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右見ても左見てもクズ男とチャラ男!愛され迷惑!  作者: 有沢真尋
【第二章】

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9/13

8 お兄ちゃんは一日にしてならずなんだよ……!!

 第一回配信にて、露骨にレインくんをかばってしまったニコラスは大いに反省をしていた。


(俺がレインくんから尺を奪うのは目論見通りとしても、結果として俺が目立ちすぎて家族構成まで詮索されるのは予想外だったな……。この先本当に身辺を探られた場合、ルイスの存在まで行き着く輩がいるかもしれない)


 ただでさえ、ニコラスはうっかり「ルイス」とレインくんの本名を口にしないよう、かなり気を遣っているのだ。不用意に近づくのは危険すぎる。第二回の配信では接触を避けるべく、位置取りを遠巻きにして距離をおいて……と、間に何人か別の団員を挟んだ状態で試合の見学を始めた。しかしどうしても気になり、ちらっとだけルイスの様子をうかがってしまう。

 まさにその時、ルイスがヴィンセントと正面切って向かい合い、険悪な空気を醸し出していた。


「ニコラス様をお兄様と呼んでいいのは僕だけですよ。弟の座を譲る気はありません。いまのは宣戦布告ということでよろしいですね? 受けて立ちますよ」


「は?」


 声に出てしまった。


(弟? 弟じゃなくてルイスは俺の義妹(いもうと)だろ? どうしてヴィンセントと弟の座争いを始めたんだ? 男になりきり過ぎじゃないのか?)


 喧嘩腰で噛みつかれたヴィンセントは、冷然とした表情でルイスを見下ろしている。

 ちょうど模擬試合の決着がついた瞬間で、すかさずクライヴが機器を二人に向けていた。


“どうしたどうした、新人騎士レインくんとルーキーのヴィンスくんが何やら揉めているぞ?”


 実況のアイザックには目も向けず、ふう、とヴィンセントが息を吐き出した。


「それ本気で言っているのか? 勝負にならないのはわかるだろ? 怪我したくなければおうちに帰ってベッドでふとんかけて寝てろよ」


 禍々しいまでの美貌で言い放つヴィンセントは、絵面の迫力は満点であったがいまいち煽りの語彙が足りていなかった。

 ニコラスの横に立っていたランドルフが「ヴィンスは育ちがとりわけよくて、あの通り下品な世界を知らないからな。『クソして寝ろ』とか言えないなんだよな」と呟く。これにはニコラスも同意であった。


「そうだな。ふつーにいいお兄ちゃんだよあれ。『腹出して寝るなよ、風邪ひくからな』まで言っちゃうやつだよ。喧嘩じゃねえよもう」


「喧嘩なのかな? 聞き間違いでなければ『ニコラスお兄様の弟の座』をめぐる争いみたいだけどさすがだな。ニコラスお兄ちゃんモテモテ」


 冷やかしてくるランドルフに対して、ニコラスは万感の思いを込めて言い返す。


「嬉しくない……ッ」


 よほど止めに入りたいが、ここでまた露骨にレインくんをかばうといよいよ「実の兄弟」と詮索されかねない。ギリギリのところで思いとどまる。


(ただでさえ、前回はこの流れでカッとなった俺が、レインくんからヴィンスとの喧嘩を奪う形で決闘だからな。今回はだめだ。ここはぐっと堪えて見守りに徹する……!)


 苦悩するニコラスの横で、ランドルフが意味ありげに笑った。


「俺はいま、ニコラスの考えていることが手に取るようにわかるぞ」

「マジかよ。お前そんなに察し良かったか? ありがとう、親友」


 ランドルフが何を言いたいのかさっぱりわからないニコラスは、適当に流す。流されてもめげないランドルフは余裕のある表情で若者二人を見て言った。


「両方弟に欲しいんだろ? 俺のために争わないでくれって感じだな。わかる」

「何一つわかってねえよ。お前は普段俺の何を見ているんだ。俺はべつに弟が欲しいわけではない」

「そうなのか? ヴィンスは本気でニコラスの弟になりたがっているぞ?」

「お前がもらってやれよ。俺は間に合ってる」


 可愛い妹がいるから、と喉元まできた言葉をなんとか飲み込んだ。危なかった。

 そのニコラスの横で、ランドルフが「ふむ」と顎に手を当てて真面目な顔で言う。


「俺はどうせお兄ちゃんになるならレインくんがいいな。守ってあげたくなるタイプ」

「そこのクズ男、俺に殺される覚悟はできているのか?」


 ルイス絡みのことでムキになるのは不自然だ、不用意な発言も絶対にいけないと自分に言い聞かせていたはずが、瞬時に吹っ飛んでしまったニコラスである。

 考える前に、ランドルフの腕を取って試合場へと引きずって歩き出していた。


“おっと……あちらも何やら揉め事か……!? どういうことだ今日の第一騎士団、ずいぶん血の気が多いが何かあったのか?”


