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Realize  作者: 147
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虚ろ

CIVIAの地下は、昼も夜も関係なく暗い。

第2層からさらに下、公式には存在しない“第1.5層”。

老朽化したインフラ網と旧時代の端末が絡まった、都市の腸。


クロノは、古い電脳市場〈スパイラル・ベルト〉へ向かっていた。

ライアスがよく使っていた、非正規の情報屋がいる場所だ。


足元のグレーチングの隙間から蒸気が吹き上がる。

遠くではジャンキー同士の喧嘩が金属音を響かせる。

空気は鉄と薬品の匂いで満ちていた。


ミラースは、息を抑えるようにして歩く。


「ここ……本当に“街の中”なんですか?」


「表向きは存在しない区画だ。OWLもD.E.Xも触れたがらねぇ」


「どうして……?」


「制御不能な異能者や、“都市の欠片”が沈んでるからだ」


ミラースの解析視界が起動し、周囲の光が微かに揺れた。

通常の路地にはあり得ない“流れ”が壁の裏側に集まっている。


──何かが、吸い込んでいる。


「クロノさん、ここ……空間流の挙動がおかしいです」


「わかってる。ライアスを消した“異能”と同じ匂いだ」




◆電脳市場〈スパイラル・ベルト〉


紫と青のホログラム看板が、暗闇で乱反射する。

人の顔をした機械や、全身を義肢にした者たちが雑踏を行き交う。

クロノは迷わず、路地奥にある古い自動販売機へ向かった。


機械の表面を軽く叩く。


「……生きてるか? ジン」


自販機の中からガラガラと音がし、

横のパネルがスライドして奇妙な義眼が覗いた。


「あぁ……クロノじゃねぇか。

 てめぇの相棒が消えたって噂、聞いたぜ」


ミラースが眉をひそめる。


「ここ、情報屋……ですか?」


「“情報の墓場”だよ、お嬢ちゃん。死んだ情報しか置いてねぇ」


義眼の男ジンは、機械の奥でケラケラと笑った。


「で、クロノ。ライアスの件で来たんだろ?」


「……あの夜、歪みの中に“手”を見た。

 空間の奥へと引きずられた痕跡があるはずだ」


ジンの義眼が、ギラリと光る。


「あるぜ。“見せられない情報”がな」


クロノはそれを聞き、静かにタバコを取り出した。


「……D.E.Xの検閲か」


「ご名答。だが──消し損ねた“残響”が一つある」


ジンは自販機の下から、古いハードディスクを引きずり出した。


「ライアスが最後にアクセスしたデータログだ。

 そこに、“裏層バックレイヤー”の座標が記録されてる」


ミラースが息を呑む。


「裏層……?」


「都市の“もうひとつの地図”だよ。

 D.E.Xが管理するはずの、触れちゃいけねぇ領域だ」


クロノはハードを受け取り、ポケットにしまった。


「ジン、借りるぞ」


「構わねぇが……気をつけな。

 裏層を覗こうとした奴は、全員“消えた”」


ジンの声は、今までにないほど低かった。




◆OWL本部──監視室


同時刻。

ミラースの通信ルートが監視網を通過した瞬間、

OWLの監視端末が赤く点滅する。


『対象:クロノ・ハザード

行動ルート逸脱──第1.5層へ侵入』




監視官アキサワは、無表情のまま画面を見つめた。


「……また勝手に潜ったか」


だが、その目の奥には微かな懸念と迷いがあった。


「ライアス……本当に消えただけなのか?」





◆裏層への裂け目


旧市街の外れ。

クロノとミラースは、ハードディスク内の座標を辿り、

錆びた工業プラントへ辿り着いた。


ミラースが解析視界を最大出力にする。


「……歪み、あります。

 これ……“入口”です」


薄闇の中、壁がゆっくりと波打った。


コンクリートの裏に、別の空間がある。

ライアスが消えた、あの“向こう側”──


クロノは写真を一枚取り出す。


そこには、ライアスの背中。

無造作に笑いながら、クロノの肩を叩いている。


「……行くぞ、ミラ」


ミラースは、静かに頷いた。


波打つ壁が裂け、白い光が零れ落ちる。

二人はその裂け目の前に立った。


足を踏み入れた瞬間、世界が反転する。


金属音が消え、風の音がなくなり、


ただ──

聞き覚えのある男の声だけが響いた。


『……クロノ?』


クロノは息を止めた。


『そこに……来たのか……?』


ライアスの声だった。


だがその響きには、生者の温度がなかった。



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