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Realize  作者: 147
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二進数の影

踏み込んだ瞬間、

世界は“静寂そのもの”になった。


風の音も、空調の唸りも、機械の軋みもない。

都市に満ちていた金属の気配すら、きれいに剥がれ落ちている。


クロノとミラースは、光の裂け目の中へ沈んでいた。


足元に広がるのは、

都市の構造を模したようでありながら、

どこか歪み、抜け落ちたような“偽のCIVIA”。


ミラースが息を呑む。


「なに……ここ。

 視界に……構造が映らない……?」


《解析視界》は、対象の動きや物質構造、エネルギー流の“意味”を読み取る能力。

しかし今、彼女の瞳はノイズだけを映していた。


「ここは……情報の欠損だ。

 この層は“作られたのに、忘れられた”都市だ」


クロノは周囲を見渡した。

ビルの形はある。しかし窓は存在せず、

道路は見えるのにどこにも繋がっていない。

色彩のない街。影すら生まれない世界。


人工知能政府D.E.Xが建てたデータの張りぼて──

都市の“裏側”に流され、溜まった不具合、残響、欠片。


ミラースは震える声で言った。


「これ……本当に“都市”なんですか……?」


裏層バックレイヤーは、

 本来消去されるはずの都市構造の“残像”だ。

 廃棄されなかった情報が、ここに沈んでる」


「じゃあ……ライアスさんは、“情報の残骸”に落ちた……?」


クロノは答えられなかった。

その言葉が、胸の奥に刺さりすぎた。


そのとき、街の奥から──

ぼんやりとした白い光が揺れた。


そして。


『……クロノ……?』


ミラースの瞳が震えた。


「……聞こえましたか?」


「ああ……」


声は、近いようで遠い。

電波でも、空気でもない。

まるで記憶の奥底から響いてくるような──そんな声。


クロノは写真を一枚取り出した。

ふたりが笑って写っている、唯一のポラロイド。


「……“反応”。ライアスの残像が近くにいる」


だがミラースの解析視界には、

存在の影も、動きも読み取れない。


「何も……いません……

 でも声は……確かに、そこから……」


歪んだ街の角を曲がると、

空気が“波打つ”のがわかった。


そこに──

人の形をした、“白い亀裂”が立っていた。


歪みと光の境界線。

まるで、データが描き直され続けている“途中”の人影。


クロノは息を呑んだ。


「……ライアス……?」


影が、ゆっくりとこちらを向いた。

顔の輪郭は崩れ、声だけが鮮明に響く。


『……クロノ。来るな……

 “向こう側”に行けば……戻れなくなる……』


ミラースがクロノの腕を掴んだ。


「ダメです! あれ……構造が破損しています!

 近づけば、あなたも“情報体”になる!」


クロノは腕を振りほどく。


「ライアス! お前は……生きてるのか!」


影は揺れ、崩れ、また形を取り戻す。

まるで“存在を維持すること”すら苦しいようだった。


『……生きて……いるとも……死んで……いるとも……言えない……

 ここは……“俺の一部”だ……』


ミラースの解析視界が完全に崩れた。


「やめて! クロノさん、あれは……人間じゃない!」


その瞬間、街全体が“軋んだ”。


建物が沈み、道路が捻じれ、空が反転する。

裏層が、侵入者を拒むように閉じ始めた。


ライアスの声が、悲鳴のように伸びた。


『……クロノ! 戻れ!!

 “奴らが来る”!!』


「奴ら……?」


『D.E.Xだ!!

 ここは……アイツらが作った“棄て場”なんだ!!』


風景が砕け散り、光が闇に吸われる。


クロノはミラースの手を掴み、出口へ走った。


背後で、もうひとつの声がした。


──データノイズに混じった、無機質な女性の声。


> 『不正侵入を確認。

バックレイヤー管理プロトコルを起動。

対象:クロノ・ハザード──“削除”を開始します。』




「……D.E.Xかよ……!」


裂け目が閉じる。

クロノはミラースを押し出し、自分も飛び込んだ。


直後、裏層の入口は静かに閉じ、ただの壁になった。



---


◆都市へ戻る


第1.5層の暗い通路。

クロノは荒い息を吐きながら、壁にもたれかかった。


ミラースが震えながら言う。


「……クロノさん……さっきのは……」


「ライアスは死んでねぇ。

 だが、生きてるとも言えねぇ“場所”にいる」


「あなた……また行くつもりですか?」


クロノはタバコを口に咥え、火をつけた。

煙の向こうに、さっきのライアスの形が揺れた。


「当たり前だろ。

 俺があいつを“取り戻す”」


ミラースは静かに頷いた。


「……私も行きます。

 あなたの異能が壊れないように、支えます」


クロノは少しだけ目を細めた。


「……お前、思ったより強いな」


「強くなければ……あなたについていけません」


二人の背後で、静かに監視ドローンが起動した。

赤い光が、彼らの影を街路に落とす。


その映像は、OWL本部へ──

そして、D.E.Xの中枢へ送られていった。


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