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第七話――第二層

階段を降りた瞬間、空気が変わった。


熱が、重い。


肺に入るたび、じわりと焼けるような感覚が残る。


天井は低くなり、通路は迷路のように入り組んでいる。


壁の亀裂から溶岩が滲み出し、赤い光が脈打つように明滅していた。


足音が、やけに響く。


静寂ではない。


これは、“潜んでいる”静けさだ。


「数、増えてるにゃ」


ケットシーの耳がぴくりと震える。


次の瞬間。


岩陰から飛び出したのは、溶岩トカゲ。


全長二メートル。


体表は赤黒く、所々が白熱している。


口を開いた瞬間、火花が散った。


「来る!」


ナーシャは杖代わりの短剣を構える。


「闇魔法――シャドウボルト!」


黒い閃光が走る。


直撃。


鱗が弾け、HPが削れる。


だが一撃では落ちない。


背後。


岩が動いた。


壁だと思っていた塊が、ゆっくりと立ち上がる。


岩殻ゴーレム。


全身が岩盤で構成された巨体。


目の部分だけが、赤く光っている。


「挟まれたにゃ!」


まずい。


古代魔法だと1回しか使えないMP残量だ。


ナーシャは息を吸う。


「闇魔法ーーエンチャント」


MPを削り、短剣に闇を纏わせる。


刃が黒く染まり、薄く煙のような魔力が揺らめく。


消費は少ない。


大丈夫だ。慌てず一体ずつ処理していけばいい。


溶岩トカゲが跳躍。


横薙ぎの炎ブレス。


地面を蹴る。


敏捷を活かし、炎の下を滑り込む。


熱が頬を焼く。


HPがじわりと削れる。


だが止まらない。


懐へ。


闇を纏った刃を、首元へ突き立てる。


硬い。


だが、通る。


内部で闇が炸裂する。


溶岩トカゲが崩れ落ちる。


直後。


ゴーレムの拳が振り下ろされた。


轟音。


地面が砕ける。


衝撃が足から頭まで突き抜ける。


「っ……!」


ギリギリ回避。


遅れていたら即死圏内。


「主様、右肩が核にゃ!」


ケットシーの声。


ゴーレムの肩。


わずかに色が違う。


赤く脈打つ、亀裂。明らかにここを狙ってくださいと言わんばかりに。


「了解!」


闇魔法を連射。


シャドウボルト。


シャドウボルト。


核に直撃。


ヒビが広がる。


だがMPはこれでほぼ0。


使い切った瞬間、体が重い。


MPが減るとペナルティもあるのか!

だが…


「これで終わり!」


最後は接近。


跳躍。


核へ全力の突き。


闇が爆ぜる。


ゴーレムが崩壊した。


岩の破片が崩れ落ちる。


静寂。


熱気だけが残る。


「はぁ……」


息が荒い。


汗が首筋を伝う。


だが、手応えはある。


「……悪くない」


単発火力は古代魔法。


継戦能力は闇魔法+エンチャント。


そしてケットシーの索敵と補助。


噛み合っている。


「むしろ、強いにゃ」


ケットシーが誇らしげに尻尾を揺らす。


だが。


視界の端のMPバーが、容赦なく現実を突きつける。


残量、ほぼゼロ。


第二層を抜けた時点で。


「……やっぱ燃費重いな」


喉が乾く。


魔力を使いすぎた後の虚脱感が、体の芯に残っている。


「主様、ボス戦前に少し休むにゃ」


その声は、真剣だ。


ナーシャは頷く。


通路の端。


比較的視界が開けた場所を選ぶ。


背を壁に預け、深呼吸。


MP回復は自然回復。


ゆっくりだ。


じわじわと、底から水が満ちるように戻ってくる。


その間も、ケットシーは動く。


耳を立て、周囲を警戒。


足音、振動、熱流。


わずかな変化も逃さない。


「主様、三方向は安全にゃ。奥だけ注意」


「頼りになるな」


「当たり前にゃ」


小さな胸を張る。


だがその目は、ずっと暗闇を見ている。


やがて。


MPバーが七割まで戻る。


これ以上は時間がかかる。


十分だ。


ナーシャはゆっくり立ち上がる。


「行くか」


第二層の終端。


巨大な岩扉が待っている。


その隙間から、赤い光が漏れている。


熱が、違う。


圧が、違う。


奥にいる。


このダンジョンの主。


ナーシャは喉を鳴らす。


恐怖と、高揚が混ざる。


「最深部だ」


ケットシーが、肩に飛び乗る。


「気を抜いたら即死にゃ」


「分かってる」


岩扉に手をかける。


押す。


重い。


軋む音と共に、ゆっくりと開いていく。


その向こうから、低い唸りが響いた。


地の底から響くような、重低音。


最深部へ。


二人は、足を踏み入れた。

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