれた机の上でトランプを囲む4人、

葛西早希、藤司要、早川せりな、田古里東吾は剣の修行に励むハレ太に時折目をやりつつ談笑していた。

ハレ太とせりな、東吾が転移して半年。

基地内で年が比較的近い彼らは、暇な時間があればこうして集まるのが日課になっていた。


「にしてもあいつが半年で刀匠級になるなんて・・・」

「あんちゃん、初めは弱かったのにねぇ」


転移当初、地理を知るハレ太はその致命的な弱さを抱えつつも遠征戦に何度も駆り出された。

さらに内田の修行の一環として、基地外へ一人、何度も放り出されたこともあった。

内田の保護の元、実戦に次ぐ実戦。

そして修行。


命懸けの日々は彼を瞬く間に刀匠級へと成長させた。


「老師・・・・俺は元の世界に帰ります」

「ふぉふぉふぉ・・・」


が彼は内田に鍛えてもらったにもかかわらず、刀匠級になった途端元の世界に帰りたいと明かした。

実際、迎撃戦のメンバーの中には運よく刀匠級に覚醒し元の世界に帰った者が多くの犠牲の上にわずからながらいた。

数か月に一度現れる転移者達や迎撃専門の兵達はその姿をみて希望を確かにしていた。

内田は彼の願いを止めなかった。


「ハレ太君・・・往くのを止めはしませんが、その前に少し私の話を聞いて頂きたい」

「はい・・・?」


語られたのは内田の殺し屋としての過去だった。


内田惣一郎はその世界の界隈で暗殺の達人と呼ばれる天才である。


高額な報酬、地位、絶対的自信。

青年期、彼の若い自尊心はそれだけで満たされるに十分だった。

実績があったからだ。

多大なる自尊心に見合う程の、自他ともに認める実績があったのだ。


だがその地位と名声も、齢が60を超える頃には無意味に思えた。

街中で見る幸せそうな夫婦、無邪気な子供の笑顔を見て、心底恨めしく思うようになった。

そんな時、転移に遭った。

既に隠居した彼は再び戦いの世界に舞い降り、

殺しという技術(わざ)は再び活躍の場を得た。


しかし体は全盛期をとうの昔に終えている。

元の世界に比べるとやはりギリギリの死がまとわりつくのは仕方のない事であった。

また幾度となく死線を乗り越えた経験も、襲い掛かる圧倒的な‘‘敵‘‘の数の前では無力。


こんな所で死ぬのはごめんだ、と。

刀匠級の権利を手に入れ、早く元の世界に戻るのだ、と。

その一心で戦い続けた。



だが、彼はこちらの世界でそれまで触れることのなかった人の優しさに触れた。


一人食事をとる彼に一人の男が一緒に食おうと誘った。

戦うことが出来ず基地内で食事を作ることを仕事とする腰の曲がった老婆が、好きな食べ物はなんだ、作ってやるから教えろと言った。

何も知らない子供が、戦いの後無邪気な笑顔で水を差しだした。


ただそれだけ。

だがそれは生涯触れることはないだろうと思っていた温かい何か。


ふいに手にした温もりを大事に守ろうと彼は決意した。

そして確固たる目標が出来た。


「夢の少女を倒し皆で元の世界に戻る」


老いた練兵が鬼神の如き能力を手に入れるのはその決意の後の事である。



「老師・・・。俺は・・・」

「わかってます。帰りたければ、帰ってもいいのです」

「俺は・・・」


唇をかみしめ、押し黙るハレ太に内田は言葉をつづけた。


「ただ・・・基地内で私達に食事を提供してくれる彼女ら、刀をなくしてしまった人たちはもう自らの力では帰れません」

「それは分かってます。しかし・・・」


自らが助かりたいと思うのは悪い事ではないはずだ。

そう考えていたハレ太は、次の内田の言葉で頭の中に描いた多くの言葉をかき消した。


「私達だけです。あの人たちを救えるのは」

「・・・」


ガン、と後頭部をバットで殴られたような衝撃がハレ太を襲った。




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