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聖騎士との出会い



まだ幼かった頃、誰かに聞かれた事がある。


世界の『憎しみ』と『愛』を、それぞれ天秤に乗せたとしたら―

君はどちらに傾くと思う?


当時の僕は躊躇する事無く『愛』と答えた。

しかし、今となってはどうだ。

僕は迷いなく、『憎しみ』と答えるだろう。

何故、と他人(ヒト)は問うかもしれない。

確かに人は誰かを愛し、慈しみ、家庭という小さな集団を作り、子を成す。

愛は存在するのかもしれない。

ただ、どうだろう。

そこに一人の他人を入れてみよう。

立場はなんだっていい。

父親、母親、息子、娘。


するとどうだろう。

例えば義父親を招いた家では母親が男に気を使いすぎるが為に子供を蔑ろに。

義母親を招いた家では子供が懐かず引き篭もり。

また一方で、養子を招いた家では慣れない環境にたった独り。里親は癇癪を起こされノイローゼ。

たった一つ、不確定因子を入れただけで崩れるこの世界に存在する愛などというものは、最早まやかしでしかない。


だからこそ、僕は“愛”などというものを認める事は出来ない。


何故なら“愛”は、たった一瞬で“愛憎”という憎しみに変わる事が出来るからだ。

それなら、僕は“愛”などいらない。



欲しいのはただ、壊す力だけだ。











************************************


―ミョズヴィトニル歴1805年 夏―


新しい学校生活には慣れたものの、一般の学校とは違い魔力や剣技を身に着ける士官学校では優劣がはっきりと出る。この数ヶ月の中でも、騎士見習いの中には飛びぬけて優秀な者が一人出たらしい。名前は聞いたが忘れた。それに私は今自分の事だけで精一杯だ。何せ王のクラスでも格差は生まれてきているのだから。


次期“闇の王”-櫁。


入学する前から多くの魔法を操ったと聞く彼は、今や他の4人を圧倒する力をつけている。

彼は美しい外見とは違い、内にある凶悪な部分を体現するかのような魔法を幾つも使い、現王を悩ます種となっているが、櫁にとってはどうでもいいように見える。


私はといえば、魔力を維持する事さえ難しいのが現状だ。基本とされる、物を浮かせる事さえ出来ないのはクラスで1人だけとなってしまった。周りの皆は大丈夫だと慰めてはくれるが、果たして腹の中では何を考えているのか判らない。しかし、次期“光の王”である周だけは違うように見えた。

