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Realize  作者: 147
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残響

CIVIA第4層、夜。

冷却塔の蒸気が空を覆い、青いネオンが霧の中で脈打っている。

昨夜の爆心地だったハウリング街区は、今も警戒ドローンが巡回していた。

OWLの現場規制ラインの内側に、クロノとミラースの姿があった。


焦げたアスファルトに、黒い影が滲む。

歪みの残滓──空間を裂いた“異能”の爪痕。

普通の人間には見えないが、ミラースには鮮明に見えていた。


「ここです。歪みがまだ……生きている」


彼女の瞳が淡く光り、空気の流れを読む。

《解析視界》が展開され、波紋のような線が宙に広がった。


クロノは黙って写真を構える。

一瞬のシャッター音。

現像されたポラロイドが、彼の掌でゆっくり色づく。


「リコンストラクト、始動」


淡く輝く像が立ち上がり、焼けた路地が再構築される。

昨夜の戦闘が、残像のように蘇る。

光の壁、歪む影、空間を切り裂くジャンキーの腕。

そして──

裂け目の奥、掴み取れそうで掴めない“誰か”の右手。


クロノの視界が白く飛んだ。

脳に刺すようなノイズ、神経が焼けるような痛み。

ミラースがすぐに反応した。


「クロノさん、解除して! 神経負荷が限界です!」


「……まだだ」


「ダメです! あなたの脳波が乱れてる!」


クロノは息を荒げながらも、ポラロイドの像を見据えた。

そこに確かに、“声”があった。

――クロノ、来るな。

――ここは、まだ……閉じていない。


そして次の瞬間、像が弾け、全てが闇に呑まれた。


彼は膝をつき、深く息を吐く。

焦げた煙が辺りに広がる。

ミラースは彼の肩に手を置いた。


「あなた……あの声、誰なんですか?」


クロノは答えず、ただ遠くの街の灯を見つめていた。

歪んだ空の向こうに、まだ見ぬ真実があるように。


翌朝。OWL第9班支部。

報告書のデータが自動送信され、室内に低い電子音が響く。

モニターに表示された上層部からの通達。


『ハウリング街区の異能暴走事件は、“独立因子”によるものと断定。

これ以上の調査は不要とする。第9班は通常任務へ復帰せよ。』




クロノは報告を閉じる。

ミラースがその横顔を見て、小さく呟いた。


「……あの映像、あなたのリコンストラクトが見せた“幻”じゃない。

 現実に、空間の向こうに何かがありました」


「わかってる。だがOWLもD.E.Xも、俺たちにそれを掘らせる気はない」


「どうして、ですか?」


「“消されたもの”を暴くのは、秩序にとって都合が悪いんだよ」


煙草に火をつけ、クロノは窓の外を見上げた。

第4層の空は、人工の朝焼けに染まっていた。

だがその光は、どこか冷たかった。


ミラースは黙って立ち上がり、ホログラム端末を閉じる。

彼女の視界には、まだあの“歪み”が残っていた。

見えない何かが、彼らを見ている。


夜。

クロノはOWLの公式ルートを外れ、第3層の旧市街へ向かっていた。

無人市場、崩れた鉄骨、落書きまみれの壁。

都市の下層に、OWLの手が届かない情報屋たちが潜んでいる。


通信越しに、ミラースの声が聞こえる。


「クロノさん。命令違反になります。戻ってください」




「俺は任務中だ。失踪した捜査官の“所在確認”ってやつだ」


「その“捜査官”って……ライアスさん、ですか?」




クロノは足を止め、煙を吐いた。

夜風に混じって、焦げた鉄の匂いがした。


「もし奴がまだ生きてるなら、この街のどこかに“痕跡”がある。

 リコンストラクトで見えたのは──その入口だ」


「入口……?」


「空間の向こう側だよ。

 人間が覗いちゃいけない、“CIVIAの裏側”にな」




クロノが歩き去った後、通話が途切れる。

OWL本部の通信端末に、別の通信が割り込んだ。


『監視対象:クロノ・ハザード。行動ルート、逸脱を確認。』




無機質な女性の声。

モニターには、CIVIAの全層構造がホログラムで映し出される。

D.E.Xのエンブレムが、ゆっくりと光を放った。


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