私唯一の魔法
目を覚ますと、先程とはまるで違う、豪華なベッドで寝ていた。目が覚めてくると、服を着せてもらえていることも分かる。未だに頭の中は『聖女、魔法、召喚、王国』という言葉で埋め尽くされている。
もしや、私、あの時風呂場で死んだのだろうか…。異世界転生したのだろうか…。いろんなことが頭を巡り、冷静にはなれてきた。魔法なんて現実的じゃない…。一種の走馬灯なのだろうか。我ながら悪趣味というかなんというか…。
まあ、もし本当に転生したのだとしたらせっかくだし、恋愛とか…せいしゅんもしてみたいな~、
なんて考えていたら、ドアをノックする音が聴こえた。
「あ、えっと、ど、どうぞ~?」
私の部屋じゃないのに入っていい、というのは違うと思い、ぎこちない返事をすると、漫画に出るような落ち着いたメイドさんが入ってきた。
「聖女様、お目覚めになってくださり、嬉しい限りです。
宮廷魔術研究所所長様がお呼びですので、お邪魔させていただきました。
寝巻ですので、我々で着替えを手伝わせていただきます。」
「えっあの、ひ…一人で着替えられえますので…あはは…。(高校生にもなって着替えさせてもらうとかはずすぎる!!!!!)」
しかし、私の訴えもむなしく、メイドさんが5人ほどやってきて、華やかなドレスを着せられ、髪を梳かし、化粧までしてもらった。その間、いろんなことをメイドさんが話してくれた。
「今、我が国では、魔物が多く人を襲い、人々は他国へ流、経済すらうまく回っておらず…食べ物などは第三王子が魔法で作り出せるのでよいのですが、やはり人がいないと貿易がままならず…
今回こうして聖女様を呼ぶのにも技術者が少なくなってしまっていたので、50年の研究を経て成功したとのことです。
知らない国を救えだなんて、図々しいことは重々承知しています。
しかし、聖女様でないとこの国を救えないのも事実。
どうか、どうかお願いします…!聖女様がくしゃみをして出てきたという『守りの蝶』は、たった一つでこの国の3分の1ほどの範囲に結界を張れるようなもので、
やはり聖女様しか、この国を救えないと、私達メイドも思っております。
今後、魔法をお教えするようお達しが出ておりますので、ともに頑張りましょう!」
といった感じで、完全に私任せのようで、あまりにも不登校陰キャには重荷過ぎる…。
まあ、こういう話を聞かせてくれるだけありがたいのかもしれない。
情報がないよりはましだろうし。
そんなこんなで、いい感じに化粧をしてもらい、派手すぎないドレスを自分で選んで着せてもらったが、やっぱ不登校にはきつすぎるな…。何だこの重いドレス…拷問かってぐらい重い…。
重さを我慢しつつ、宮廷魔術研究室とやらに歩いて行った。
道中は、話からは予想できないほどそれなりに豪華なお城のような廊下や、窓からの街の景色で、思わず見とれていた。
研究室もとても50年以上前からあるとは思えない。
中に入ると、目から鱗、とてつもない私好みのイケメンがいるではないか。目鼻立ちが整っており、綺麗な青い目、おまけに私が推しになるキャラに必ず共通する長い髪、あまりにも私の好みで、思わず顔をそむけてしまった。
「おや、聖女様ではありませんか。本日貴女を召喚した、カサデでございます。」
(どひゃ~!!!笑顔まで輝かしい!)
とか思っていると、カサデさんが話を続けてきた。
「今日は、今後魔法を学ぶために、聖女様がどのぐらいの魔法の際をお持ちか調べさせていただきたくお呼びいたしました。どうぞ、こちらへお座りください。」
そういうと、椅子までエスコートしてくれ、そこには藤紫色の煙が巻いた水晶と、透明な宝石のペンダントが置いてあった。
「あの…これって?」
「それはどちらも魔法の情報を調べることができる、この国唯一の魔法道具ですよ!
水晶で魔力量を、透明な魔法石で得意魔法を調べられるんです!
どちらも我が宮廷魔術研究所が10年もの研究を重ねてできたものです!
この国では生まれた子にこれを使い、育て方について教える教室が開かれたりもします。
例えば…炎魔法の得意な子供は幼いころやけどを負う確率が高いのでどう対処するかだったり、その魔法ごとに通わせる学校を変えたりもするようで…役に立っているようです!
