私は独りじゃない
「皆の者、見苦しい場面を見せてしまってすまなかった。後日、改めてあ奴らの処分を決めようと思っている。また、近々ネリソンが王太子として就任する事になる。どうかよろしく頼む」
陛下が上手にまとめてくれた。さらに。
「皆様、新しく王太子に就任する事になった、ネリソン・ダルス・アペルピシアです。私が王太子になれたのは、ダスディー侯爵を始め、たくさんの貴族の方々、さらにデータを提供してくれたジェシカ嬢のお陰です。本当に皆様には感謝しております。また、私はダスディー侯爵家のアンネ嬢を愛しております。近々彼女と婚約をしたいと考えております。まだまだ未熟な2人ですが、どうか2人で手を取り合い、よりよい国を作っていきたいと考えております。どうかお力添えの方、よろしくお願いいたします」
ネリソン殿下が挨拶をした。この場でアンネ様の事も紹介するだなんて、さすがね。周りからも溢れんばかりの拍手が沸き起こる。この2人なら、きっと素敵な国を作って行ってくれるのだろう。
幸せそうに微笑む2人を見たら、そんな気がした。
「皆の者、長い間ご苦労であった。今日はゆっくり休んでくれ」
陛下の言葉で、皆ホールを後にする。ちなみに我が家はこれから本格的な家宅捜索が行われるため、私はもうこの家には住めない。
異母弟も、継母の実家でもある伯爵家が連れて帰る様だし。さて、私はそのまま旅にでも出ようかしら?そう思っていたのだが…
「ジェシカ様、どうか今日は、我が家にお泊り下さい。既にジェシカ様のお部屋は準備してありますわ」
そうアンネ様が声を掛けてきてくれたのだ。
「でも、ご迷惑になりますわ。私はこのまま旅に…」
「迷惑だなんてとんでもない。今まで直接お話が出来なかったでしょう?それに、旅の資金もお渡ししておりませんし、陛下からの慰謝料だって受け取っていませんでしょう?ジェシカ様が命を懸けて断罪した者たちの裁きも、気になるでしょうし。ですから、是非全てを見届けてから旅立っても遅くはないはずですわ」
「アンネの言う通りだ。とにかく今日は、家で泊まっていきなさい」
アンネ様だけでなく、ダスディー侯爵にもそう言われた。せっかくだから、ここは甘えるか。
「では、よろしくお願いいたします」
隠してあった荷物を持ち、そのままダスディー侯爵家へと向かった。そして、立派な部屋に通してもらう。わざわざ専属の使用人まで付けてくれようとしたが、私はこれから旅に出る身。自分の事は自分でしたいと言って、丁重にお断りした。
そもそも、私は居候の身だ。あまり迷惑を掛けたくはない。
その日はたくさんの貴族が集まり、ネリソン殿下の王太子就任のお祝いをした。初めて直接話すネリソン殿下派の貴族たち。皆気さくな人たちで、本当に楽しかった。
皆から
「旅なんかに行かずに、ずっとここにいて欲しい」
そう言われたが、丁重にお断りした。旅に出る事が、私の夢でもあり、大切なヴァンとの約束でもあるからだ。
全てが終わった日の夜、ふと窓を開けると、綺麗な月が目に入った。
今日は満月なのね。そういえば1年前の今日は、熱で苦しむ私の傍に、ヴァンがずっといてくれたのよね。でも、その後すぐにヴァンは殺された。
「ヴァン、あなたを助けられなくてごめんなさい。でも私、あなたの仇はとったわよ。ヴァンがいなくなってから、ずっと独りぼっちだと思っていたけれど、私に協力してくれる素敵な仲間も出来たわ。どう?私、偉いでしょう?」
空を見上げ、そう呟いた。
この1年、必死に頑張って来た。そして今日、その努力が報われたのだ。でも…
やっぱりあなたはいないのよね…
そんな現実が私の心に突き刺さる。気が付くと、涙が溢れ出ていた。
その時だった。誰かがノックする音が。
「ジェシカ様、少し宜しいですか?」
やって来たのは、アンネ様だ。
「やっぱり、泣いていらしたのですね。あなた様はずっとヴァン様の為に、今まで戦ってこられたと聞いておりました。そして、1年前の今日が、ヴァン様と会った最後の日。きっとヴァン様を思い出しているのではないかと思いまして…」
そう言うと、私の傍に腰を下ろしたアンネ様。
「ジェシカ様、もうあなた様は独りぼっちではありません。私がおります。これからは、私を頼ってください。だって私たち、もうお友達でしょう」
そう言ってアンネ様が微笑んでくれた。
友達…その言葉が、嬉しくてたまらない。そういえば私、今世になってから、友達と呼べる人なんていなかった。ヴァンを失ってから、独りぼっちだと思っていた。でも、いつの間にか私を心配してくれ、こうして傍にいてくれる大切な友達が出来ていたのね。
「ありがとうございます、アンネ様。あなた様のお陰で、少し心が軽くなりましたわ」
「それは良かったです。今日は私が、ジェシカ様の傍にずっとおりますわ。一緒に寝ましょう」
そう言って、私のベッドにアンネ様が潜り込んできた。
「アンネ様、よろしいのですか?ネリソン殿下が嫉妬しませんか?」
「ネリソン様はあの男の様に、器が小さくはありません。さあ、一緒に寝ましょう」
確かにネリソン殿下は、そんな事で嫉妬なんてしないわよね。私の周りはおかしな人ばっかりだったから、少し感覚がマヒしているのかもしれない。
その後は2人で色々な話をした。アンネ様とネリソン殿下の馴れ初めなども聞いた。私もヴァンの事を話した。アンネ様との時間は楽しくて楽しくて、前世の女子会を思い出した。
結局その日は夜遅くまで女2人、話しに花を咲かせたのだった。




