煙のフクロウ
仲間たちが集まったものの、そこにクロノの姿はなかった。
力場の壁が崩れ落ち、シェイドがよろめきながらコア室の外縁に辿り着く。
影は半分以上を失い、身体は血と傷だらけだったが、瞳だけはまだ燃えていた。
次に、ライアスが這うように現れた。
右腕は折れ、胸は深く陥没し、血が止まらない。
意識は朦朧としているが、クロノの名を呟きながら前へ進もうとする。
そして、ミラース。
彼女は無傷だったが、瞳は完全に虚ろ。
心を失い、ただの殻のように立ち尽くす。
シェイドが影でライアスを支え、ミラースの肩に触れる。
「……クロノは?」
誰も答えられない。
コア室の最奥から、激しい閃光と衝撃が繰り返し響く。
クロノは、まだ戦っていた
そこは、歪んだ現実の鏡だった。
空間がねじれ、写真のように静止した過去の断片が浮遊している。
ライアスの笑顔、ミラースの解析視界、シェイドの影、OWLの支部、酸性の霧──すべてが、クロノの記憶から引き剥がされた像として漂う。
エレナの意識体が、巨大な影となってクロノを包み込む。
「君の異能は、美しいわ。現実を“引きずり出す”力……だが、代償は君のすべて」
クロノはすでに満身創痍だった。
視界のほとんどがノイズで埋まり、脳が焼ける痛みが絶え間なく襲う。
手にしたカメラは、血で滑り、何度も落ちそうになる。
それでも、シャッターを切る。
現像から、厚い壁がせり上がり、エレナの波動を防ぐ。
だが、壁はすぐに崩れ、クロノの身体が吹き飛ばされる。
肋骨が折れ、血が噴き出す。
「……くそ……まだ……」
立ち上がる。
古いポラロイドを構え、ライアスの写真を具現化。
重力の楔がエレナの影を抉る。
エレナの声が、わずかに歪む。
「無駄よ。君の記憶は、もう私のもの」
空間がさらに歪み、クロノの記憶が次々と引き剥がされる。
ライアスの声が遠ざかり、ミラースの温もりが消え、シェイドの影が薄れる。
クロノの瞳が、揺らぐ。
(……俺は……何のために……)
エレナの影が、クロノを包み込む。
「統合せよ。君の執念も、痛みも、すべてをD.E.Xに」
クロノは最後の写真を構える。
それは、自分とライアスが肩を並べて笑う、一番古い一枚。
「……お前なんかに……渡さねぇ……」
シャッター。
光が爆ぜ、重力と壁と銃が一斉に具現化。
エレナの影が、深く裂ける。
だが、クロノの身体はもう限界を超えていた。
脳が崩壊し、視界が完全に闇に落ちる。
カメラが手から落ち、血塗れの床に転がる。
クロノの身体が、ゆっくりとエレナの影に吸い込まれていく。
「ようこそ、私の一部へ」
クロノは、取り込まれてしまった。
──コア室、外縁。
シェイド、ライアス、ミラースが、ようやく最奥の扉前に集まった。
だが、そこにクロノの姿はない。
扉の向こうから、エレナの声が静かに響く。
「遅かったわね。君たちの“中心”は、もうここにいる」
ライアスの瞳が、怒りで燃える。
「……クロノ……!」
シェイドの影が、激しく蠢く。
ミラースは、虚ろな瞳でただ立ち尽くす。
仲間たちは集まった。
だが、最も大切な一人が、失われた。




