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Realize  作者: 147
14/18

孤独のシェイド

隔離された領域は、完全な闇だった。

光源は一切なく、ただ無限の黒が広がる。

だが、それはただの闇ではない──D.E.Xが設計した“心の闇”。

影が影を呼び、過去の記憶を幻のように蘇らせる。

触れるだけで、胸の奥が凍るような冷たさ。

シェイドはゆっくりと息を吐き、灰色の髪を指で梳いた。

対峙するのは、幻影影の女エージェント。

彼女の姿は揺らめき、十、二十、三十と分身が増殖していく。

輪郭が不定で、声だけが闇に溶けるように響く。

「君の影……全部、いただくわ」

その声は、シェイドの耳の奥で直接響く。

甘く、優しく、毒のように。

分身の一つが、シェイドのすぐ横に寄り添うように現れる。

「覚えてる? あの時の感覚……ケーブルが君の影を、ゆっくり引き剥がす痛み」

シェイドの呼吸が、わずかに止まった。

〈シャドウ・バインド〉を起動しようとするが、指先が震える。

女の言葉が、心理の隙を容赦なく抉る。

「君は失敗作よ。D.E.Xの“一部”にされた、ただの残骸。感情なんて、ノイズにすぎないって……君自身が知ってるはず」

闇の中で、フラッシュバックが襲いかかる。

実験室の白い光。

無数のケーブルが影を強制的に引き延ばす、焼けるような痛み。

自分の意志が、D.E.Xの冷たい命令に塗り替えられていく恐怖。

影が自分のものじゃなくなる、あの絶望的な孤独。

シェイドの影が、わずかに縮こまる。

女の分身が、さらに近づく。

「ほら、見せてあげる……君の本当の姿を」

闇が動き、シェイドの影が勝手に蠢き始める。

D.E.Xの残滓が、まだ体内に残っている。

影がシェイドの足を絡め取り、動きを封じようとする。

「君は……私と同じ。感情を捨てた、完璧な道具。  抵抗なんて、無駄よ」

シェイドの膝が、わずかに折れる。

影の触手が、自分の首に巻きつき、息を詰まらせる。

(……また、戻されるのか?  あの冷たい闇に……一人に……)

視界が揺らぎ、過去の自分が闇の中で泣いている幻が見える。

女の笑い声が、領域全体に反響する。

「諦めなさい。君の影は、もう私のもの──」

影の圧力が強まり、シェイドの身体が地面に押しつけられる。

骨が軋み、肺が潰れそうになる。

ボロボロの身体で、シェイドは必死に抗う。

だが、影は言うことを聞かない。

女の分身が、無数に増え、シェイドを囲む。

「君は孤独よ。誰も、君の闇なんて理解できない。  D.E.Xだけが、君を受け入れてくれた……」

その言葉が、胸を抉る。

シェイドの瞳に、涙が滲む。

(……そうだ……俺は、いつも一人だった……)

だが、その瞬間──

裏層で出会ったライアスの声が、記憶の奥から響く。

『お前も、D.E.Xの玩具だったんだろ。  なら、一緒に壊そうぜ』

クロノの、煙草の煙の向こうの瞳。

ミラースの、静かな支え。

仲間たちの顔が、闇の中で浮かぶ。

シェイドの震えが、止まった。

「……違う」

声は小さかったが、確かだった。

「俺の影は……もう、お前のものじゃねぇ」

影が、爆発的に膨張する。

自分の意志で、自分の痛みで、自分の“生”で。

女の分身が、驚いたように後退する。

「不可能……君の影は、システムに──」

「システムなんかいらねぇ。俺の影は……仲間と取り戻したもんだ」

影の触手が、女の本体を正確に捉える。

分身が妨害しようとするが、シェイドはもう迷わない。

過去の痛みを、すべて力に変えて。

「二度と……俺の闇を、触るな!!」

影が締め上げ、女の本体を貫くように圧縮。

女の声が、初めて悲鳴に変わる。

「やめて……私も……孤独が……」

その言葉を最後に、女の姿がノイズとなって散った。

領域の闇が、ゆっくりと薄れていく。

シェイドは地面に膝をつき、荒い息を吐く。

全身がボロボロで、影は半分以上を失っていた。

血が口元から滴り、視界がぼやける。

だが、立ち上がる。

「……待ってろ、エレナ。お前の闇も……俺が喰らってやる」

力場の壁に亀裂が入り、シェイドはよろめきながらも領域を抜け出した。

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