表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
右見ても左見てもクズ男とチャラ男!愛され迷惑!  作者: 有沢真尋
【第三章】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/18

13 先手を打つ!?

 (せわ)しなく立ち去るクライヴとセオドアを見送り、ルイスは足元に置いたトランクを持ち上げようとした。

 すかっと手が空振りをする。


「部屋に案内するよ」


 背後から声をかけられて、ルイスは慌てて振り返った。

 これまた麗しくも品のある私服姿のランドルフが、重いはずのトランクを軽々と持ち上げて微笑んでいた。


「ランドルフ様っ。いまから緊急招集みたいですが、ここにいて大丈夫ですか?」


 荷物を運ぶつもりでいたセオドアは、後ろ髪ひかれる様子ながらクライヴに急き立てられて「ごめんね」と手放していったのだ。ランドルフの耳には知らせが入っていないのかとルイスは焦ってしまったのだが、本人は気にした様子もない。


「大丈夫。いまは申請して休暇を取っているから、招集に応じる必要はない。後から話を聞くくらいかな。遠出の予定はないから、状況次第で休暇を切り上げて仕事に戻ることもできる」


 話しながらさっさと歩き出したランドルフに続き、ルイスは宿舎の中へと足を踏み入れた。

 宮殿とは別棟で独立した建物であるが、さすが王宮関連施設だけあり、入ってみると玄関ホールは天井が高く豪華なシャンデリアが吊り下がっていた。壁紙から調度品まで、選びぬかれた一級品で揃えられているようである。

 ランドルフは立ち止まることなく玄関ホールの大階段を登り、二階廊下を進んだ。


「騎士団内では、基本的に待遇に大きな差はない。日当たりの違いくらいはあるけど、全室同じ間取りで同じ備え付け家具の個室が並んでいる。全員の部屋に入ったことがあるわけではないけど、みんなきれいに整頓しているよ。レインくんの部屋は、配信用として入口から近い一階の部屋を準備しているけど、実際は二階の俺とニコラスの部屋の真ん中だ」


 口頭で案内をしながら、廊下を突っ切って奥まで進む。「右が俺、左がニコラス」と言いながら真ん中の部屋のドアを開けて荷物を運び込んだ。


(ニコラス義兄さまと隣!)


 室内にはひとめで値打ちものと知れる上質なベッドや机、クローゼットの他ソファやテーブルまであり、ゆったりとして広い。第一騎士団の騎士たちは貴族出身であり、自宅に帰った際にはもっと贅沢な部屋で暮らしているのかもしれないが、宿舎の個室として考えると十分な環境である。

 ランドルフはトランクをクローゼットの前に置きつつ「本当は今日、ニコラスがここに来たかったんだろうな」と笑いながら打ち明けてきた。


「昨日までこの場所はニコラスの部屋だったんだけど、別の騎士に隣の部屋を空けてもらって部屋割りを変えたんだ。レインくんの面倒は自分と俺で見るって」


「わざわざすみません、ありがとうございます!」


 他の騎士に苦手意識があるわけではないが、ルイスが心の中で一番頼りにしているのはやはり義兄のニコラスである。二回の配信で話す機会が一番多かったランドルフに対しても親近感があるので、二人が両隣を固めているのは心強い。


「ニコラスは、俺に休暇を取って君を案内するようにと言い残して行ってね。俺もそのつもりで予定は全部空けているから、協力は惜しまない。何かあれば相談してほしい」


「えっ、休暇はそのためだったんですか!? なんだかとても申し訳ないです!」


「そこは気にしないでいい。レインくんこそ『もともと所属は別の部署にあるけど、騎士団の配信に協力するために一時的に本来の業務を外れている』と副団長から説明を受けてるよ。単純に考えて配信の仕事が増えているわけだから、どこかにしわ寄せはいくんだ。いまは、騎士団がレインくんの部署に負担をかけている状態なのは間違いない。助けてもらうだけで、こちらは何もしないというわけにはいかないから、何かさせてほしいんだ。休暇を使うくらい全然たいしたことじゃない」


 なるほど……とルイスは恐縮しつつ、ひとまずその言い分を受け入れた。


「配信は本来の仕事に対して仕事の上乗せですからね。何らかのやりくりが必要になってきますよね……」


「そうは言っても、収入につながっているのが目に見えるから、やる意味とやり甲斐はある。第一騎士団は三十歳前後で引退が慣例だけど、退団後はそれぞれの立場で事業や領地経営に乗り出すことになる。騎士団にいながらにして違う仕事を体験をできるのは、将来を見据えた意味でもありがたいことだと俺は思っているよ」


 べつに負担でもないし、とランドルフは爽やかに笑う。その明るさが、ルイスの目にはまぶしい。


「すごく前向きで素敵だと思います! わかります、僕も配信は楽しいんですよ。でも楽しいだけではいけないんですよね。次の第三回は、音楽団が配信をぶつけてくるって言ってました。ただの引っ越し回で勝てるわけはないと思うんですが、副団長からは負けるなって厳命が……」


 どうしたものか……と唸ってしまったルイスであるが、ハッと気づいてランドルフを見上げた。


「すみません、立たせたままで。あの、まだ僕の部屋って実感全然ないんですけど、ひとまず楽になさってください。ソファに座っていただいたり」


「お気遣いどうも。その前に、荷物はどうする?」


 トランク二つを示されて、ルイスは「それもありがとうございます!」と運んでくれたことに対して、改めて例を口にした。


「ひとつは開けて整理してしまうつもりだったんですが、ひとつは配信で見せる用なんです。荷物を持って引っ越してくるところから、部屋に入って備品を紹介しつつ、トランクを開けようかなって。こう……メイドさんに聞いたんですが、旅行鞄に綺麗に荷物を詰めるのって高等テクニックだから、人のやり方に興味があるそうです。何をどんな風に詰めているか、視聴者の皆さんも見たいんじゃないかとご意見が」


