屋上
この物語は、少し頭を使った学園が舞台の小説です。
ファンタジーやギャグな部分はなく、恋愛に近いものです。
少々ややこしいですが、読めば読むほど引き込まれていくような内容です。
まずは一話を見ていただいて、世界観を知ってもらえれば幸いです。
よろいしくお願いします。
『ねえ、こんな屋上で何しているの??』
そう、声をかけて来たのは髪の長い女。
『サボリ…かな…』
『サボリかな…って、何それ??』
彼女は笑いながら僕にそう言ってきた。
ここは学園の屋上。
今は授業中。
この二つが意味するもので、大体の答えが生まれてしまう。
故に、僕が答えた理由と、彼女がここにいる理由は同じであろう。
『いや、サボリと言うよりも、息抜きかな』
今度は少し笑いながら答えてみた。
『一緒だよ。サボリも息抜きも。授業に出てないんだから』
と、また笑いながらそう言ってきた。
僕は『はは』と苦笑いをして、いつもの場所に腰を落ち着かせようとした。
『危ないよ!!』
彼女は声を上げ、慌てて僕の腕を引っ張った。
まるで子供が危険なことをしようとして、慌てて止める母親のように。
僕はその行動に少し驚きを受けた。
何故彼女はそんなにも激昂しているのだろうか??
疑問が頭を駆け巡った。
『何してるの!?フェンスを超えようとするなんて!!』
『屋上から飛び降りる気!?』
『知ってた??フェンスの天辺が一番この学園で高い部分だって??』
『何言ってるの!?』
『天辺で感じる風が気持ちいいんだよ』
僕は彼女の腕を振り払ってゆっくりとフェンスを登り始めた。
彼女は呆然とその光景を見守っているだけだ。
『君も来ないかい??』
呆然としている彼女にそう、声をかけてみる。
その声を聞いた彼女は次第に呆れた顔をした。
『君、神崎君でしょう??2年C組の??』
彼女はそう質問してきた。
僕の誘いを聞いてなかったかのように。
『君はD組の椎名さんだろ??』
質問を、質問で返す。
礼儀も何もない。
正直、初めて話す他人と仲良くなるつもりなんて更々ない。
『聞いたイメージと全然違うわね』
呆れた顔から少し頬を緩ました顔になった。
…忙しい人だ。
『君って、たしか存在感がない神崎君でしょう??』
『そうだよ。僕はC組の神埼さ』
『君は椎名さんだろ??』
『そうよ。よく知ってるわね』
少し驚いた顔で彼女はそう言った。
本当に、彼女は自分の正体を知らないとでも思ったのだろうか…。
『知ってるさ。椎名さんはこの学校の有名人じゃないか』
『そんな有名人がサボリだなんて驚きだね』
『どうしてサボっているの??』
話題を強引に変える。
そうすることによって、自分の話題を遠ざける。
できる限り、この場は彼女のペースに乗せられたくない。
『有名人なの!?それは初耳だね!!』
『そんなことよりも、神崎君って頭の回転が速いよね』
『え??なんのこと??』
『話題、自然に変えようとしてるところ』
『それに、話題も私に答えさせようとする意図が満載』
『しかもそれは私に不利な問い』
『これを一瞬にして組み立てるのは容易じゃないわ』
『はは…ただ、気になって聞いただけだよ』
なるほど。彼女には通用しないか。
こちらの意図を全て見抜いているのは流石だと褒めるべきなのだろうか。
面倒だが彼女との会話を継続させなければいけないみたいだ。
『ふーん。まあ深く考えないことにするね』
『それよりもさっきの質門の答えから』
『サボリですか??はい、サボリです!!』
彼女は右手の親指を立てて笑いながらそう言った。
話題を変えるための話題と知っていて、何故彼女は答えたのだろうか??
それはたぶんこの後に続く僕への質問のためだろう。
質問とは相手が投げかけてきた場合、それを答えるとする。
そうなれば今度はその立場が逆転した場合、その質問は答えなければいけないという心理状態、又は空気に包まれる。
つまりは、私も答えたから次は君の番ね。
と、言うことになる。
『そうなんだ。椎名さんってよくサボるの??』
こう言った場合はとにかく先に質問をする。
相手の問いを封じて、会話をこちらのペースにする。
そして時間を稼ぎ、授業の終了ベルが鳴るまで向こうの問いを無効にして、素早く退散すれば良い。
『そんなにサボらないかな』
『今日はなんとなくね』
『僕もそうなんだ。屋上は閉まってたはずだけどどうやって入ったの??』
『それはね…』
そう言うと彼女はポケットから鍵を取り出して、僕のほうに見せてきた。
『合鍵??』
『そう合鍵。屋上の鍵をこっそり盗んで複製したの』
『椎名さんって結構悪なんだね!!もっと真面目なイメージかと思ってた!!』
『そう??私は神崎君の頭の良さに驚いてるわ』
彼女は全てを見抜いてそう言ってきた。
薄々感じていたことなのだが、彼女は頭が良い。
こちらの意図を完全に読みきって、わざとこちらのペースに乗っていた。
それはまるで僕を試すかのように。
いや、それでは完全ではない。
楽しむためだ。
この状況で僕がどのような言葉を出すのか、観察している。
それは最後の言葉で気付いた。
この一連の流れは僕が質問をして彼女が答えただけだ。
なのに、最後の言葉が不自然すぎる。
そして途中の会話にあった、僕の思考を読み取ったこと。
他人から聞いたら間違いなく自然な会話を指摘するなんて、常に相手の思考を探っていないと出来ることじゃない。
一体この学園に日常の会話に意味を求める人間が何人いるのか??
たぶん、皆無だろう。
そんな人間が、一度指摘した相手の言葉が無意味だと思えるか??
答えはNO.だろう。
僕だったら相手の言葉に何を意味しているのか追求するだろう。
しかし彼女はそれをしなかった。
質問に答え、僕との会話を継続させた。
そして会話の中で僕の意図を感じ取っていたはずだ。
最後に言った一言は、その考えはバレバレだよって言う意味だろう。
そしてその言葉を言うまで会話を続けてあげたんだよ。
みたいな馬鹿にしたような意味であろう。
と、言うことは、彼女は僕の滑稽な姿を見て楽しんでいたのではないか??
という結論になる。
『はは、買い被りすぎだって』
僕はそう言うしか選択肢はなかった。
『神崎君って面白いね。またお話しようよ!!』
彼女はそう言って屋上から姿を消した。
何も追求せずに立ち去るのは全く予想してなかった。
てっきり全て見抜いていたことを話し、何故そのようにしたか質問すると思っていたのに。
その状況がこなかった安堵感よりも、疑問の方が多く残った。