 見逃さず実況をしてから、アイザックが近場の騎士に「ねえほんとに何かあるのかな? 普段はもう少し落ち着いているんじゃなくて?」と小声で尋ねている。

 もはや周囲の様子を気にかけるつもりもないニコラスは、ランドルフに向かって大変感じ悪く言い放った。


「いまから入れるお兄ちゃんルートはねえよ。お兄ちゃんは一日にしてならずだ。実った果実だけを美味しくいただきたいみたいな、そんなふざけたお兄ちゃんがあるか」

「へぇ……ニコラス、ずいぶんレインくんに執着しているみたいだね」


 げふっとニコラスは不自然にむせる。


(執着じゃない、俺は義兄(あに)であいつは義妹(いもうと)なんだよ……!! 大切な妹がクズ男に目をつけられていると知って、黙って見過ごせなるわけないだろ……!!)


 他意はねえよと叫びたいのだが、叫んでしまえばすべて台無しだ。ニコラスはげほごほがほほと明らかに肺の変なところに変な空気が入ったような不自然な咳をしてから涙目で息を整えて、どうにかレインくんの正体に言及することなくやり過ごす。

 腹の虫はいっこうに収まっていない。


「お前、ほんとクズ男がよく似合ってる。素でドクズいけるんじゃないか?」

「褒めてくれてありがとう。ニコラスはもう少し心を込めてチャラ男になりきれよ。シナリオガン無視はよくないぞ」


 にっこりと笑いながら、ランドルフは剣を抜いた。

 のどかに話していてもそこは第一騎士団。売られた喧嘩は腕力で買うらしい。


「さすがにランドルフ相手だと手を抜いてる場合じゃねえな。いざ尋常に勝負いっときますか」


 軽口を叩きながらニコラスも剣を抜いた。しかしそこで、一向に実況されないことに気づき、何かあったのかとアイザックを目で探す。


 離れた位置で、今日も騎士に囲まれて腕立て伏せをしているルイスの姿があった。実況も配信機器もそちらにフォーカスしている。

 

「や、だから、なんでだよ。なんでなんだよ……」


 お兄ちゃんルイスのために体張って頑張ってるんだよ? べつにルイスから頼まれていないと言えばそうなんだけどね? 兄としてね? というぐずぐずした愚痴が浮かんでくるものの、堪えた。


「お、レインくん、先週より腕立て伏せが様になってるな。自主練頑張ったんだな」


 ニコラスの視線に気づいて修練場内を見回し、同じものを目にしたランドルフがいかにも嬉しそうに微笑む。


「試合は中止だ。俺はあれを止めてくる。レインくんの腕立て伏せは見世物じゃない」

「何言ってるんだ。配信の時間内は騎士団全員見世物だぞ」

「だからって、あんな小さい奴が顔真っ赤にして汗浮かべてはあはあ言ってるの映してどうするよ。なんかこう、赤裸々過ぎるだろ。俺は賛成しない」


 剣を収め、ニコラスはためらうことなくその場で上着を脱ぎ捨てて、歩き出す。

 ルイスの横では、ヴィンセントが余裕そうな顔で腕立て伏せをしていた。苦しげなルイスを見て、目を細める。


「もう音を上げたのか。少し休んでいればいい。その間は俺が指一本で指立て伏せして画面をひきつけておくから」

「ま、まだまだいけますよ! 自主練の成果をその目に焼き付けてくださいです!」 


 ニコラスは横を向いて小さく噴き出した。


(なんだ、仲良しじゃねえか。そんなにヴィンセントは「お兄様」になりたかったのか、俺の義妹の……。あれ? やっぱり許せねえな。兄貴は俺だ)


