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Realize  作者: 147
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再度

第3層、深夜。

OWLの支部ビルから離れた、廃倉庫の影。

クロノとミラースは、薄暗い照明の下で地図を広げていた。

ハードディスクから抽出された裏層の座標データ。

歪みの発生ポイントをプロットすると、CIVIAの各層に“穴”が点在していることがわかった。

まるで都市の血管に開いた傷口のように。

ミラースがホログラム端末を操作し、解析視界のログを重ねる。

「前回の侵入で、裏層の“拒絶反応”が確認されました。次はもっと早く閉じるはずです」

クロノはタバコの煙を吐きながら、古いポラロイドカメラを弄っていた。

「……時間稼ぎが必要だ。リコンストラクトで“安定した構造”を作り出す」

「でも負荷が……」

「わかってる。だから、お前が俺の“アンカー”になる」

ミラースの瞳がわずかに揺れた。

「アンカー……?」

「解析視界で俺の脳波を監視しろ。  限界が来たら、強制的に引き戻せ」

彼女は静かに頷いた。

「……わかりました。でも、約束してください。  無茶はしないって」

クロノは苦笑した。

「約束はできねぇ。あいつを連れ戻すためなら、何だってする」

──準備は二つ。

一つは“武器”となる写真の収集。

クロノはここ数日、第1層から第4層までを回り、

頑丈な壁、強固な床、安定した光源──

裏層の“崩壊”を遅らせるための“現実の断片”を撮りためていた。

もう一つは、ライアス自身の“像”。

あの笑顔のポラロイドだけじゃない。

クロノは胸ポケットから、もう一枚を取り出した。

ライアスが重力の楔を放つ瞬間を捉えた、動的な一枚。

「これを……“再構築”の核にする」

ミラースがそれを見て、小さく息を呑んだ。

「……危険です。不完全な情報を具現化したら、あなたの脳が──」

「それでもいい。あいつの“一部”でも、現実に引き戻せれば」

夜が深まる頃、二人は再び第1.5層へ潜った。

前回と同じ工業プラント。

壁の歪みが、すでに微かに波打っている。

ミラースが解析視界を展開。

「入口、安定しています……今なら」

クロノはカメラを構え、シャッターを切った。

現像された写真から、厚い防壁が現実へせり上がる。

裂け目の周囲を囲い、閉じる速度を遅らせるための“檻”。

「行くぞ」

二人は光の中へ飛び込んだ。

──裏層、再び。

前回よりも、崩壊の速度が早い。

建物が溶けるように沈み、空がひび割れる。

だがクロノの防壁が、わずかに時間を稼いでいた。

街の奥、ライアスの残像がいた場所へ急ぐ。

ミラースが叫ぶ。

「エネルギー流が乱れてます! 5分が限界です!」

クロノは走りながら、写真を次々と具現化。

床を固定し、道を繋ぎ、崩れる建物を支える。

脳が焼ける痛み。

視界の端がノイズで滲む。

それでも止まらない。

角を曲がった先──

白い亀裂の影が、また立っていた。

だが、前回より輪郭が鮮明だ。

顔の半分が、ライアスの特徴を保っている。

『……クロノ……また、来たのか……』

声に、かすかな怒りが混じる。

『戻れ……俺はもう……』

クロノはカメラを向けた。

シャッター。

現像された写真から、ライアスの“動いている姿”が、ゆっくりと現実へ引き出される。

白い影が、肉体を取り戻すように色づき始める。

だが、不完全だ。

右手だけが異様に歪み、重力の楔の痕が黒く滲んでいる。

『……痛ぇ……やめろ、クロノ……!』

ミラースが叫ぶ。

「脳波が危険域!もう限界です!」

クロノは歯を食いしばった。

「あと少しだ……!」

ライアスの半身が、ほぼ実体化した瞬間──

裏層全体が激しく軋んだ。

D.E.Xの無機質な声が、再び響く。

『不正アクセス再確認。対象の完全削除を実行。  バックレイヤー・パージ開始。』

空間が圧縮される。

クロノの防壁が、一瞬で粉砕された。

ライアスの姿が、再び白い亀裂へ戻り始める。

『……クロノ……逃げろ……!次は……お前も……』

クロノは最後の写真を構えた。

笑顔のライアスと、自分の肩を叩く一枚。

「リコンストラクト──!」

光が爆ぜ、ライアスの“右手”だけが、現実側へ引き出された。

実体のある、温かい肉の手。

だが、それだけだった。

裏層が完全に閉じ、二人は現実へ弾き出された。

第1.5層の冷たい床に倒れ込む。

クロノは荒い息を吐き、震える手でその“右手”を見た。

切り離された、ライアスの右手。

まだ微かに、重力が脈打っている。

ミラースが、涙声で言った。

「……ごめんなさい……私、止められなくて……」

クロノは、ゆっくりとそれを胸に押し当てた。

煙草を咥え、火をつける。

煙の向こうで、右手がわずかに動いた気がした。

「……十分だ。あいつは、まだ“向こう側”で戦ってる」

夜の闇に、二人の影が長く伸びる。

遠くで、監視ドローンの赤い光が、また点滅を始めた。

だが今度は、クロノの瞳に──

明確な、燃えるような決意が宿っていた。

「次こそ、全部連れ戻す」

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