7 第二回配信はっじまるよー!
“それでは、第二回はじまりました! 本日もお集まりいただきましてありがとうございます! 「第一騎士団の日常」をお届けします! 機器の前にご家族皆様おそろいですか?”
“前回は新人騎士レインくんの入団挨拶から、ニコラスとヴィンセントの模擬試合、そしてレインくんのトレーニングメニューを先輩たちで考案し、実際に指導するという盛りだくさんの内容でお送りしました”
“本日も引き続き、騎士団の修練場からお送りします”
“この先の回では修練場以外の場から配信することも検討しています! どうぞお楽しみに!”
“では、早速本日の練習風景をのぞいてみましょう!”
* * *
この日、ルイスは修練場に着くのがぎりぎりになってしまい、事前にろくな打ち合わせができていなかった。
(素性を隠していることもあり、配信以外のときはなるべく騎士団の皆様とも顔を合わせないようにと言われていて、前回の反省会にも参加できず……。会計監査室から修練場が離れているのも、地味に痛いんですよね)
騎士団との顔合わせや第一回目の配信のときは、会計監査室の室長室で騎士服に着替えて修練場へ向かった。しかし、王宮内でも配信は噂になっており、実際に見たというひともいる。「レイン」として顔を知られたルイスは、移動にも細心の注意が必要となったのだ。
まがりなりにもレインは「第一騎士団所属」という触れ込みである。何度も会計監査室付近で目撃されてしまえば、ルイスまでたどられるのも時間の問題となるだろう。誰かに声をかけられたら「アイザックさまに配信の件で会いに来ました」で通すとなっているが、何度も同じ言い訳をするのは苦しい。
この件に関しては、アイザックから「考えが甘かったのは認める。ここまでいきなり視聴者が増えるとは想定していなかった」とルイスに対して平身低頭の謝罪があった。第一回の配信後、登録者数は倍増したという。「騎士団の面々は、思い込みの強いファンから付け狙われても自分で撃退することができるけど、レインくんはどうしたものか……護衛をつけるとしたら騎士団からだよなぁ」とアイザックは真剣に悩んでいる様子だった。
彼らの仕事は要人警護なので、護衛任務はお手の物であろう。とはいえ、ルイスは要人ではない。そんな余計な仕事を増やすわけにはいかない。
(これはもう、配信期間の三ヶ月間は会計監査室を休職にしてもらったほうがいいかもしれません。騎士団の宿舎に置いていただき、期間中は完全に騎士団所属として仕事をまっとうしたほうが筋が通るように思います。もし今日の配信でまた登録者数が増えるですとか、世間に反響があるということでしたら早めに提案をしましょう)
ルイスは、腹が決まっている。やると言ったらやるのだ。継続して三ヶ月やり遂げるためならば、手段は問わない。
明らかな足手まといの自分が、仕事のためとはいえ騎士団の宿舎に身を寄せるとなれば、他の騎士たちは良く思わないかもしれないが……。
ちらっと視線を向けた先に立つのは、完璧な横顔で試合を寡黙に見つめている騎士ヴィンセントである。
初回では、いきなり試合を挑まれて驚いた。
顔合わせ時にその場に居合わせた面々から挨拶は受けていたものの、ルイスは第一回配信後にあらためてクライヴから団員たちの情報を得ている。
ヴィンセントは、第一騎士団最年少で二十歳とのこと。
ルイスの受けた印象からすると、彼は責任感が人一倍強そうだ。圧倒的に能力の足りない「新人騎士レイン」が騎士団に参加することを内心では了承しておらず、他の先輩たちが構うことで通常業務の時間が食われるのを憂えているように見えた。
(反発は当然ですよね。厳しい試験をくぐりぬけてここにいらっしゃるのでしょうから。偽物の騎士である私が認めて欲しいというもおこがましいですが、三ヶ月は配信任務で共に機材の前で切磋琢磨しときにはぶつかりあう仲間なのですから……打ち解けたい!)
