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Realize  作者: 147
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灰に潜む声

夜明け前のCIVIA第2層は、静まり返っていた。

再利用業者の溶接音も止み、ネオンの残光だけが鉄の街を照らしている。

OWLの支部ビル──コンクリートと配線がむき出しの無骨な空間の中、

クロノは机に散らばる写真を睨んでいた。


モノクロの一枚には、あの日の残骸が写っている。

溶けた道路、光の歪み、そして“消えたはずの影”。

焼け焦げた空間の端に、わずかに残る輪郭。

誰も気づかなかったそのノイズを、クロノだけが見逃さなかった。


「……ライアス、お前は本当に“消えた”のか?」


指先が写真を撫でるたび、頭の奥で痛みが走る。

具現化能力リコンストラクトを無理に使った後遺症だ。

写真や描写を現実に“再現”する力──

それはこの街の誰よりも繊細で、危険な異能。

構成するイメージが曖昧なら、出力されるものも壊れる。

使えば使うほど、脳が焼ける。

だがクロノにとって、それは唯一の武器だった。


壁際の端末が光り、通信が入る。

OWL第9班の副主任、アキサワの無機質な声が流れた。


> 『クロノ。上層から指令だ。お前の担当事件は“完了”とされた。報告書を上げろ』




クロノは答えず、タバコに火をつける。

煙が揺らめき、写真の上に影を落とした。


「……あんたら、死体が出なきゃ終わりだって言うんだろ。

 でも、空間に呑まれた奴の“死”を、どう証明する?」


返答はなかった。通信は淡々と切断される。

静寂の中、クロノは椅子から立ち上がる。


机の引き出しから、一枚の古いポラロイドを取り出した。

そこには笑うライアスの姿がある。

それを壁に貼りつけ、クロノは小さく呟いた。


「お前を“再構築”してやる……どんな形でもな」



---


翌日、OWL本部・セントラルベルト第6層。

人工空の下、クロノは呼び出しを受けていた。

上層の空気は乾いていて、どこか無臭だ。

白い壁、無表情な警備ドローン。

ここでは感情を見せることすら、秩序の乱れとされる。


会議室の中央、ホログラム越しに映る監査官が言った。


> 「クロノ・ハザード。君の行動は規定違反だ。単独での再捜査は許可されていない」

「……」

「よって、今後は監査官付の新人と行動してもらう。観察を兼ねてだ」




その瞬間、扉が開いた。

銀髪を短く束ね、真っ直ぐな瞳をした若い女性が立っていた。

OWL新人捜査官ミラース・レイン

彼女の異能は“解析視界”──対象の動作、構造、エネルギーの流れを読む能力。

理論派、かつ正義感が強すぎるタイプ。


> 「あなたがクロノ・ハザード警部補……ですか」

「お前が“監視役”か?」

「観察です。命令ですから」




無機質な言葉に、クロノは苦笑した。

ライアスと違って、感情の温度がまるでない。

だが、その瞳の奥に一瞬だけ、何かが揺れた気がした。


> 「あなた、誰かを探しているんですね」

「……どこでそれを」

「“写真”が全部、見えてます。あなたの心の中の像も」




その言葉に、クロノの呼吸が止まった。

彼女の視界には、クロノの頭の中で焼きついた“ライアスの姿”が見えているという。



---


その夜、第1層の廃墟街ハウリングで、再び異能暴走の報告が入る。

現場へ向かうクロノとミラ。

腐食した道路を走るホバーバイクの上で、クロノは呟く。


「……“あの日”と同じ反応パターンだ。歪みが出てる」

「空間歪曲系……ライアスさんを消した異能と、同系統」

「だろうな。今度こそ、尻尾を掴む」


夜霧の中、光の裂け目が走った。

そこから現れたのは、空間を切り裂く異能ジャンキー。

半身が歪み、身体の一部が別次元に滑り込んでいる。

人の形を保つのも限界だった。


> 「“構築”するぞ、ミラ。下がってろ」




クロノはカメラを構え、シャッターを切った。

現像されたポラロイドの中から、光の壁が現実にせり上がる。

具現化された防壁が、歪みの波動を受け止めた。


脳が焼けるような痛み。視界が歪む。

それでもクロは笑った。


「今度は、逃がさねぇ――」


空間の裂け目の向こう、かすかにライアスの声が聞こえた気がした。

「……クロノ、まだ……来るな……」


歪みが爆ぜ、現場は閃光に包まれた。

その中で、クロノは確かに見た。

歪みの奥に、ライアスの右手が伸びていたことを――。



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