第6話「フルーツ電飾大作戦」
翌日の理科室。前夜の“光るカッパと筑後川”は電池切れで終わったものの、観光協会のおじさんの言葉が三人の胸を燃え上がらせていた。
「町おこしになるかもしれん」——その一言が、科学部を動かす原動力になっていた。
「次はもっと華やかにするぞ!」翔太が両手を広げて宣言する。
「田主丸といえば、やっぱフルーツだろ!」
机の上には、果樹園のおばちゃんから追加で届けられた大量の果物サンプル。ブドウ、柿、イチゴ。色とりどりの紙粘土やカラーフィルムが並んでいる。
「でもどうやって光らせるの?」亮が首をかしげる。
「ブドウが光ったら確かにきれいだけど、普通の電球だとただの丸い玉だぞ?」
美咲が手を挙げ、冷静に切り出した。
「LEDを小さな透明カプセルに入れてみたらどうかしら。薬のカプセルでも、ガチャポンのミニケースでもいい。色付きフィルムを巻けば……光る果実に見えるはずよ」
翔太と亮の目が同時に輝いた。
「天才か!」
「それだ!」
三人はすぐに作業を始めた。美咲が透明カプセルをカッターナイフで加工し、内部に小型LEDを仕込んでいく。赤、緑、紫——色とりどりの光がカプセル越しに柔らかく滲み、まるで熟れた果実が光を宿したようだった。
「これを……俺が100個くらい取り付けてやる!」亮が腕まくりし、フレームにカプセルをどんどん固定していく。
「待って、そんなに付けたら配線が……」美咲の制止も聞かず、亮は勢いよく作業を進める。
結果——配線はぐちゃぐちゃ。赤と青のコードが絡み合い、フレーム全体が“電気スパゲッティ”と化した。
「うわぁ……」翔太が頭を抱える。
「いや、大丈夫! 派手でなきゃ意味ないんだよ!」亮はどこ吹く風だ。
翔太も負けじと、カッパの甲羅と筑後川のライトに果実を組み合わせるアイデアを次々に出していく。
「川沿いに果物が実ってるみたいに見せようぜ! これぞ田主丸だ!」
美咲はため息をつきながらも、半田ごてを握りしめた。
「しょうがないわね……どうせやるなら、配線もきれいにまとめるわよ」
彼女の几帳面な手作業で、次第に“スパゲッティ”が整理されていく。
夕方。三台の自転車が理科室前に並んだ。
一台は赤く光るイチゴのランプを散りばめた“ベリー号”。
もう一台はオレンジの柿が鈴なりに輝く“カキ号”。
そして翔太の自転車は、カッパと筑後川の青い光に加えて、紫のブドウが輝く“カッパ・フルーツ川号”だ。
「いよいよだな……」亮がヘルメットをかぶる。
「試運転、行くぞ!」翔太が声を張り上げる。
——スイッチ、オン。
闇に沈み始めた田主丸の町に、三台のデコチャリが現れた。
赤いイチゴの粒がリズムよく瞬き、柿がぽっ、と灯籠のように温かい光を放つ。ブドウは小さな星座のようにフレームを飾り、青いチューブライトが川の流れを描き出す。
「うおおっ! めちゃくちゃ綺麗だ!」亮が歓声をあげる。
三人は校庭を飛び出し、町の通りへと漕ぎ出した。
光の列が夜の道を進む。最初に気づいたのは、近所の子どもたちだった。
「わあっ! 光るチャリだ!」
駆け寄って手を振る子どもたちに、亮が得意げに手を振り返す。
やがて農作業帰りのおじさんや買い物帰りのおばちゃんたちも立ち止まり、目を丸くした。
「なんじゃこりゃ……田主丸のフルーツが自転車で光っとるぞ!」
「すごいねえ! ほんとにお祭りみたい!」
小さな通りに、人が次々と集まり始める。笑い声と歓声が混じり合い、まるで即席の祭り会場だった。
翔太は胸を張って叫んだ。
「科学部のデコチャリだ! 田主丸を光らせるんだ!」
漕ぐほどに歓声が広がり、子どもたちが後ろを走り、大人たちがスマホを構える。三台のデコチャリは、いつしかパレードの先頭車両のように町を進んでいた。
ふと、自転車を漕ぎながら美咲がつぶやいた。
「これは……パレードになるかもしれない」
その声に、翔太と亮も無言で笑った。
光り輝くフルーツとカッパのデコチャリ。その眩しさは、確かに田主丸の夜を照らしていた。