あっ長話を…失礼しました。では早速調べましょう。」
そういうと、私が最初に見た時のようなフードをかぶり、水晶に手をかざし、何かを唱え始めた。
すると水晶の中に煙巻いていた藤紫色がクリーム色のような白になり、
「どうぞ、水晶に手をかざして…心の中で何かがあふれる映像を流してください。お風呂の水があふれたようなもので大丈夫ですよ。」
と、言われるがまま水晶に手をかざし、目をつむりちょっと前に授業で見せられたダムが決壊した動画を思い浮かべていると、なんだか不思議な気持ちになってきた。
(なんだろこれ…あ、あれだ…おもらしだ…小学校の時に寝小便したときの気持ちよさと気持ち悪さが混ざった感じ…え?漏らしてないよね?さすがに漏らしてたらカサデさん気づいてくれるよね…高校生にもなっておもらしとか冗談抜きできついって…)
と考えているとカサデさんや周りのメイドさんがざわつきだす。
まさかおもらししてる…?と思い不安になりながらカサデさんに声をかける。
「あ、あの…どうしたんですか?私、なにかやらかしちゃってますか?」
「あ、いや目を開けて大丈夫ですよ。」
そういわれ、目を開けて、すぐ下を見る。
(ほっ…おもらししてない…なんで騒いでたんだろ?)
ふと目線を上にあげると水晶にいろんな色で8という数字が書かれていた。赤の無限、黒の無限、黄色や緑、紫もある。
「あの、カサデさん、これ何なんですか?魔力の量とか言ってましたけど、8って少なくないですか?」
「聖女様、これ8じゃありませんよ!無限です!魔力、HP、攻撃力に回復力…何から何まで無限です…!」
と、カサデさんが言い終わると手をかざしていた水晶が割れてしまった。
「キャッ!すすすすすすすすみません!!!!なんか、あれです!かざしてただけです!」
と、慌てて弁明すると、カサデさんがたしなめてくれた。
「大丈夫ですよ、これは10年の研究の賜物と言いましたが、その10年で複製も可能になってます…
しかしすごいですね…この水晶の仕組みは、調べたい者の魔力を水晶の中の煙に見えていた魔法生物が数値化するという代物で、魔物は魔力を栄養として、我々は魔物に栄養の数値を出してもらうという仕組みだったんですが、魔物も生きていますから…許容量があります。
今回、聖女様の無限に等しい魔力を受け取ろうとし、水晶の中から割って出て行ったみたいです。」
「ええと…ということは…?」
「そうですね…この結果を王に提出するよう言われていますから無限とは書けませんから…すべて最大値の9999と書いておきます。
気を取り直して、得意魔法を調べましょう…!
このペンダントを首からかけて、ええと、本当だったら水晶を使うんですけど、割れちゃったので、直接数値を入れておきます。」
そういうと、ペンダントを手に持ち、しばらくして「OKです!では、首から下げてください。」と言われたので、また壊してしまわないかとひやひやしながら首からかける。
「少しまぶしいかもしれないので目を瞑ってください。色で現れますので、故障の心配はないですよ!」
ほっと胸をなでおろし、目を瞑る。
まさか魔力があったとは…と思いつつすぐに目を開けるよう言われたので開けてみると、ペンダントの色は変わってなかった。
「あれ、まさかまた壊しちゃいましたか?!申し訳ないです…!」
と慌てていうと、カサデさんは目を輝かせて前のめりにこう言った。
「いえいえ!これはすべての魔法が等しく得意ということですよ!やはり聖女様のようです…!」
「そうだったんですね…あの、ちなみにその、召喚?の時に私がくしゃみと同時に何か出したのは何の魔法なんですか?」
「ああ、あれは創造魔法ですよ。限られた職人や魔法士しか使えない魔法です!魔法について詳しく説明しましょう。」
そういうと、どこからか紙と羽ペンを持ってきて、説明し始めた。
「魔法というのは基本3つに分けられます。
一つ『炎・水・氷・木葉・土』などの自然から力を借りる『原始魔法』、
二つ『闇・光』など、その人の根本から引き出される魔法『人格魔法』、
三つ目にどちらにも該当しない、創造や破壊、召喚や催眠など人の域を超えた力の魔法を『神聖魔法』と呼ばれます。
数値としては聖女様はどれも等しく高いですが、おそらく神聖魔法を多く使うでしょう。」
「なるほど…」といいつつよくわかっていないが、多分いっぱいあるってことだろう。
「では、さすがに魔力が無限の人を学園に送るわけにはいかないので、当初の予定通りメイドに教えさせましょう。あなた唯一の魔法を見つける手助けをしてくれるはずです。」
「私…唯一の魔法?」