マリア
『ようやく来たわね…』
彼女は笑いながらそう言った。
その顔は楽しくて笑っているのではなく、どこか安堵したような表情。
本当に僕が来るのか不安だったんだろう。
『食堂が少し混んでいてね。この時間になったんだ』
『まあ良いわ。神崎君が紳士じゃないのは知っているもの』
『はは…』
『再会の挨拶はこの辺りにして置いて、そろそろ本題に入らないかい??』
この言葉を言ったと同時に、場は一気に緊張に包まれた。
先ほどまで軽口を言っていた彼女も、表情を変えた。
それほど重要な話なんだろう。
その表情を見て、本能的に察知してしまった。
『どこから話せば良いか分からないわ…』
『おいおい、話すことぐらいまとめておいてくれよ』
『そうね…。なら、単刀直入に聞こうかしら』
『マリアって知ってるかしら??』
流れる、一瞬の無。
『…マリア様がどうしたんだい??』
『マリア…合成麻薬【マリア】のことよ』
場が、凍りついた。
まさかこの言葉をこんな学園の屋上で聞くとは思ってなかった。
【マリア】
その言葉を聞いた瞬間にあらゆる推測をする。
何故、彼女がその言葉を知っているのか。
そして、何故彼女は僕に聞いてきたのか…。
今までの経緯から彼女は僕と【マリア】が関係があることを知っている。
何故ならば、彼女の行動は常軌を逸している。
僕の行動を把握し、試すようなマネをした。
それは、【マリア】のことに関しても知っていると捕らえても良いだろう。
…否。知っていると仮定しなければいけない。
そして全ての問いに適当な返事をしなければいけない。
それが僕にとっての正解なのだから。
『合成麻薬【マリア】??さあ、聞いたこと無いな』
『そう…。あなたの過去を全部知っているとしても…??』
瞬間、僕は彼女から逃れられないことを悟った…。