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偽りの招待  作者: Than Nen
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『さて…、一度教室に戻ろうか…』



そう切り出したのは僕のほうだった。


携帯で時刻を確認すると、もうホームルームの時間が迫っていた。



『そうね…。一度戻りましょうか』

『話の続きは放課後で良いかしら??』


『僕は構わないよ』


『だったら、授業が終わったら迎えに行くわ』


『…了解した』



そう約束を交わすと、ホームルームに間に合うように慌てて教室に戻った。



(…迎えに来るって、あんまり目立たないようにして欲しいんだけどな)



ホームルームでの教師の言葉を右から左に流しながらそんなことを考えていた。


しかし理想とは大きく異なるのが現実。



【ガラッ】



教室の扉が開いたと思ったら、人影はこちらに向かって一直線に歩いてきた。



(まさかね…)



『コラ、椎名!!まだホームルームの途中だぞ!!』


『すいません。私のクラスはもう本日の授業は終了したので、てっきりこちらのクラスも授業を終了したと思い込んでましたわ』

『随分と深刻な話題でもあるのかしら??』



なんてワザとらしくお嬢様言葉で言いのけた。


教師は反論することなく『これでホームルームを終了する』と一言残し、足早に教室から出て行ってしまった。



(このお嬢様は教師まで手玉に取るのか…ハハハ)



僕は心の中で苦笑した。


とんでもない人と知り合いになったものだ…。



『椎名さんありがとう!!おかげで今日は山先(やません)の小言が短くなったよ!!』



クラスの女子はのん気なものだ。


教師のありがたい言葉よりも、自分の時間を優先する。


それによる被害者が生まれるなんて知る由もないからね…。



『お礼を言わなくても結構よ。私は用事があってこのクラスに来ましたからね』



ニッコリと笑っている…ように見えるのは僕以外の全クラスメート。


それが僕には怪しげな笑みにしか見えなかった…。



『今日は何の用事でうちのクラスに来たのー??』



それは地雷だ。


今言ってはいけない禁止ワード第一位にランクインしている。


何故かって??


その言葉を行った後の展開は決まっているんだ。



『今日は神崎君と一緒に下校しようと思いまして』



…こうなるんだよ。



『えー!?』



彼女の言葉から一拍置いて、彼女の言葉を理解した者達からビックリ仰天な声があちらこちらから聞こえる。


そりゃそうだろう。


学園で1,2を争う有名人と


学園で1,2を争う存在感の無い人間が何故、一緒に下校するんだ??


疑問と驚きに包まれても仕方ない。


他人に干渉したいお年頃の学生達にはビックスクープになるかもしれない。



(やれやれ…)



こういった事態になると、下手な言い訳は逆に墓穴を掘ることになる。


そして何よりも発言をするタイミングを間違えれば、火に油を注ぐ格好になってしまう。


この二つを同時にクリアするためには、先手必勝!!



『ああ、椎名さん。財布を拾ったお礼なんて別にいいのに』



あくまでクールに。


僕と椎名さんは全く無関係ですよ!!アピール。



『フフ…そうもいかないわ。お礼はしっかりとさせて下さいね』


『…分かった。クレープでもご馳走になろうかな』



この2人の会話を聞くと、他クラスからも興味津々で覗きに来た野次馬を含めたクラス全員が肩透かしを食らった格好になった。



(これだから有名人は…)



そんなことを知ってか知らずか、彼女はまだ不気味に微笑んでるような気がした。


そんな彼女の笑みを見て、僕は無性に電子タバコを吸いたくなったのは言うまでもない…。



『ねえ神崎君。さっきは上手く切り抜けたわね』


『やっぱり…。君はさっきの状況を楽しんでたんだろう??』


『もちろん。あなたがどんな返答をするかワクワクしていたわ』


『まあ良いさ…。これで2人が一緒にいる大義名分(たいぎめいぶん)が出来たからね』

『学園の生徒に見られても問題なしってわけさ…』

『けど…もっとスマートな方法があったと思うんだけどね…』


『あら??さっき言ったじゃない。あなたがどうやってあの場を切り抜けるのか興味があったの。まさか財布を拾ったなんて咄嗟(とっさ)に言うとは驚いたわ』


『僕と君が関わりあうには一番ベタな展開だろ??』


『ええ、そうね。流石だわ。次はどんな方法で切り抜けるのか楽しみだわ!!』


『出来ればもう勘弁していただきたいね…』



先ほどのお芝居について語り合う。


もちろん彼女の目的は2人で会う大義名分を作るため。


それが分からないほど馬鹿じゃない。


こうやってワザと大きく宣言することで、誰かに2人で居るところを見られても話題に上がらないし、僕と彼女の関係が何でもないとアピールできる。


…僕が適当なことを言わなければどうなっていたか…。


切り抜けると踏んでそう言ったに違いないけど…釈然としないよな。



『さて…、茶番はお終いにして、そろそろ本題に移ろうか??』


『フフ…そうね。まだお話はたっぷりと残っているものね』



束の間の休息は、慌しく過ぎていった…。

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