気持ちを込めて見つめてしまったせいであろうか、ヴィンセントがすうっと温度のない視線を流してきた。美貌が際立つ、極めつけの無表情には得も言われぬ迫力がある。
形の良い唇が動き、ひそやかな声がもれた。
「レインくん」
すでに配信は定刻で始まっている。前回の流れを踏まえ、今回は最初から騎士同士の模擬試合を披露するということになり、配信機器を構えたクライヴが試合場を映していた。
ルイスは、どきどきしながら素早くヴィンセントと距離を詰めて隣に立つ。ルイスから「なんでしょうか?」と聞く前に、ヴィンセントは視線を試合へと向けたまま押し殺したような声で尋ねてきた。
「自主練の仕上がりはどう?」
前回、親切な先輩たちが組んでくれたトレーニングメニューのことだろう。ルイスは緊張しながらも、ひそめた声ではきはきと答えた。
「日常生活で練習にあてられる時間はすべてメニュー通りに過ごしました。最初の三日間くらいは大変でしたが、この一週間で一通りこなせるようになっています」
ふう、とヴィンセントは心をえぐるようなため息をついた。
「君に、言っておきたいことがある」
これは叱られる前触れ、とルイス気持ちを引き締めた。
(私には大変なトレーニングメニューとはいえ、正規の騎士団員であればまさに朝飯前という内容ですよね。「あれで手こずっているようでは第一騎士団の騎士が務まるわけがない」という牽制ですか、わかります)
最年少騎士VS新人の意地のぶつかりあいである。
一瞬「機器の前でしたほうが映えるのでは」という職務に忠実な考えもかすめたが、それはルイスの考えであって、まさかヴィンセントにそんな打算めいた思惑などあるはずもない。ただひたむきに「さっさと手を引け、この無能」と忠告してきているのだろう。
向こう三ヶ月は国内外で大きな催事もなく、第一騎士団総出で任務にあたるような予定もないとはいえ、彼らの日常は厳しい鍛錬と要人の側仕えというストイックかつ細心の注意を払う内容なのだ。やらせ要員を入れて配信など、試みとしても嫌っている騎士がいても道理というもの。
ヴィンセントの言いたいことはよくわかるとルイスなりに考えつつ、神妙な顔で「ぜひ、ご教示ください」と告げる。
(たとえ団員からの反発があろうとも、私は尻尾を巻いて逃げることはありません。なぜなら、私がここにいる理由は義兄さまの所属騎士団の予算的危機だからです。目標額達成まではたとえ火の中水の中、配信を待つ視聴者の前で道化にもなりましょう……!)
正面きって文句を言われるなら、むしろ好都合である。誠心誠意自分の意欲を伝えるチャンスだと意気込むルイスに対し、ヴィンセントはゆっくりと顔を向けてくる。
美形ゆえに凄みのある表情で言い放った。
「勘違いしないように、先に教えてあげるよ。ニコラス様は僕のお兄様だからね?」
「はい?」
新参者として最大限の礼儀の良さで対応しようと決めていたはずのルイスであるが、真顔で聞き返してしまった。
(ニコラス様ってニコラス義兄さまのことですよね? え? ニコラス義兄さまは私の兄ですが? そちらさまこそ何を勘違いなさっているんですか?)
ひくっと頬を引きつらせているルイスの前で、ヴィンセントは少しだけ落ち着かない様子で視線をルイスから外し、早口で言う。
「ニコラス様は譲れないけど、どうしてもお兄様が欲しいなら僕が」
しかしルイスの耳には「ニコラス様は譲れない」までしか届いていない。
(宣戦布告きた……!)
譲れないと言われても、ルイスとてニコラスを譲る気はない。
青い目に剣呑な光を宿し、決然とした態度で言い返す。
「勘違いなさっているのはヴィンセント様ではないですか?」
「え?」
「ニコラス様をお兄様と呼んでいいのは僕だけですよ。弟の座を譲る気はありません。いまのは宣戦布告ということでよろしいですね? 受けて立ちますよ」
無視できない音量で話し始めた二人に、注目が集まる。
クライヴが、配信機器を持ったまま振り返った。
※第一章の最後でお尋ねした「推しへの気持ちをリアクションボタンで作者に伝えませんか?」の結果が大波乱です。推し=ルート選択なのか、単独で推しているのかそれが問題だ。ご協力どうもありがとうございました!
第二章の最後でまた実施するかもしれません(๑•̀ㅂ•́)و✧