「それはいいね。騎士も遠征で荷造りはするけど、先輩にシャツのたたみ方を教わったりする。他のひとのやり方を見てみたいっていうのはあるかな。開けた途端に下着が出てきたりしたらみんな困ると思うけど」


 上品に微笑まれて、ルイスも「ですよね」と話を合わせつつふと不安になってしまった。


(片方は自分で詰めたけど、もう片方は全部お任せしてしまったんですよね。配信用って言ったから下着が出てくることはないと思うけど……)


 その場で何かとんでもないものが飛び出してきたら困ると、ルイスはランドルフのそばまで歩み寄り「見せる用」のトランクに手をかけた。


「荷物をお見せするといっても、中身まで全部出すつもりではないんですが」


 留め金の鍵を外し、予行練習のつもりでランドルフの目の前で開いてみせる。これがこうしてこうで、と続く言葉をルイスは飲み込んだ。


「……!!」


 明らかに女性もののドレスや化粧水の瓶や小物が、隙間無く詰められていたのだ。

 さーっと顔から血の気がひいていくのがわかる。


(これ!! 事情を知らないメイドさんが詰めてしまって、これは使えないですごめんなさいってよけて置いたはずの方のトランクを持ってきてしまいました……!!)


 最近は、ルイスとして生活をしているときは以前より見た目や持ち物に関して女性的な演出を心がけていただけに、華やかなものが揃ってしまっていた。


「こ、これは女装をとイヴリン姫に言われましたので、その準備です!!」


「引っ越し回の流れから女装配信予告をするの?」


 真顔で聞き返されて、ルイスはぐっと言葉に詰まる。


(く、苦しい! 言い訳として苦しすぎる……!!)


 もう一度誤魔化すべきか、それともこのまましらを切り通すのか。

 悩むルイスの前で、ランドルフは「うーん」と考え込むように目を瞑る。伏せられた長い睫毛や、彫りの深い凛々しい顔立ちが強調されて、改めてその美形ぶりに見惚れてしまいそうになるが、そんな場合ではない。

 ひとまず何か言おう。話を逸らそう。

 意を決して口を開きかけたルイスの前で、ランドルフがぱっと目を見開いた。琥珀色の澄んだ瞳にいたずらっぽい光を宿し、唇をにいっと釣り上げて笑う。


「それを使って、ゲリラ配信はどうかな」


「と、いいますと?」


「第三回配信で第四回の予告を入れるより、いまの時点で第三回の予告を兼ねて予定外の配信をするんだ。視聴できるひとは少ないかもしれないけど、話題作りをしておけば第三回につなげやすいんじゃないか? 小道具は揃っているわけだし」


「あーっ!! いいですね!! 第三回の配信ぶっつけ本番で音楽団に勝てるかどうかドキドキするより、期待感を高めるような先手を打つわけですね!! やりましょう!!」


 目の前がさーっと明るくなるような提案に、一も二もなくルイスは飛びつく。


(第三回で音楽団に惨敗したら、第四回見てくださいも何もないですからね! 勝つための根回しは必須です!!)


 ランドルフは笑顔で話を続けた。


「俺は休暇だし、レインくんも今日は引っ越しで鍛錬に出る必要もなく休暇みたいなもの、と。騎士団を離れたプライベート風の配信も気兼ね無くできるし都合が良いな。それじゃ、早速着替えて出かけよう。第三回で宿舎の配信するなら、ゲリラ配信は違う場所のほうがいい」


「そうですね。思い切って街へ行くのもいいですね。番組を視聴できるひとが少なくても、実際の配信風景を目撃したひとが噂してくれれば宣伝にもなります」


 てきぱきと答えたルイスに、ランドルフは何気ない様子で言う。


「レインくんは女性用のドレスはひとりで着られる? 俺もよくわかってないけど、手伝えるかな……」


 ルイスは笑顔のまま固まった。


(手伝う……? ランドルフ様が……?)


 ここで「大丈夫です!」と言い切れば、どうしてそんなに女性用のドレスに詳しいのかという話になってしまう。百歩譲ってそういうものだと流してもらえたとしても、完全に男同士だと思われている状況で「着替えますから」と自然に部屋から追い出すことなどできるのだろうか?

 どうしよう、とひとり焦るルイスに、ランドルフは破顔して言った。


「善は急げだ。準備しよう」

アイザック「あとね『温泉回も良いんじゃないですか?』って投書があるんだけど」

クライヴ「なんだ、またご令嬢方の叫びか? 裸が見たいとは大胆だな。聞かなかったことに」


アイザック「……いやこれ差出人男……男の裸見てどうするの!? レインくんが本当に男か知りたいのかな!?」

クライヴ「あー、それは映すわけにいかないから責任もって騎士団総出で守る。レイン以外全員裸」


アイザック「絵面……ッ!! 私はべつに見たくないよそれ……!!」

クライヴ「何言っているんだ。お前も脱ぐんだよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
もぉ秘密告っちゃえよ。隣の部屋だし…なんて無責任な思いを書いてしまいました。
むしろレインくんが本当に男だったほうが喜ぶ男性視聴者もいそう( ˘ω˘ )
善意がピンチを招くやつーッ(笑) ランドルフ様、まぶしいです!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