屋上6
『あら??どうしたのかしら??』
彼女のその言葉で更に追い討ちをかけた。
最悪の状況。
それは自分の推理が間違っていたから。
しかし、すぐに思考を切り替える。
ここで腐ってはダメだ。
『いや…なんでもない』
それだけ言うと、扉を閉じ、彼女の前に立った。
そして一つの考えが生まれる。
(この状況は想定されたものではないか??)
彼女の余裕。
それが不自然すぎる。
絶対に見つかるわけがないとも取れる態度が、おかしい。
普通、嘘を付けば何かしらの不自然さが出る。
言葉の矛盾であったり、態度であったり…。
彼女は全てが完璧すぎる。
それが不自然なのだ。
まるで、シナリオ通りの展開を演じてるかのように。
『鍵は…僕が閉め忘れただけかもしれないね』
『フフ…だから言ったでしょ??』
なるほど。
嘘が嘘で無くなる。
これが彼女の戦い方か。
彼女は僕試している。
何かを…。
それは明白だ。
それを暴くには、全てを解き明かすしかない。
そう決心すると、次の一手に出た。
『鍵のことは僕の勘違いだとして、何故君は屋上に来たんだい??』
『ここが一般開放されてないことは知っているだろう??』
『今日はなんだか開いてる気がしてね』
『私ってエスパーなのかしら??』
『仮にエスパーだとしたら、今僕の考えていることが分かるかい??』
『鍵はどこにあるんだ??ってとこかしら??』
『不正解だ』
『正解は…君は完璧じゃないってことさ』
ブラフとも取れる発言。
しかし、この言葉嘘ではない。
そもそも僕は鍵のことに執着し過ぎていた。
そしてある先入観がこの状況を作り出した。
少し冷静になれば分かることだったんだ。
たぶん冷静に思考を組み立てると言うのが第一のテストではないのか??
もし、鍵が見つからないのを追求していたら問題は解決しなかっただろう。
『完璧な人間なんていないわ。それがどうしたの??』
『そうだね…けど、完璧に近い状況を作り出すことは可能だ』
『どうやって作り出すのかしら??』
『簡単なことさ…』
僕は少し言葉を置いて、次の言葉を出す。
それで一気にペースを取り戻す。
このままでは授業終了のベルが鳴ってしまい、問答無用で会話が終わる。
なので、これからは最短の問いで彼女を追い詰めなければいけない。
彼女相手にできるのか??
否、やるしかないのだろう…。
『最初からあらゆる状況を想定しておけば良いだけさ』
『君は頭が良い。だが、完璧すぎる演技には綻びが目立つんだ』
『そう…決定的なミスがあるんだよ』
彼女はまだ、不気味な笑みを絶やさない。
残り時間は刻一刻と迫っていた。