彼はどんな時であっても私の背中を優しく押してくれたし、支えてもくれた。もちろん、それは周だけではないのだが―。


「何を考えているのですか、月。」

「周、どうしたの?」

「いいえ。ただ、貴女が物凄く難しい顔をしていらっしゃるのでどうしたのかと思いまして。」


彼はそう言うと教室へ入り、私の机に優しい香りのするハーブティを置いて飲むように足した。

周の気遣いにほっこりとした私はお礼を言い、ティーカップに口を付けた。すると、不思議な事に悩みが吹き飛んでしまうのではないかと思う程気分がすっきりしたのだ。


「凄い・・・これも魔法?」

「違いますよ。ただのハーブティです。」

「でもすっごいスッキリしたよ。」

「本当ですか?それはよかった。」


紅茶をすっかり気に入ってしまった私は、静かに過ぎ行く午後のひと時を周と2人、穏やかに過ごしていた。

そんなゆったりとした雰囲気の所へ、彼は静かに現れた。


「こんな所でお茶会なんてしてないで、中庭の木陰へ行けばいいのに。」

「櫁!」

「こんにちは櫁。今日も女の子達からお呼び出しですか?」

「いい加減彼女達も諦めてくれると嬉しいけど。僕が興味あるのは月だけだ。」

「あら、私は興味ない。」

「相変わらず手厳しい。」

「櫁も月も、興味ないものには厳しいのですね。」

「そういう君だって。今日は呼び出しはないのかい?」

「生憎、私を好いてくれている子達は大人しいので。」

「嫌味のつもりかい、周。」


こんな些細な言い争いの中でも、周は櫁に私のとはまた違う茶葉を淹れてお菓子と共に勧めていた。私にはお菓子付きじゃなかったのに。

躊躇いもなく紅茶とお菓子に手をつける櫁の目を盗み、美味しそうなマフィンに手を伸ばすと、ばっちりと見ていた2人はクスクスと笑い出した。


「欲しかったら言えばいいのに。」

「駄目ですよ、月は食いしん坊さんなのですから。」

「だって美味しそうだったんだもん。お菓子があるなら私にも出してくれたらよかったのに。」

「すみません。どうおねだりをしてくれるか期待していたものですから。」

「それがこんな結果じゃあね。」


あまりの二人の言葉に絶句するも、やっぱり周の取り寄せているお菓子はどれも美味しくて、殆どを一人で平らげてしまった。

お腹も膨れてホッと一息吐くと、そういえば何の話をしていたのかと問われ渋々口を開く事となり―


「何だ、またそんな事で悩んでいたのか。」

「そんな事なんて酷い。そりゃ、優秀な櫁サンには解らないかもしれませんけど。」

「そういう意味じゃない。」

「じゃあどういう意味よ。」

「焦らなくとも大丈夫だって事ですよ。」

「周?」

「知っているかい月、彼の天空の王も学生時代は落ち零れだったらしい。」

「そうなの?」

「あぁ、当初彼は次期最弱の王に完敗していたそうだ。」

「なのにどうして?」

「何時の時代の王も当初、第2王権者や第1王権者になる者達は最弱だった。魔法も麓に扱えず、使役するものには反発され幻獣を召喚する事も出来ない。それでも彼らが4~5年目を迎える年には必ず大躍進が訪れた。その光景は見るものを圧巻させると云う。」

「見るものって?」

「私達も4年になると騎士見習いのように四回はやらないものの、年に二回お披露目を兼ねて闘技大会が開催されるのはご存じですよね?」

「うん。入学の時に湊様が言ってたやつでしょ?」

「そう。彼らはその闘技大会で初めて巨大な魔力を放つ。誰も見た事のないような美しい魔法をね。」

「でも、どうしてそんな強い人達の魔力はすぐに現れないの?」

「さぁ、もしかするとまだその身体では受け止めきれないからかもしれませんね。」

「何を?」

「膨大な魔力さ。僕はもう身長も体重もこの数ヶ月で随分増えたけど、君は殆ど変わってないだろう。」

「うーん、だから?」

「魔力が強いものは、それに従って成長が遅い事が多いのです。ですから、櫁と月は比較的私達の中では小さいのだろうと思いますよ。ただ、櫁の力は例外だと思いますが。」

「そんなものなの。」

「そんなものです。」

「そっか。周が言うなら信じる。」

「・・・僕の発言はなかった事にされているのかな。」


櫁の苦言を漏らすような言い方に周と2人で思わず噴出してしまうと、釣られるように櫁も珍しく笑っていた。

お腹が痛くてたまらくなった時、吃驚した顔でクラスに入ってきたのは現“海の王”、湊様だった。


「これはこれは…皆さん、楽しそうですね。」

「湊様、煩かったですか。」

「いいえ月、本日は貴女に個人的にお話があって参りました。」

「私に、ですか。」

「はい。お時間を頂けますか。」

「もちろん。」


と、快く言ったものの、私の心臓はもう口から飛び出して破裂してしまうんじゃないかと思う程バクバクしていた。掌は尋常じゃない程汗を掻いているし、背中にだって洋服にシミが出来てしまうのではと疑ってしまう程冷や汗を掻いている。

正直に胸の内を言うならば、絶対退学させられる。

2人の言っていた事は飽くまで今までの歴代の王の話であって、決して私の事ではない。こんな話をしていた時に限って何故湊様は私の前に現れたのだろう。頭の中はそれで一杯だった。だからだろうか、何時の間にか止まっていた王様の背中に思いっきり頭突きをかました上に、衝撃で後に倒れてしまったのは。


