表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Realize  作者: 147
15/18

楔のライアス

領域は、重力の地獄だった。

空気が鉛を溶かしたように重く、息をするたびに肺が潰れそうになる。

床はゆっくりと沈み込み、立っているだけで骨が軋み、関節が悲鳴を上げる。

視界の端が、圧力で歪む。

対峙するのは、巨漢のエージェント。

筋肉が異常に膨張し、皮膚の下で黒い血管が脈打っている。

〈重力増幅〉の異能者──D.E.Xが統合した、かつてのOWL捜査官の残骸。

その目は完全に死んでいて、ただ「潰す」という命令だけを宿していた。

巨漢が一歩踏み出す。

領域全体の重力が倍加。

ライアスの膝が、深く沈む。

「……ぐっ……!」

歯を食いしばり、〈重力の楔〉を拳に凝縮して耐える。

だが、巨漢の圧力は容赦なく増していく。

二歩目。

重力がさらに跳ね上がり、ライアスの肩が軋む音が響いた。

肋骨が一本、ひび割れる。

巨漢が低く唸る。

「潰……す……」

振り下ろされた拳。

空気が歪み、衝撃波のような重力がライアスを叩きつける。

咄嗟に腕で受け止めるが、左腕の骨が砕ける音がはっきり聞こえた。

激痛が走り、視界が白く飛ぶ。

(くそ……こいつの重力は、俺のより“純粋”だ……D.E.Xに最適化されてやがる……)

裏層での記憶が、容赦なく蘇る。

あの“棄て場”で、身体が徐々に圧縮され、意識が薄れていく感覚。

骨が折れ、内臓が潰れ、息ができなくなるあの絶望。

ライアスは血を吐き、笑った。

「……似てるな、あの時の痛みとよ」

巨漢がさらに質量を増大させ、突進してくる。

ライアスは右拳だけに全重力を集約。

迎え撃つ。

拳と拳が激突。

領域が震え、力場の壁に深い亀裂が入る。

衝撃でライアスの右肩が脱臼し、肋骨がさらに二本折れた。

内臓から血が込み上げ、口から溢れる。

それでも、巨漢をわずかに押し返す。

巨漢の表情が変わらない。

ただ、質量をさらに倍化。

ライアスの足が地面にめり込み、膝から下が砕け始める。

(……もう、立てねぇ……)

視界がぼやけ、意識が遠のく。

クロノの顔が浮かぶ。

あの煙草を咥えた、冷めた目。

「お前を“再構築”してやる……どんな形でもな」

ライアスの瞳に、火が灯った。

「……てめぇらに……俺の相棒を……渡さねぇ……!」

残った力を、すべて右拳に込める。

重力の楔が、黒い渦となって膨張。

巨漢が最後の突進。

二つの重力が、正面から激突する。

轟音。

領域全体が歪み、力場の壁が粉々に砕け散る。

巨漢の身体が、内部から圧縮され、皮膚が裂け、骨が砕け、質量が自らを潰していく。

だが、ライアスも限界だった。

右腕が折れ、胸が深く陥没。

血が噴き出し、膝から崩れ落ちる。

巨漢が、最後に倒れる。

エージェントの残骸が、ノイズとなって消える。

ライアスは、這うようにして力場の亀裂を抜け出した。

廊下のような空間に倒れ込み、動けなくなる。

息が浅く、血が止まらない。

肋骨のほとんどが折れ、内臓が損傷している。

「……くそ……ここまで、か……」

だが、目はまだ死んでいない。

クロノたちの気配を、遠くに感じる。

「……行けよ……クロノ……俺の分まで……」

ライアスは、そこで意識を失った。

次の戦いに、立つことはできない。

だが、生きて──たどり着くことはできた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