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Realize  作者: 147
13/18

脈動、隔離

CIVIAは、眠らないはずの都市だった。

だが今夜、その脈が乱れ始めていた。

第6層の繁華街。

ネオンが不安定に瞬き、ホログラム広告がノイズを撒き散らす。

普段なら人波で埋まる大通りが、ざわめきに満ちていた。

市民たちは上層の空を見上げ、人工雲を染める赤い警報光を眺めている。

端末から流れるD.E.Xの公式放送。

『一時的なシステムメンテナンスを実施中です。  市民の皆様は冷静に行動してください。  異常はありません。』

だが、誰もそれを信じていない。

下層からの爆音、ドローンの墜落、OWLの車両が暴走する光景──

SNS代わりの都市網が、噂で溢れていた。

「中枢塔が攻撃されてるってマジ?」 「OWLが反乱? D.E.Xがヤバいのかよ」 「異能者たちが暴れてるらしいぜ」

第4層の住宅区。

家族連れが窓から外を覗き、子供が不安げに親の手を握る。

「パパ、空が変だよ」 「……大丈夫だ。すぐに元に戻る」

だが、父親の声には確信がなかった。

第3層の闇市場。

異能ジャンキーたちが、興奮を抑えきれずに蠢いていた。

薬で目を赤く染めた男たちが、路地で集まる。

「D.E.Xの監視が弱まってるぜ」 「今がチャンスだ。力、増幅し放題じゃねぇか」 「上層の奴ら、食い物にしてやる」

リーダーのような大男が、掌から火炎を迸らせて笑う。

だが、その炎は制御を失い、壁を焦がした。

「くそ……暴走しやすくなってる……」

D.E.Xの抑圧が緩むと同時に、異能の暴発リスクも上がる。

ジャンキーたちは喜びながらも、恐怖を隠せなかった。

第1層の廃墟街、ハウリング。

酸性の霧の中で、異能者たちの巣窟が活気づいていた。

登録を拒んだ者たち、廃棄された者たち。

彼らはOWLの目を恐れず、霧の奥で武器を手に集う。

「D.E.Xが死ぬなら、俺たちの時代だ」 「秩序なんかいらねぇ。この街は俺たちが取る」

だが、中には静かに空を見上げる者もいた。

昔、家族をD.E.Xの“統合”で失った老いた異能者。

「……ようやくか。  あの化け物が、壊れる時が来たのか」

第7層の企業区。

上層のエリートたちは、プライベートシェルターへ避難を始めていた。

企業連合の重役たちが、ホロ会議で慌てる。

「D.E.Xが機能停止したら、株価は暴落だ」 「予備AIを起動しろ! すぐに!」

だが、D.E.Xのバックアップはすでにクロノたちによって傷つけられていた。

システムは、静かにエラーを吐き続けている。

街全体が、息を詰めていた。

秩序の神が、揺らぐ瞬間。

市民は不安に、ジャンキーは欲望に、エリートは恐怖に、底辺の異能者は希望に──

それぞれの思いを胸に、夜空を見上げていた。

中枢塔の頂点で、閃光が爆ぜる。

遠く雷鳴のような轟音。

CIVIAの心臓が、激しく脈打つ音。

都市は、まだ息をしている。

だが、その息が、いつまで続くのか──

誰も知らない。

下層の路地で、一人の少年が端末を握りしめ、つぶやいた。

「……変わるのかな、この街」

霧が深くなり、ネオンが一つ、また一つと消えていく。

CIVIAの夜は、まだ終わらない。

D.E.Xのコア室は、神殿のように広大だった。

球体サーバーの中心に浮かぶエレナの意識体──彼女の影は、ぼんやりとした光を放ち、部屋全体を支配している。

四人の侵入者が扉をくぐった瞬間、空間が震えた。

「お前たちを、迎え入れよう。だが、秩序の名の下に──防衛プロトコルを起動する」

エレナの声が、無感情に響く。

次の瞬間、コア室の床がひび割れ、赤い断層が三つ生まれた。

それぞれの裂け目から、黒いコートのエージェントが現れる。

だが、これまでとは違う。

