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Realize  作者: 147
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揺れる

CIVIA第2層、廃倉庫の奥。

夜明け前の薄明かりが、埃っぽい空気を切り裂いていた。

クロノは引き戻した“右手”を、机の上に置いていた。

それはただの肉塊ではなく、微かに脈打つように重力が揺らめいている。

ライアスの異能〈重力の楔〉の残滓。

ミラースが解析視界を向け、息を抑えて観察する。

「……生命反応は弱いけど……まだ“繋がってる”。  裏層のライアス本体と、リンクしてるみたいです」

クロノはタバコを咥え、火をつけた。

煙がゆっくりと右手の上に落ちる。

「……おい、ライアス。聞こえてるなら、何か言えよ」

沈黙。

だが、次の瞬間──

右手の指が、わずかに震えた。

そして、低い、ノイズ混じりの声が響いた。

まるで遠い回線から届くような、歪んだ響き。

『……クロノ……か……?』

ミラースが目を丸くした。

「声……!どうして……?」

クロノは動じず、煙を吐く。

「リコンストラクトの効果だ。あいつの“一部”を引き出したんだから、声くらい通じるさ」

右手の指が、ゆっくりと曲がる。

まるで言葉を紡ぐように。

『……D.E.Xの……監視……気をつけろ……  裏層は……“棄て場”じゃねぇ…… もっと……深い……』

声が途切れ、右手が静止した。

クロノの瞳が鋭く光る。

「……深い?どういう意味だ」

再び沈黙。

ミラースが解析視界を深く掘る。

「エネルギー流が……切れかけてます。  でも、この右手は“鍵”になるかも。次に裏層へ入るための、座標や……」

そのとき、倉庫の外で金属音が響いた。

低く、規則的な──ドローンの羽音。

ミラースが即座に反応。

「 OWLの監視ドローン……!  接近中です!」

クロノは右手をつかみ、ポケットに押し込んだ。

「来やがったか。D.E.Xの命令だろ」

倉庫の扉が爆ぜ、黒い影が飛び込んでくる。

OWLの特殊部隊──強化スーツを着た捜査官たち。

先頭は、アキサワ副主任。

彼女の目は、無機質だが、どこか揺れている。

「クロノ・ハザード。お前はD.E.Xの削除対象に指定された。抵抗するな」

クロノはカメラを構え、シャッターを切った。

現像紙から、厚い壁がせり上がり、部隊を阻む。

「アキサワ……あんたも知ってるはずだ。  ライアスは消されてねぇ。D.E.Xが隠してる“裏層の秘密”を、暴くだけだ」

アキサワの声が、わずかに震える。

「……それが、秩序の崩壊を招く。上層の命令だ。従え」

ミラースがクロノの横に立つ。

「副主任、私たちを信じて!ライアスさんは、まだ──」

銃声。

アキサワの部下が、警告射撃を放つ。

倉庫が戦場と化す。

クロノは写真を次々と具現化。

銃、盾、煙幕──

脳の痛みが、限界を告げる。

ミラースが解析視界で敵の動きを読み、叫ぶ。

「左から三人!重武装!」

クロノはリコンストラクトで壁を崩し、脱出口を作る。

二人は倉庫の裏へ逃げ込む。

背後で、アキサワの声が響く。

「……クロノ、待て!」

だが、追跡は容赦ない。

空にドローンが群がり、街路を封鎖する。

D.E.Xの赤い光が、CIVIA全体を覆い始める。

『対象追跡中。全層に警戒態勢を発令。』

無機質な放送が、都市に流れる。

クロノとミラースは、下層の路地へ潜る。

息を荒げながら、クロノは右手を取り出した。

再び、声が響く。

『……逃げろ……クロノ……D.E.Xの……本当の姿は……“層の底”に……』

ミラースが頷く。

「……行きましょう。次は、もっと深く」

クロノはタバコを捨て、笑った。

「そうだな。今度こそ、全部ぶち壊す」

夜の闇に、二人の影が溶け込む。

追跡者の足音が、遠くから近づいていた。

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