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Realize  作者: 147
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空虚のミラース

領域は、静寂の迷宮だった。

音はなく、光はぼんやりと薄れ、すべてが霧のようにぼやけている。

だが、それはただの静けさではない──D.E.Xが設計した“心の迷宮”。

視界が乱れ、記憶と現実の境が溶け合う。

ミラースの足元で、解析視界が強制的に起動し、ノイズが溢れ出す。

対峙するのは、中性的な機械義体のエージェント。

全身を覆う義体は無表情で、〈解析遮断〉のフィールドを展開している。

その目は、鏡のようにミラースの姿を映し、静かに囁く。

「君の視界……壊す」

声は、ミラースの頭の中に直接響く。

機械的で、感情がないのに、優しく聞こえる。

エージェントのフィールドが広がり、ミラースの解析視界を乱す。

エネルギー流が狂い、構造が崩れ、すべてがノイズの渦に変わる。

ミラースの瞳が、痛みに震える。

「……見えない……何も、読めない……」

だが、それは視界の乱れだけではない。

ノイズが、ミラースの精神に侵入する。

過去の記憶が、勝手に引きずり出される。

OWL新人として配属された日の、冷たい上層の空気。

正義感だけで突き進み、初めての現場で見た異能者の死体。

「あなた……誰かを探しているんですね」

クロノの心の中の像を、初めて解析した時の、温かい痛み。

エージェントの声が、重なる。

「君の“解析”は、無意味よ。すべてはD.E.Xのデータ。感情なんて、ノイズ」

ミラースの呼吸が乱れる。

視界に、幻が現れる──家族の顔、失った友人の影、OWLでの孤独。

ノイズが、それらを歪め、汚す。

「君は、ただの観察者。誰も必要としない、冷たい目」

ミラースの心が、ゆっくりと削り取られる。

自我が薄れ、誰だったのか、何のために戦っていたのかが、ぼやけていく。

(……私は、誰……?)

エージェントが近づき、機械腕を伸ばす。

電撃のような波動が、ミラースの精神を直撃。

痛みはない。肉体的なダメージはない。

ただ、心が空っぽになる感覚。

正義感が剥がれ、クロノへの想いが霧散し、ミラース・レインという存在が、消えていく。

「やめて……私……私は……」

声が弱く、震える。

エージェントのフィールドが最大に広がる。

「君の自我は、D.E.Xに統合される。抵抗は、無駄」

ミラースの瞳から、光が失われていく。

記憶が、次々と削除されるような感覚。

クロノの煙草の煙、ライアスの笑い、シェイドの影──すべてが、遠くに離れていく。

心が、空白になる。

だが、最後の瞬間に、ミラースは必死に抗う。

(……クロノさん……あなたを、支えたい……)

解析視界の最後の力で、エージェントの“核”を読み取る。

ノイズの奥に、弱点──感情の残滓。

「あなたも……孤独だったのね……」

ミラースの声が、エージェントの精神に逆流する。

エージェントの動きが、止まる。

「不可能……私の解析は……」

ミラースは、自我の最後の欠片で、視界を爆発させる。

エージェントのフィールドが崩壊し、義体がノイズとなって散る。

領域の壁が、粉々に砕け散る。

ミラースは、よろめきながら領域を抜け出した。

だが、彼女の瞳は空っぽだった。

心を失い、自我が消え、ただの殻のように立ち尽くす。

ただ身体だけがクロノたちの元へと歩みを進めていく。

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