第一話 魔族、はじめました
なろうのパスワードを思い出し、十年の時を経て、当時の作品を清書して再投稿してみることにしました。
かつて読んでくださった皆さま、お久しぶりです。はじめましての方も、どうぞよろしくお願いいたします。
あの頃はまだ学生でしたが、気づけば随分と時間が経ち、私自身の生活も大きく変わりました。皆さまもそれぞれの道を歩まれていることと思います。
拙い文章で、勢いだけで書き上げた作品ではありますが、当時読んでくださったことに心から感謝しています。
自己満足の更新となりますし、いつ止まってしまうかも分かりませんが、これからは無理のない範囲で、時折投稿していければと思っています。
改めて、よろしくお願いいたします。
俺は神崎鈴。
悪魔っ娘を愛し、悪魔っ娘を描き、悪魔っ娘に人生を捧げかけている中学三年生だ。
「この問題は、円周率を用いて——」
教師の声が遠い。黒板にチョークが走る音も、もはや環境音でしかない。
今日はそれどころじゃない。
本日発売。
フルダイブ型VRRPG――
『Parallel Universe World Online』
通称PUWO。
“もうひとつの世界を生きろ”をコンセプトにした、次世代VRゲームだ。
この学校は中高大一貫のエスカレーター式。内部進学さえ維持すれば受験戦争とは無縁。
つまり今、俺は人生で最も自由な夏休みに突入しようとしている。
そしてその初日に、PUWOが始まる。
運命か?
いや、神の配慮だろう。
⸻
「これで本日の授業は終了です」
「起立。気をつけ。礼」
「「ありがとうございました」」」
号令と同時に、俺は立ち上がるより先に鞄を掴んだ。
「おいリン! 当然行くよな?」
振り向けば、幼馴染の長谷川累。
筋金入りのゲーマーで、俺をこの沼へ引きずり込んだ張本人だ。
「当たり前だろ。今日を何ヶ月待ったと思ってる」
「だよな! しかも俺、βやってたからな? 情報アドバンテージあるからな?」
「うるせえ」
羨ましくなんてない。
……ほんの少ししか。
「ゲーム内での待ち合わせ、セントラル中央噴水な。俺のキャラ名ヒューガ」
「了解。俺は——まあ見れば分かる」
意味深に言ってみる。実際は何も決めていない。
⸻
帰宅すると、母が箱を差し出した。
「おかえり。買っておいたわよ、PUWO」
「神かよ」
「えー! 私もやる!」
横から飛び出してきたのは姉の蜜柑。
廃人ゲーマーのくせに成績はオール5、しかも無駄に美人という理不尽存在だ。
「明日ね」
母は即答。姉にだけ甘い。
家族は父、母、兄、姉、そして俺。
だが今はどうでもいい。
俺は箱を抱え、自室へ駆け上がった。
⸻
VRギアを装着し、ベッドへ倒れ込む。
「PUWO、起動」
音声認識。
わずかな振動。
視界が暗転し、ゆっくりと意識が沈んでいく。
身体が溶け、世界がほどける。
――そして。
⸻
<ようこそParallel Universe World Onlineへ>
中性的な声が、直接脳に響いた。
無限に広がる白い空間。
周囲には他プレイヤーらしき光の粒子が次々と現れている。
<アバターを作成してください。この設定は変更できません>
消せない。
いいだろう。
本気で行く。
<アバターネームを入力してください>
悩む。
だが凝りすぎるのも違う。
「リンリン」
<承認>
よし。
⸻
<種族を選択してください>
ヒューマン。
ビースト。
エルフ。
ドワーフ。
そして——
ランダム。
転生システムがあるとルイは言っていた。
上位種へ進化できるらしい。
だが。
俺は思う。
悪魔っ娘を愛する男が、安全策を選ぶのはどうなんだ?
「ランダム」
<確認しますか?>
YES。
一瞬の静寂。
<……種族【魔族】が設定されました>
心臓が止まりかけた。
「は?」
魔族。
まぞく。
悪魔側。
俺の理想。
ふざけんな。
最高か。
笑いが止まらない。
<初期ボーナススキル【解体技術】を獲得しました>
掲示板で一番人気のレアスキル。
運まで味方している。
⸻
<職業を選択してください>
表示されたのは一つだけ。
・小悪魔
魔力特化。
……狙ってるだろ運営。
「それで」
<設定完了>
⸻
ステータスが浮かぶ。
リンリン
種族:魔族
職業:小悪魔
Lv1
筋力:10
体力:10
耐性:10
敏捷:20
魔力:60
魔耐:40
運:20
バランスは無視。
「魔力に全振り」
魔力:70
迷いなし。
⸻
<初期スキルを選択してください>
火、水、土、光、闇、時空。
そして。
古代魔法:15
全部持っていく設定。
リスク高。浪漫高。
俺は即決した。
「古代魔法」
<エンシェントマジックを習得しました>
世界が一瞬、低く震えた。
周囲のプレイヤーがざわつく。
……演出か?
それとも。
⸻
<始まりの国【セントラル】へ転送します>
よし。ヒューガと合流——
<エラー>
空気が凍った。
<種族が魔族のため、セントラルへの転送は制限されています>
「は?」
<魔族専用都市【ヘルタウン】へ転送します>
待て。
俺、約束してる。
抗議しようとした瞬間、視界が白に染まった。
落ちる。
落ちる。
落ちる。
⸻
次に目を開けたとき。
そこは赤黒い空。
溶岩色の雲。
黒曜石の塔が林立する街。
広場の中央には、巨大な魔法陣。
そして周囲には——
角を持つ者。
翼を持つ者。
明らかに“人間ではない”存在たち。
俺のステータスウィンドウが、静かに光る。
種族:魔族。
セントラルには行けない。
つまり——
俺は最初から、人類側ではない。
胸が高鳴る。
恐怖?
違う。
歓喜だ。
「……最高じゃねぇか」
悪魔っ娘好きの俺が。
魔族で。
魔族都市スタート。
出来すぎだろ。
こうして俺の“もうひとつの人生”は、
人類未踏の地から始まった。




