第10話「試走!光の行列」
夏の夜。筑後川沿いの堤防に、光る自転車が次々と集まってきた。
「すげぇ……」翔太は思わず息を呑む。
八百屋の「メロン号」は緑に輝き、魚屋の「金魚号」は赤やオレンジの光を波打たせるように点滅させている。パン屋の「クリームパン号」や駄菓子屋の「チョコバナナ号」まで揃い、川沿いの道はまるで光の動物園だ。
「数えたら二十台以上あるわね」美咲が記録用のノートを手に呟く。
「うおおお、俺の筋肉が光を生んだ結晶がここに!」亮は胸を張る。
集まった町の人たちは、自転車を並べてスタートの合図を待っていた。科学部3人は先頭に立ち、試走会の進行役を務める。
「じゃあ、いよいよ――光の行列、出発!」翔太の合図で、列はゆっくりと動き出した。
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ペダルを踏むと、車輪のハブダイナモが電気を生み、果物や魚やパンを模したデコレーションが一斉に輝く。夜の筑後川を背景に、光の自転車たちが列を成して進む光景は、夢のパレードそのものだった。
通りすがりの観光客たちが足を止める。
「なにこれ、すごい! インスタ映えする!」
スマホを取り出して撮影し、その場でSNSに投稿する人もいた。子どもたちは歓声を上げ、川風に揺れるLEDの光は夜空の星と混ざり合って流れていく。
「見て、美咲! 外の人も笑ってる!」翔太が興奮気味に言った。
「……確かに。これはただの実験じゃないわね」美咲の声には、どこか誇らしさが混じっていた。
亮はペダルを漕ぎながら叫んだ。
「俺たち、田主丸のディズニーになれるぞ!」
「ちょっとそれは言いすぎ!」翔太と美咲が同時に突っ込む。
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だが、その輝きの中で予期せぬ事態が起きた。
列の後方、「チョコバナナ号」のランプが激しく点滅し始めたのだ。
「おい! 配線がショートしかけてるぞ!」翔太が振り返る。
次の瞬間、自転車は制御を失い、川の方へとふらついた。
「やばい! このままじゃ突っ込む!」
駆け出そうとした美咲の腕を翔太が掴んだ。
「ここは俺と亮で行く!」
「任せろ!」亮は猛ダッシュで走り出し、横から自転車を支えにかかった。
「うおおおおっ!」
筋肉の力でハンドルを押さえ込むが、自転車はなおも川縁へ向かう。
「亮、離すな!」翔太は反対側から飛びつき、二人で必死に車体を押さえ込んだ。
ガタンッ! 前輪がギリギリで川岸の段差にひっかかる。危うく水の中に沈みかけた「チョコバナナ号」は、二人の力でどうにか止まった。
「ふぅ……っ、間に合った……!」翔太は汗だくで息を吐く。
「俺の筋肉もギリギリだったぜ……」亮が笑う。
駆けつけた商店街の人々は安堵の声をあげた。
「ごめんよ、固定が甘かったみたいだ」駄菓子屋のおじさんが頭を下げる。
「いや……原因は配線の熱暴走ね。制御装置が間に合わなかったんだわ」美咲は冷静に分析する。
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川沿いの道に戻った自転車たちは、再び列を作って走り出した。
事故はあったものの、光る行列の美しさは変わらない。観光客たちはその瞬間を逃すまいと、次々に写真や動画を撮っていた。SNSには「#田主丸デコチャリ」「#光の行列」のタグが広がり、コメントが次々に集まっていた。
「すごいよ、翔太。田主丸が外の人に見つかってる!」美咲がスマホを見せてくる。
翔太は胸が高鳴るのを感じた。
だが同時に、彼の表情には影が落ちていた。
「でも……危なかった。もし川に落ちてたら笑いごとじゃ済まない」
亮もうなずく。
「そうだな。筋肉だけじゃ解決できねぇ課題だ」
翔太は夜空を見上げた。流れる川の水面には、光る自転車の列が幻想的に映っている。
「本番までに、絶対に安全対策を完成させよう。――町の未来を乗せるんだ、俺たちのパレードに」
三人の決意は、夜の筑後川に響く自転車のチェーン音とともに固められた。