 どうしてもいいところ見せたいらしいヴィンセントに、ふつふつと込み上げてくるものがあった。ニコラスは機材を抱えているクライヴの肩を指でノックする。


「私を映してください。頼りない若手ばかり映しても、第一騎士団の実力はその程度かとがっかりされてしまうでしょうから」


 ちらっと視線をくれたクライヴが、口の動きで「止める前にあいつ上着脱いだ」と言ってくる。ルイスくんの薄着を気にしているらしい。ぶちっと、まとめて堪忍袋の緒らしきものが引きちぎれたのを自覚しつつ、ニコラスは笑顔で「俺が止めます」と宣言し、腕立て伏せをしている二人の元へ向かった。


「腕立て伏せなんて地味なこと、配信で見せる意味がわからないが、あとは先輩が引き受ける。君たちは少し休んでいなさい」


 ルイスはすでに、可哀想なほどバテている。頬を紅潮させ、目を潤ませた様子を大勢の視線にさらすのはだめだとニコラスは兄として痛感していた。

 向かい合って「ほら、行きなさい」と急かす。そのニコラスとルイスの上に、影が落ちてきた。


「チャラ男先輩がいいところ見せようとしているみたいだけど、それ俺もまざっていいのかな」


 ランドルフが、上着を脱ぎ捨てながら声をかけてきた。しっかりとはめていた手袋は、もどかしい様子で口でくわえて外す。

 見上げたルイスが、潤んできらきらした目のまま呟いた。


「なんだかいけない光景ですね……。配信に年齢制限が必要ではないでしょうか。こう……色気がダダ漏れすぎます」


 色気? 何を言っているんだ? とニコラスは不思議に思って目を瞬く。一方、ヴィンセントは何やら了解した様子で、真っ先に反応をした。


「このままではランドルフ様が全国の皆さんにエロい目で見られてしまいます……。だめだ……! ランドルフ様のクズ男キャラがゆるぎないものになってしまう!」

「何を言ってるんだ?」


 大丈夫か? と声をかけるニコラスに構わず、ヴィンセントまで上着を脱ぎ捨てた。そこで「いや、だめだ足りない」と不穏な呟きをもらしてさらにシャツのボタンに手をかける。


「う、映すなら俺を」

「おいやめろ脱ぐな。ランドルフのエロ姿? だけでも大惨事なのに、お前まで脱いだら放送事故だ事故。思いとどまれ」


 そのままぶちぶちっとボタンをひきちぎり始めたヴィンセントを見て、ニコラスは「だからやめろって言ってるだろ!!」と叫んで覆い被さり、自分の体で機材から隠した。

 力付くで体重をかけて押さえ込み、半裸になっているヴィンセントに馬乗りになって言い聞かせる。


「裸はみだりに他人に見せてはいけません!! 先輩との約束!!」

「お、お兄様との約束ですか?」

「どさくさに紛れて弟ぶるなこのやろう!! お前は俺の弟なんかじゃない、そんな目で見たことは一度もない!! わかれよそのくらい!! こんなこと俺に言わせるな!!」


 押し倒された位置から、ぽーっと見上げるヴィンセントと叱り飛ばすニコラス。

 アイザックが、無言で機材のレンズ部分に手をびたん、と貼り付けた。


“すみません。機材の調子が悪いみたいで映像が乱れています。少しお待ちください”


 そのまま何人かに目配せをし、打ち合わせてあった次のプログラムへ移れと指図する。「料金が発生しているんだから事故のまま終われない! 続けて行くぞ!」と小声で喝を入れ、指示を受けた全員が心得たとばかりに応じた。


 こうして第二回配信は、若干映像の乱れた時間があったものの、無事に尺を消化して配信を終えたのであった。

アイザック「ニコラスくんはあれが素なの? 『お前を弟だなんて思ったことはない』みたいなの。チャラ~」

クライヴ「あれは俺もどうかと思うな。『弟じゃなきゃ何……!?』って殺到するぞ。誘い受けか?」

アイザック「ねー。あ、ごめん、いまふつうに喋っちゃったけど配信切れてるよね?」

クライヴ「大丈夫大丈夫。そんなヘマはしない。配信切り忘れなんて大事故の予感しかないからな」

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― 新着の感想 ―
(つД`) 鼻カラ牛乳吹イター 自宅で読んでてよかったです 今回もお兄ちゃんがキレッキレで大満足でした!
ヤバい。グサグサ刺さる…(笑) ノーマル食のハズだったのに...何故でしょう? お兄様…が最初の扉を開いてくれたからかな。
???「どけ!!! 俺はお兄ちゃんだぞ!!!」
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