第3話「デコチャリ構想会議」
数日後の放課後。
科学部の理科室には、例によってガラクタの山が広がっていた。廃バッテリー、古い蛍光灯、アルミホイルの切れ端、そしてこの前完成した“光る自転車”の残骸が、教卓の上にどっかりと鎮座している。
「……で、だ」
翔太が腕を組み、部室の真ん中に仁王立ちした。
「ただ光るだけじゃインパクトが足りない! もっとこう、田主丸ならではのド派手なやつにしなきゃ!」
「インパクトねえ……」亮は顎に手を当ててしばらく考えたあと、パッと顔を輝かせた。
「カッパだ!」
「カッパ?」美咲がペンを止めて首をかしげる。
「そうだよ。田主丸って言ったら河童伝説だろ? だったら、自転車にカッパの人形をドーンとつけて、目をピカピカ光らせりゃいいんだ!」
亮は机の上の空きペットボトルをつかみ、目玉の部分にマジックで黒丸を描き込む。「ほら! これにライト仕込んだら絶対映えるって!」
「なるほど……」翔太は腕を組んだままうなずく。「子どもウケは抜群だな」
「でも、河童だけじゃ暗い川辺のお化けみたいよ」美咲は冷静に指摘する。「どうせなら筑後川を表現したら? 青い光を流れるようにつければ、走るだけで川の流れみたいに見えるはず」
「おお、それカッコいい!」翔太が目を輝かせる。
「でも、LEDを何本も流れるように点けるのは電力が足りないんじゃ……」と美咲はまた現実的な不安を付け足す。
「よし、だったら果物もいこう!」翔太は机をばんっと叩いた。
「田主丸といえばブドウと柿! それを光らせりゃ、町のシンボルになるだろ。緑や紫のライトで房を作って、走るフルーツパレードだ!」
「いや待て待て待て!」亮が慌てて両手を振る。「河童に川にフルーツ? そんなの重すぎて自転車が動かねえって!」
その瞬間、部室に妙な沈黙が落ちた。
三人とも、頭の中で河童人形が果物まみれになり、青い光の川を引きずりながらよろよろ走る姿を想像してしまったのだ。
「……たしかに」翔太は苦笑した。「見た目は最高でも、走らなきゃ意味ないな」
「それに、電力も足りない」美咲はノートに数字を書き連ねていく。「川のライトに必要な電流、果物ライトの数、バッテリーの容量……どう考えても今の設備じゃ足りないわ」
「じゃあ、どうすりゃいいんだよ」亮が机に突っ伏した。
翔太は天井を見上げ、ぽつりとつぶやく。
「……町の人たちに、頼んでみるか」
二人が顔を上げた。
「だってよ、俺たちだけじゃパワーも材料も足りない。でも、この町には電気屋さんも、自転車屋さんも、農家もいる。だったらみんなに協力してもらえば……」
「協力って……そんな簡単にしてくれるかしら」美咲が眉を寄せる。
「してくれるさ!」翔太は拳を握った。
「だってこれは、田主丸をアッと言わせるための作戦なんだぞ! 俺たち科学部が、最後に町に恩返しするんだ!」
「最後って……」亮が苦笑する。「まだ廃部決まったわけじゃないだろ」
「でも廃部寸前だろ? だからこそ、でっかいことをやるんだよ!」
翔太の勢いに押されて、美咲も小さくうなずいた。
「……まあ、やってみる価値はあるわね」
「よっしゃあ!」翔太は両手を突き上げる。
「科学部・田主丸デコチャリ計画、発動だあああ!」
その瞬間、机の上の空きペットボトルの“カッパ人形”が、カランと転がって床に落ちた。
河童の黒い目が、彼らの決意を見つめているように見えた。
三人は顔を見合わせ、そして笑った。
こうして田主丸中科学部の「デコチャリ計画」は、町を巻き込む冒険へと動き出したのだった。




