現在9
『全て罠だったの…!?』
『いや、そうでもないさ…』
そう、保険が効いたとでも言うべきか。
初めて会う人物に用心したことはない。
僅かに蒔いていた罠に勝手にかかってくれたようなものだしね。
『一応説明しておくよ』
そう切り出す。
今まで張っていた罠と、彼女の正体を暴くために。
これは屋上での再現だ。
しかし、決定的に違うことがある。
それは、立場が逆転していると言うことだ。
『まず、何故僕が味覚障害のフリをしたか…』
『それは、こんな状況を作り出すためさ』
『どういうことなの??』
『ああ、簡単に説明すると、あのコーヒーを飲むためだね』
彼女はイマイチ理解出来ていない様子だ。
無理もない。
あのコーヒーになんの関係があるのか、今の話だけでは意味が分からないだろう…。
『あのコーヒーを飲むと、とある症状の人物は君のような反応をする』
『…まさか!?』
『そう、マリアを飲んでいる人物がすぐ分かるんだよ』
『マリアを飲むと五感が研ぎ澄まされる。味覚も例外じゃないさ…』
『ちなみにあのコーヒーはただのブラックコーヒーさ』
『ラベルだけ張り替えた、市販のね』
この言葉に、彼女は困惑の表情を浮かべた。
ここまでの情報で何故、マリアを飲んでいることが分かったのか、分からないのであろう。
『マリアを飲んだと確信したのは、コーヒーの一件だが、予兆は他にあったんだ』
先ほどまでとは違い、彼女の表情は徐々に感情をなくしているように見える。