過去3
『俺はヤマト。大須の友人みたいなものさ』
『僕は神崎伸一。同じく大須の友人みたいなものです』
ファーストコンタクトはお互い悪いものではなかった。
むしろ大須の友人ということで、好意的に思ってた程さ。
しかし状況は一変する。
それはヤマトのその一言からだったんだ…。
『神崎君、いきなりですまないが【マリア】ってしってるかい??』
『名前だけなら…』
『そうか、なら話は早い。俺が【マリア】の売人だ』
『!?』
驚き、戸惑い。
いきなりの告白に僕は唖然とした。
何故この男はその事実を僕に言ったのか??
その時は理解できなかった。
『はは、ジョークだよ。ジョーク』
『…たちの悪いジョークは止めてくださいよ!!』
『悪いね。お詫びにドリンクをご馳走するよ』
『隣にいるお嬢さんの分もね』
ヤマトはそう言ってウィンクをするとカウンターまでドリンクを取りに行った。
『なあ大須…あいつ本当に友人なのか??』
『あいつは人をからかうことが好きだからな』
『今のもあいつなりの挨拶さ』
『なら良いけど…』
ヤマトが居なくなり、大須にストレートに聞いてみた。
返ってきた答えは友人だということ。
僕はあまり好きになれそうにないタイプの人間だった。
『お待たせ。はい、神崎君。君の分だよ』
『ありがとうございます…』
クラブの中は人の熱気で暑くなっていいた。
それは僕の喉の渇きを進めているようで、いつも以上に水分を欲していた。
その状況から、差し出されたドリンクを疑いも無く飲んでしまった。
飲んでしまった…。
そう、悪魔の薬をね…。
『なんだか体が熱くなってきた…!!』
飲んでから少し時間が経つと、急に体が熱くなってきた。
そして、例えようが無い多幸感が僕を支配していた。
今までに感じたことがない不思議な気分だ。
『神崎君どうだい??【マリア】の味は??』
不気味な笑みを浮かべて尋ねてくるヤマト。
罠にかかった獲物を見るように。
『お前…本当に売人だったのか…』
『ああ、俺は売人さ。そしてもう一つ面白いことを教えてあげるよ』
『面白いこと…??』
『面白いことさ…』
『実はね、大須もグルだったんだ』
『…!?』
『びっくりしただろう??いくら主犯格の人間を探しても見つからないはずさ』
『だってそうだろ??探している本人が主犯の人間なんだからね!!』
『ははは!!悪いな神崎。けどこれでお前は俺達と同じ【マリア】中毒者の仲間入りさ』
『人生楽しもうぜ!!ははは!!』
『チクチョー…僕ははめられたのか…』
僕はそう言った。
しかし、表情は違っていたんだ…。
まるで難関大学に合格したような
宝くじで一等賞が当たったような
好きな人に告白してokをもらったような…
この世の幸せを一度に体感したような笑みを浮かべていたんだ…。
その後のことはよく覚えていないんだ。
ただ、【マリア】を何錠も飲んだことは分かる。
その日はずっと笑みを浮かべていたからね…。
狂ったように、全てを忘れ、多幸感を味わっていた。
奈津の存在を忘れるほどに…。