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劃作


人間、誰しも幸福でありたいと願い、それに応じた行動をとる。

それは自らの夢を叶える事や、人を愛し愛される事である。


しかし、そこに本当の幸福はあるのだろうか。


そもそも、人間等という生物はどこまでも軽薄で不公平、嫉妬深く気紛れで偏見に溢れている。

他人が困っていれば「心配だ」と口にするが、最早ソレは口任せでしかなく、心の底では人の不幸を嘲笑っている生き物だ。


では、人間にとって本当の幸福とは何か―



遥か昔、グラズヘイム王国に最初の魔導師が生まれた。

彼が妙齢に達した頃、自分以外に不思議な力を持つ者が一切現れない事に疑問を持った。

何故、自分と時間を共にしてくれる者が居ないのかと―

彼はその日から長い時を研究室で過ごした。

どうすれば自分と同じく不思議な力を持つ物が生まれるのか。


研究に研究を重ね100年の月日が流れたある日、遂に彼は1人の魔導師を誕生させるのに成功した。


2人は持ちえた力で多くの人々の生活を快適にし、国を守る枢となった。


彼は満足だった。


誰もが彼を慕い、尊敬し、これからも多くの研究で世界を発展させていくものだと疑わなかった。

けれど、彼は成功から半年も経たない内に自ら命を絶ったのだ。

それを知った人々は皆首を傾げた。

何故、彼が―と。


僕も話を聞いた時は首を傾げた一人であったが、今なら解る。


彼にとって幸福とは―

考える事、語る事、成す事、新しい発展に身を投じ、絶え間なき永遠の追及にあって、発見ではなかったのだ。


それはきっと、誰しもが同じで、人間は探究心を忘れてはならないという教え。

もし忘れる事があれば、それは緩やかな死に近付いている証拠だ。


幸福の敵は、苦痛と退屈である。


何も変わることない日常に満足せよ。そうすれば幸福は訪れる。


そしてその幸福を手放したくないのであれば、小鳥の様に捕まえておけばいい。

出来るだけそっと、緩やかに。

小鳥は自分が自由だと思い込んでいれば、喜んでお前の手の中に留まるだろう。


だが忘れるな。

幸福は蜜のように甘い夢であり、苦痛こそお前が生きるべき現実なのだ。







*********************************


天空の国(ビルスキールニル)直下、エイル・ウナヴァーガル邸―


エイル街から一本道で繋がる海上に建てられたウナヴァーガル邸は、主に聖騎士達の定例会議で使用されており、水の都と言われる街のシンボルの一つとして相応しい、白い外壁に背の高い窓ガラスが嵌め込まれ、赤茶色の屋根には時折海鳥が羽を休めている。

会議のない日等は一般開放され、数多く展示された絵画や宝飾類を観に多くの人が観光に訪れたり、フィスティバル会場として使用される屋敷だが、本日は10年ぶりに聖騎士ではなく各国の王が集う為、屋敷への道は一般閉鎖されているかと思いきや、観光客の姿が数多く見える。かといって王達の控える部屋に近付ける訳はないのだが。

そんな立ち入り制限のかかった3階の廊下では、仮面を付けた銀色の髪を持つ男が日の差し込む通路を優雅に進み、いくつもの同じ扉が並ぶ中、迷いなくその中の一つの前で立ち止まるとノックした。

そこは大勢の客が下の階に集まっているというのに対し、嘘の様に静寂に満ち、ノック音すら廊下に反響するほど。

反応もなく、あまりに静かなのでここには誰も居ないのではないかと思われたが、男がそのまま数秒待つとカチャっという鍵の開く音の後、ゆっくりと扉が開かれ黒い軍服を着た青年が姿を現した。


「どちら様でしょうか。我が主は長旅でお疲れの為休んで居られます。ご用でしたら私が承りますが。」

「ならば彼にお伝え下さい。ご要望通りに伺いましたと。」

「”彼”、いったい貴様は何様のつもりで我が主を―!」


仮面の男の言葉に声を荒げた青年だが、突如肩に置かれた手によって先を口にする事は無かった。

手の持ち主はというと、青年の開けたドアの隙間から顔を覗かせるとそっと笑みを浮かべ仮面の男を招いた。


「僕の騎士が失礼な事を言ってすまない。しかしココを尋ねるならば事前に知らせて欲しかったよ、アルファズル。」

「それは気が利かずに。けれど私を呼んだのは貴方ですよ、櫁さん。」


お互い笑みを浮かべながら部屋の外で話すのも―と思い、櫁はドアを大きく開き仮面の男を中へ招いた。

部屋は予想以上にシンプルだった。ゆったりと寛げる白いカウチにセットのローテーブル、観葉植物。黄金で飾られた窓。王が使うにはお粗末な部屋だったが、彼は態々この部屋を選んで使用していた。