「大丈夫ですか、月。」

「あー・・・はい、大丈夫です。」


涙目になりながらも何とか返事をすると、私達は何時の間にか中庭に来ており、更に湊様の隣には騎士見習い1年生の格好をした男の子が吃驚した様子で立っていた。

こちらも彼の存在には吃驚で、体制をそのままに芝生の上に座り込んでいると湊様が呆れたように微笑みながら手を差し伸べ、立ち上がらせてくれた。


「紹介しましょう。彼の名前はルカ、騎士見習い1年生です。」

「あっ・・・どうも。」

「ルカ、こちらは私の後継者で次期“海の王”、月です。」

「・・・。」


無言。普通は”はぁ”とか、”どうも”とかでも返すものではないだろうかとしかめ面をすると、湊様は困ったように笑いながら私に問いかけた。


「月、彼の噂はご存知ですか。」

「噂?」

「彼は1年生にして先日の摸擬戦で3年生相手に圧勝した天才です。聞く所によると彼は将来“海の王”に仕えたいとか。なので、本日は貴女へ紹介をと、お時間を取って頂きました。」

「態々ありがとうございます。」

「ルカ、仏頂面をしていないで何かおっしゃったら如何ですか?」

「申し訳ありません湊様。しかし、俺はまだこの女を“次期海の王”と認めた訳ではありませんので。」

「はぁ?」


目の前の自分と同い年である少年の発言に、私は吃驚して思わず声を荒げてしまった。

それはそうだろう。彼は自ら海の王に仕えたいと言った口で、次期海の王となる私を認めないと断言したのだ。そんなの理解しようにも出来るはずがない。だというのに、彼はさも当然だというように腕を組み、こちらを睨みつけるように立っていた。

湊様も吃驚して目を見開いたまま固まっている。


まさか将来部下になりたいと望んでいる人間にこんな事を初対面で言われるとは―。


ふんっ。と鼻を膨らませ仁王立ちする男に苛立ちが募る。だが、今までの学校生活において次期王たる私にこんな無礼を働く者は誰一人として居なかった。そのせいか、私は少年に興味を抱いていた。

彼ならもしかすると立場など気にする事無く、王となった私に最適な意見を与えてくれるかもしれない存在になるかもしれない。

考えれば考える程、少年が欲しくなり私は確信的な一言を笑みを浮かべながら口にしていた。


「なら、お前は私がどうなったら仕えてくれる?」


湊様はもう2人が主従の関係になることは難しいだろうと思っていたのだろう―。私の一言に大きく目を見開き、ポカンと口を開けていた。

一方でルカは口元に笑みを浮かべると告げたのだ。


「俺より強く、誰よりも賢い王になれ。そうすれば仕えてやる。」


普通の王ならば不敬罪で彼を牢に繋いだだろうが、残念な事に私は違ったようだ。ニヒルな表情のルカに声を上げて笑うと宣言した。



「良いだろう。ならば、私は第2王権者を継ぐ“海の王”となる事を誓う。そしてルカ、お前を我が聖騎士に。」

「月、それは―」

「忘れるな騎士見習いよ。私が最上位の王となった時、他の誰に仕えたくともお前は私に仕えるのだ。永遠に。」

「臨むところです。現最弱の王様?」



こうして、私とルカの最悪の出会いは果たされた。

残念な事に、ルカは騎士見習いとして初の懲罰を私への不敬罪で湊様より与えられたらしい。にしては随分と可愛らしい内容だ。まさかあの仏頂面で庭の水撒き1ヶ月とは。


案の定、むくれた顔で色取り取りの花に水をやるルカを見た者達は彼を指差して笑ったが、私はそんな事はしない。だってお前は、私の聖騎士になるのだから。








「ふぅん…。」





思いもしなかったのは、この出来事を愉快そうに見つめる男が居た事。

そしてこの男こそが、今後グラズヘイム王国だけでなく、世界を混乱に貶める存在となることを彼以外が知ることはなかった。


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