3話 尋問
「カオル、どうして魔術を使わないの?」
「…………」
「使えないの?」
分かりやすく、カオルは目を逸らす。
始めからこの可能性について考えておくべきだった。
この世界に生きる生物は一部の魔物を除いて、必ず魔術が使える。最低でも、何らかの属性の最下級の魔術が使えるのだ。
となると、いくつか可能性が出て来る。
――一つ、彼が変身した魔物である可能性。
しかしそれであれば、聖剣を持つことすらできない。
――一つ、彼が真なる神に見放された可能性。
これはあり得る可能性だ。ライカスの加護を感じ取れたが、本物のそれとは少し違っていた。他の加護や魔力の気配がなかったあたり、この可能性は濃厚だ。だが、魔力の籠った攻撃事態はしていた。
――一つ、そもそもカオルがこの世界の人間でない可能性。
本来のものとは違う神の加護、魔力がない事。その特徴は伝説にのみ語られる、異界寄りの来訪者の特徴と一致する。だが、その来訪者は真なる神の加護を受けていたはずだ。
「ふぉーちゃん、リリィお姉ちゃんを呼んでほしいの」
『わかった』
ふぉーは変化の魔術で小さくなると、走ってリリィを呼びに行った。
その間、玉座の間は沈黙に包まれる。
アリスは考え、カオルはただ黙り込む。
「アリスちゃん、それが勇者?」
「そうなの。情報を引き出してほしいの」
「そういうこと。なら――」
リリィは勇者に近寄り、頭に手を当てる。
「ふむ、対精神干渉はなしと……。勇者カオル、これからアリスちゃんに聞かれることに全て素直に答えなさい」
「ああ……」
虚ろな目となったカオルは、覇気のない返事をする。
「カオルは魔術が使えるの?」
「使えない……魔力はあるが、使い方を知らない」
「じゃあ、あの複製はなに?」
「スキルだ……」
「スキル……どの大陸から来たの?」
「大陸じゃない。日本って島国だ」
「その国……まさか、伝説の……」
「伝承にある召喚の義で呼んだ、そう説明された」
つまり、彼は異世界人。こことは全く別の歴史を辿ったであろう世界の住人。だが、なぜライカスの加護が本来のものと違うのか。確かに使える力は本物だが、気配が違う。いくつもの加護を授かった勇者が使うのを目の当たりにしたのだ。間違うはずもない。
「その加護は誰から授かったの?」
「……ライカスからもらった」
「姿は?」
ライカスの姿は基本服を着ない黒髪の青年であり、自ら人前に姿を晒す時は必ず神の威光を示すため、ライカスを象徴する青と黒のローブを纏う。
「……わから、ない。靄が掛かっていたんだ……」
そんなはずがない。神は威厳を重んじる。神々とすら交流のあった父が言うのだから間違いはない、はずだ。それに、靄が掛かっていたというところに違和感を覚えた。
「そのライカスの力、どれくらい使えるの?」
「時間加速だけだ……」
おかしい。ライカスの力は時間加速、世界の時間減速や停滞、果てには時間素行まで使えてしまう。少なくとも神から直接加護を与えられたのなら、基礎能力である加速と減速は使えるはずだ。仮にライカスが本物だったとして、神が一瞥を与えた人間に、中途半端な能力を与えるだろうか。それは、神の威厳に関わる。
「リリィお姉ちゃん、ライカスを信仰する国ってあったっけ?」
「ライカスは概念的な神だから、エスティシア様みたいな信仰はないはずだよ。確か、漠然とみんなが信じてて、その信仰を力にしてるんだったはず」
「情報収集は無理そう……けど、召喚されたってことは分かったの」
「世界の禁忌、だね」
「もっと証拠を掴んで聖公国の教会を潰すの。それと、聖公国貴族が絡んでいた場合、国際問題にするの。念のため友好国にはこの件の警告を」
「了解。書簡はこっちで用意しておくから、アリスちゃんは聖公国の内情調査を」
「この髪は目立つから、染めないとなの」
「魔術じゃ見破られちゃうから、染料買わないと……。ああそれと、その勇者は危険だから処分しておくの。だから、リリィお姉ちゃんの催眠はそのままで」
アリスは大鎌を取り出し、刃をカオルの首にかける。
《死の因果・サリエル》アリスの持つ大鎌の名。それは名の通り死の因果を司る武器であり、振るえば死の原因を刻み、切り裂けば死と言う結果をもたらす。
首に突き付けられた鎌はすでに勇者に死の原因を刻んでいる。後は首を落とせば、死と言う結果が刻み込まれ、蘇生すらも叶わない。残るものは、肉体から切り離された魂だけ。
「輪廻の輪から外れた魂の帰り道は分からないけど、せめていい道に乗れますように」
ためらわず、鎌を引いて首を落とす。
あの時の勇者であれば蘇生ではなく時を遡るという荒業で自動蘇生を成し遂げたが、それも行われず、ほどなくしてカオルは人としての気配を失った。
浄化の魔術でカーペットに染みついた血を消し去り、死体も危険なのでその場で焼却する。普通の炎ではなく、魔炎と呼ばれる魔属性の炎。徹底的に、勇者の存在をこの世界から消し去るだ。
「なんだか、嫌な予感がするの……」




