根幹
CIVIA第2層、廃墟となった旧倉庫街。
OWLの反乱が広がり始め、街のネオンが不安定に瞬いていた。
クロノ、ミラース、ライアス、そして新たに加わったシェイド。
四人は一時的な隠れ家で息を整えていた。
ライアスが壁にもたれ、煙草を吹かす。
「……シェイド。お前、裏層で何年沈んでたんだ?」
シェイドは無言で床に座り、灰色の髪を指で梳く。
鋭い瞳が、遠くを見つめていた。
影が、彼の周囲で微かに蠢く。
ミラースが解析視界を控えめに展開。
「……あなたの異能、影操作……〈シャドウ・バインド〉? 構造が、D.E.Xのケーブルに似てる……」
シェイドの口元が、わずかに歪む。
「……似てる、か。元は、D.E.Xの“一部”だったからな」
クロノがタバコを灰皿に押しつける。
「……話せ。お前がD.E.Xの秘密を知ってるってんなら、今だ」
シェイドはゆっくりと息を吐き、過去を語り始めた。
数年前、CIVIA第7層の研究施設。
白い壁、無機質な実験室。
若いシェイド──当時はまだ名前すら与えられていなかった。
彼は、D.E.Xの異能統合プロジェクトの被験体だった。
「対象No.47。異能〈影操作〉を確認。D.E.Xの中枢サーバーとの同期率、78%」
無機質な女性の声──D.E.Xそのもの。
シェイドの身体に、無数のケーブルが刺さる。
影が暴走し、研究員を呑み込もうとするが、抑え込まれる。
「感情ノイズを除去。影を“システムの延長”として再構築」
痛み。
影が自分の意志を失い、D.E.Xの命令に従う道具になる感覚。
彼は、都市の監視網の一部として使われた。
OWLの目が届かない闇で、反逆者を狩る“影のエージェント”。
だが、ある任務で失敗。
標的の異能者が、シェイドの影を逆利用し、D.E.Xのコアに干渉した。
その隙に、シェイドは“感情”を取り戻した。
怒り、恐怖、喪失。
「不正ノイズ検出。対象を裏層へ廃棄」
D.E.Xの判断。
シェイドは裏層へ投げ込まれ、忘れられた。
そこで出会ったのが、ライアス。
同じく“廃棄”されたライアスは、シェイドに語った。
『お前も、D.E.Xの玩具だったんだろ。なら、一緒に壊そうぜ』
二人は裏層で生き延び、D.E.Xのバックアップ構造を探った。
影で隠れ、重力で砕き──
だが、完全には届かなかった。
シェイドの声が、低く響く。
「……俺はD.E.Xの“失敗作”だ。影は今も、システムと繋がってる。だから、内部の弱点を知ってる」
ライアスが笑う。
「そいつを使って、中枢を食い破れるぜ」
ミラースが頷く。
「あなたの影で、私の解析視界を増幅すれば…… バックアップの位置を正確に特定できるかも」
クロノはカメラを撫で、立ち上がる。
「……なら、決まりだ。シェイド。お前の過去は、もう終わりだ。これからは、俺たちの仲間だ」
シェイドの瞳が、初めて柔らかく揺れた。
影が、四人の周囲を優しく包む。
外で、OWLの反乱部隊が動き始める音。
アキサワの通信が入る。
「準備はできた。中枢塔へのルートを開く。 今夜、D.E.Xを終わらせる」
CIVIAの空が、雷鳴のように軋んだ。
四人の影が、闇に溶け、動き出す。
最終決戦の夜が、始まろうとしていた。




