プロローグ
長い長い、夜の事だった。
【営業が終了した、ビリヤードバーの薄暗い明かりに照らされた卓上に制服を着た女が手を付いていた。
「あんっ・・・んっ・・あああっ」
パンッパンッと肉がぶつかりあう音を聞いて女はさらに綺麗な背中を大きく反り、自ら腰を振った。
ぐりぐりと中で激しくこすり合う度に女は悲鳴にも似た声で喘ぐ。
「オーナーぁ・・・だめぇっ・・・」
自ら気持ちよさそうに腰を振る彼女の姿は男のモノをさらに膨張させた。
自然と後ろから突く激しさも増す。
パンッパンッ!!
「あああうっ!んんっ・・・いっちゃう・・・」
「いきたいの?」
急に突くのを止めて彼女の耳元に後ろから囁くと、女は頬を真っ赤に紅潮させた。
「オーナーの、ばかぁ・・・あぁっ!」】
【106077字】
「いいぞ、この調子でいけば来月の締切には余裕で・・・」
画面の左下に煌々と輝く文字にニヤリと笑みを浮かべた。
ヘッドフォンを外しながらググッと背筋を伸ばす。
俺の名前は曙ハレ太。
見ての通り官能小説家だ。
まずは挨拶といこう。
さて、
エロ小説と勘違いした男性諸君。
申し訳ない。
ティッシュを所定の位置に戻してパンツを穿いてくれ。
そしてタイトルの刀匠級から少しでも
興味を持ってこのページを開いてくれた
純粋な少年少女達。
今から君たちに話すのは、
俺が約半年前に体験した
不思議な不思議な世界の物語―――。
誰に話したところで信じてもらえないような非現実的な話だ。
よってそれをここにその物語を記そうと思う。
その前に俺の事を話そう。
俺は高校一年生の頃、
不思議な世界に迷い込む前に、
新人賞を獲った。
独学で書き始めた日記に近い俺の小説は
初めは荒唐無稽なものだったが
それも数年続けた頃―――
高校一年生になるころには商品として成り立つものには成長したらしい。
応募した作品が新人賞を受賞し、めでたく高校生作家としてデビューすることになった。
そして俺は官能小説を書き続け
―――と、自分語りはここまでにしておいて。
さて。
用意はいいか?
物語に戻ろう。
あの不思議な不思議は物語はそう―――
高校三年生の長い長い、
あの、夜から始まった。。
ダダダダダダダダン!!
「―――ふぅ」
約一時間響き続けたガトリング音のようなタイピング音が鳴り止んだ。
ギシ・・・と背もたれに深く体重を預け、目がしらを押さえる。
あぁ、疲れた。
新人賞を獲ってからと言うもの、仕事の依頼は数多く舞い込んでくるようになっている。
コラムに、インタビューの返答、新連載・・・。
特に新連載の執筆。
嬉しい事だが何よりこれが苦しい。
身体にドッと疲れが来る。
小説家であるためには体力が要る。
日に6~7時間机に向かい続けてもぴんぴんしておけるほどの体力が要る。
だが俺の場合、せいぜい5時間が限界だ。
身体にすぐ疲れドッと押し寄せる。
一番疲労を主張するのは脳だ。
脳、と言われるとピンと来ないかもしれないが
どちらかと言うと計算問題を解き続けているときの疲労に近い。
パソコンに向かう頭を使う作業を無理に続けると、徐々に頭がぼうっとしてくるのだ。
脳の重さは全体重の2%しかないが、エネルギーの消費量は全体の25%だ。
異常な燃費の悪さである。
そのエネルギーの消費量から「脳は大食い」と格言が出来るほどだ。
また,人の身体は
タンパク質、
脂肪、
炭水化物、
ビタミンなど、
数多くの栄養素を必要とするが、脳が働く為に必要とする栄養素は
「ブドウ糖」
これだけである。
偏食の激しいヤツだ。
なんにせよ、脳は直ぐ疲れる。
その為に大事なのは糖分をしっかり補給して、
温かい飲み物を飲む事。
「ズズ・・・」
俺はマグカップに入ったホットミルクを飲みながら、
明日のスケジュールを頭の中に思い浮かべた。
まず起きて・・・学校。
行きたくないな。
学校に友達はいない。
こんなことしてるから当然か。
まぁいいか。
紙と鉛筆さえあればどこでも執筆が出来る。
執筆が出来るから・・・寂しくはない。
放課後にはこの原稿で編集の方と打ち合わせだ。
そうだ、いっその事喫茶店にでも行っておしゃれに打ち合わせをしようか。
「うん・・・そうしよう」
マグカップから出る白い湯気を燻らせながらつい先ほどガトリングタッチで仕上げた原稿をプリントアウトする。
それを大事に大事に封筒に入れて、ぐっすりと眠りについた。
ちなみに官能小説とは何か?
そんな疑問があってもおかしくはないのでここに記そう。
官能とは感覚器官を通して得られる快さ、
単純に言えばエロいという意味を表す。
まぁつまりは―――
分かりやすく言おう。
俺はエロ専門の、
高校生作家だ。