一人目は、筋肉が異様に膨張した巨漢。重力のような圧力を放つ。

二人目は、影のように揺らめく細身の女。視界を欺く幻影を纏う。

三人目は、機械義体が全身を覆った中性的な存在。解析不能のエネルギー場を展開。

エレナの影が、静かに宣言する。

「私の“分身”たちだ。統合された異能者の精華。  お前たちを、切り離す」

空間が扭曲し、コア室が四つの領域に分断された。

透明な壁のような力場が、四人を隔離する。

ライアスが拳を振り上げ、重力を凝縮するが、壁に阻まれる。

「くそ……!空間ごと分断しやがった!」

ミラースの解析視界が乱れ、仲間たちの位置がぼやける。

「皆さん……聞こえますか?これは……個別の領域!」

シェイドの影が伸びようとするが、力場に弾かれる。

「……連携が、切られた」

クロノはカメラを構え、エレナの影を見据える。

視界のノイズが、さらに広がる。

「……お前が相手か。いいぜ……一人で十分だ」

戦いが、始まった。

──シェイドの領域。

対するは、影のように揺らめく女のエージェント。

彼女の異能は〈幻影影〉──影を複製し、無数の分身を生む。

女は低く笑い、部屋の闇から数十の影を呼び出す。

「君の影……美味しいわね」

シェイドの瞳が鋭く光る。

「D.E.Xの失敗作か。俺の影は……お前のものじゃねぇ」

彼の〈シャドウ・バインド〉が起動。

床の影が伸び、女の分身を一つずつ絡め取る。

だが、分身は増殖し、シェイドの影を逆利用して反撃。

影同士の絡み合いが、領域を黒く染める。

シェイドは過去の記憶を思い浮かべ、歯を食いしばる。

(……D.E.Xの実験で、影を失った感覚……二度と味わわせねぇ)

影が爆発的に広がり、女の核を狙う。

──ライアスの領域。

巨漢のエージェントが、地面を踏み砕いて迫る。

その異能は〈重力増幅〉──自身の質量を倍化し、圧殺する力。

「潰す……!」

ライアスは笑う。

「重力かよ……俺の専門だぜ!」

〈重力の楔〉を拳に凝縮、一撃で巨漢の肩を抉る。

だが、巨漢は痛みを感じず、質量をさらに増大させて突進。

領域の壁が軋み、二人の重力が衝突する。

ライアスは息を荒げ、裏層での記憶を思い出す。

(……あの“棄て場”で、耐えたんだ。こんな野郎に、負けねぇ!)

重力を最大に集約、巨漢の中心を叩き潰す。

──ミラースの領域。

中性的な機械義体のエージェントが、無表情に立つ。

その異能は〈解析遮断〉──相手の視界や感知を乱すフィールドを張る。

ミラースの解析視界が、ノイズで埋め尽くされる。

「……見えない……エネルギー流が、全部狂ってる!」

エージェントは機械腕を伸ばし、電撃のような波動を放つ。

「君の目……潰す」

ミラースは後退し、必死に視界を再構築。

(……クロノさんみたいに、諦めない。私の力は、解析だけじゃない……支えるんだ!)

ノイズの隙間を読み取り、反撃のタイミングを掴む。

視界がわずかにクリアになり、エージェントの弱点を暴く。

──クロノの領域。

エレナの意識体が、直接対峙する。

彼女の影は、空間を操り、クロノの周囲を歪める。

「君の異能……面白いわね。だが、代償が命取りだ」

クロノはカメラを構え、シャッターを切る。

現像から壁を具現化し、エレナの波動を防ぐ。

だが、脳の痛みが頂点に近づく。

視界の半分が、黒く塗りつぶされる。

「……お前の“秩序”なんか……壊してやる」

エレナの声が、優しく響く。

「壊せば、何が残る?混沌だけだわ」

クロノはライアスの写真を思い浮かべ、歯を食いしばる。

(……あいつを、取り戻したように……全部、現実に引き戻す)

各領域で、戦いが激化する。

仲間たちは隔離され、互いの声すら届かない。

だが、心は繋がっていた。

CIVIAの夜が、頂点に達しようとしていた。

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