「意外だって顔をしているね。」

「おや、判りますか。」

「確かにこの部屋はフィスティバル開催者の休憩室に使用される場所だ。でも、そこがいい。」

「と、言いますと?」

「普段余りに広い城で余りに広い部屋に一人で居る。だから、偶にはこういう場所で過ごすのも良いと思ってね。」

「もちろん、それだけではないのでしょう。」

「君は意地が悪い。」

「貴方程では。」


口元を僅かに上げるだけの表情に紅茶を運んで来た青年は寒気を覚えるも、特に口出しする事無くカップを置くと櫁からのアイコンタクトを受け、部屋を辞した。


「出来た騎士ですね。お名前は。」

「聖だよ。元々は月に仕えたいと望んでいたけれど、他の聖騎士に負けて荒れていた所を拾った。」

「何が貴方を引きつけたんですか。」

「彼が内に飼っている獣に。」

「獣・・・ですか、それはまた恐ろしい。それで、彼を巻き込んで何をしようと企んでおいでですか。」


アルファズルの問いに、一瞬無表情になるも直ぐにいつもの笑みを浮かべて1枚の写真をポケットから差し出した。

写るのは白いワンピースを着た少女。


「君は彼女を知っているね。」

「ええ、知っていますよ。」

「アレは何者だ。」

「何者、と仰いますと?」

「彼女はまるで世界の創造主の様だ。僕と話す時、全てを知った上で物事を語る。僕の感覚は正解であり危険でもあると。それが何を意味しているかを僕はまだ知らないし、知る事が出来るのかすら不明だけれど。」

「何れ知る事になりますよ。」

「必要な事としてかい?」

「さて、どうでしょう。」

「彼女の話では僕はそう長く生きられないらしい。」

「それも、これからの貴方の在り方次第。この世に絶対などあり得ないのですから。」


アルファズルの全てを見通す笑みに自分の機嫌がどんどん落ち込むのを感じたが、今騒動を起こせばどうなるかなど想像に容易い。だが、どうにも気を収める事が出来ない。本当は男を殺してしまいたいところではあるが、番人を殺せばどうなるか等想像もつかない。


気付けば僕はアルファズルの顔目掛けて紫電を放っていたが無意識に手加減はしていたらしく、仮面は粉々に砕けてしまっていたが額の傷口から一筋の鮮血を流す程度だったようだ。

その光景に少し気分が落ち着くと紅茶を一口含む。少し冷めた液体は心を満たすまでには至らなかったが、飲まないよりはマシに思えた。

眼の前の男の顔は長い髪に隠れて見えない。見る気も起きない。しかし、僅かに見える口元には不気味な笑みが浮かんでいる。

きっと、男の本質は僕と同じなのだろう。


「気は済みましたか、闇の王。」

「済んではいない。けれど、今番人殺害という問題を起こすわけにはいかない。」

「そうですか。」

「君には頼みたい事があるしね。」

「さて、どのような事でしょう。」


額の血を拭い、新しい仮面をフロックコートから取り出し被ってしまった顔からは最早何も読み取れない。いや、読み取らせることを許さない。それがアルファズルという男だ。

口元に笑みを浮かべていたとしても、腹の中では何を思っているやら。


「アルファズル、この国に天空の玉座を設けたのは何の為だ。グラズヘイムは天空の王国(ビルスキールニル)がなくとも回り続ける。現に天空の王が姿を消して何千年、シグルドリーヴァ帝国からの攻撃以外国内では何の問題も起きていないし、僕ら現5王が揃っている限り外界からの侵入を許す事もない。なのに何故?

長年考えた・・・5歳の時からずっと。

15になり、士官学校に通う事と図書館に通い続け2年後ようやく一冊の本を見付けた。天空の玉座に王が就いた時に書かれた物だ。それには運命(ノルニル)の糸。ユグドラシル。聖石。これらの単語が多く記されていた。だが、僕が知るのは聖石の存在のみ。他の2つに関しては一切の手掛かりすら得られなかった。けれど、あの少女―。彼女に出会い、手に入れてからほぼ毎日のように紡がれる唄。あれにヒントがあるのではと何度も聞いたし、何度も意味を問うた。その度彼女は言う。唄は聞く者が聴けば理解できると。」

「それで?」

「最初は意味が分からなかった。けれど何年も経つとある程度聞き取れるようになり、歌詞から一つの単語を導き出した。そして理解した。この世界の一部を。」

「一部、ですか。」

「僕にはまだ知らない事の方が多い。ただ、このままでいるつもりはない。」

「では、どうなさるのです。」

「最強を決める。天空の玉座を賭けて。」

「最強は決まっております。“海の王・月”―彼女こそ最強です。」

「まだ僕以外誰も聖石を使いこなせていないのに何故そう言える。」

「それは―」

「僕は世界を知りたい。例えソコにどんな結果が待ち受けていようとも。」

「何が貴方をそこまで動かすのですか。」

「さあ…。」


正直答えは出ていない。世界を知ってどうするのか。

今の自分には何もかもが足りない。

だとしても、このままでいる気はさらさら無い。

ソコに探し求めてきた答えがあるのなら。


窓辺に歩み寄り、幸せそうに歩く子供連れの母の姿が目に入る。


僕はソレを知らない。何故と言われば分からないと言うしかない。

でも、彼らだってそうなのだ。前王の朧だって・・・。


「僕は一体どこから生まれた。」


櫁の小さな囁きを耳にするものは誰一人としていない。

同じ空間に居たアルファズルさえも、その言葉を捉える事は出来なかった。


だが、彼のこの呟きこそ世界の全てを解き明かす鍵となる。

誰よりも愛を求め、愛を手放した彼だからこそ―



「それで、承認するのかい?」

「貴方が全てを知りたいというのなら、私は私に許されている限りの協力を致しましょう。」


仮面の男の言葉を受け取ると窓の外から視線を外し、他に何も口にする事無く静かに部屋を出ると扉の前で控えていた聖を伴い、会議の開かれる部屋へ歩み出した。







廊下には彼の靴音と、遠くでドアが軋みながら閉まる音が響いていた。



















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