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いつまでも従順だと思ったら大間違いよ

屋敷に着くと、胸を張って馬車を降りた。そして、なにくわぬ顔で玄関へと入って行く。


「もう帰って来たのか?こんなにも早く帰って来たという事は、ネイサン殿下を説得できたんだろうな?」


私の元に飛んできたのは、お父様だ。


「いいえ、王宮には言っておりませんわ。そもそも、私とネイサンは、正式に婚約を結んでいるのです。いくらネイサン様がギャーギャー騒いでも、今更どうする事も出来ませんわ。それも、相手は男爵令嬢でしょう?放っておけばよろしいのではなくって?それとも、お父様はあんな男爵令嬢が怖いのですか?」


お父様の目を見て、はっきり告げてやった。そもそも、私たちは大々的に婚約発表を済ませているのだ。それなのに、ネイサン様の我が儘で婚約破棄なんて出来る訳がない。それも、相手は男爵令嬢なのだ。


「確かにそうだが…でも、殿下が…」


「とにかく、今日は疲れておりますの。それでは失礼しますわ」


私のあまりの迫力に、さすがのお父様も固まっている。フン、いつまでも黙っていると思ったら大間違いなのよ。


さっさと部屋に入ると、すぐに部屋に鍵を掛けた。万が一お父様や継母が怒鳴り込んでくると、面倒だと思ったからだ。


「あの…お嬢様。やっぱり、さっきのお嬢様はおかしいです。私を屋敷においてもらう時以外で、旦那様に逆らった事がなかったのに…それも、あんなにも堂々と旦那様と話をするなんて…」


ありえない!と言った表情で、ヴァンが私を見つめている。


「ねえ、ヴァン。今から話すこと、驚かずに聞いてくれる?」


ヴァンになら、私の身に何が起きたのか話しても大丈夫なような気がしたのだ。


「…既にかなり驚いておりますが…わかりました、話してください…」


確かに既にかなり驚いているヴァンは、動揺しているのか瞳が泳いでいる。そんなヴァンに、語り掛ける様に話し始めた。


「ねえ、ヴァン。あなたは前世ってあると思う?」


「前世でございますか?」


「ええ、そうよ。実は私、さっきの激しい頭痛で、前世の時の記憶が蘇ったの。私の前世の時の名前は、松宮里奈よ。日本という国に生まれ育ったの」


「まつみやりな?にほん?お嬢様、一体何をおっしゃっているのですか?」


さっぱり分からないと言った表情のヴァンに、前世の記憶が蘇った事。松宮里奈は、ジェシカとは正反対な性格だったこと。完全に松宮里奈の記憶を取り戻した事で、今置かれている状況を改善したいと思っている事を話した。


「とにかく、私は今の生活が不満なのよ。そもそも、婚約者がいるのに他の女にうつつを抜かすネイサン様も、私に暴言や暴力を振るう父親も、嫌味しか言わない王妃様も大っ嫌い」


そうはっきりと言い切った。そう、前世の記憶が戻った私は、全ての人に怒りを覚えているのだ。


「本当に、まるで別人の様ですね…お嬢様の口から、その様な言葉を聞くなんて。でも、いい傾向だと思います。私はずっと、お嬢様が虐げられている事に、強い憤りを感じていたので。それで、里奈様…でしたっけ?あなた様はこれからどうしたいのですか?」


急にヴァンが里奈様と呼ぶから、なんだか変な感じがする。


「もう、急に前世の時の名前で呼ばないでよ。びっくりするじゃない。今まで通り、お嬢様でいいわ。ジェシカの記憶も、しっかり残っているから」


つい苦笑いしてしまった。


「それは失礼いたしました。それで、お嬢様はこれからどうするおつもりですか?」


ヴァンが真剣な表情で聞いてくる。


「どうって、深く考えていないわ。ただ、このままでいる事だけは、嫌よ。私ね、幸せになりたいの。このままいったら、絶対に幸せになれないでしょう?」


「なるほど、分かりました。私にできる事があれば、何でも協力いたします」


そう言って、ほほ笑んでくれたヴァン。


「ありがとう、とにかく家族の問題もあるし、前途多難だけれどね…」


前世の記憶が戻ったからと言って、自分の思い通りに事が進むとは思わない。それでも私は、もういつも人の顔色を伺い、俯いていて謝罪の言葉を述べる事しかできないジェシカではないのだ。


諦めずに、出来る事からやっていこう。


「今のお嬢様を見ていたら、きっといい方向に進む様な気がします。さあ、そろそろ晩御飯の時間です。すぐに準備いたしますね」


そう言って、ヴァンが食事をとりに行ってくれた。実は我が家は、継母と異母弟が私とは食事をしたくないという理由から、私だけ部屋で1人で食べているのだ。


と言っても、顔を見るたびに嫌味しか言わない人たちと一緒に食事なんかしたくないから、別に問題はない。でも、以前のジェシカは、あんなにも酷い仕打ちをされていたにもかかわらず、一緒に食事が出来ない事を嘆いていたのよね。


本当に私って、バカだったわ…


ヴァンが準備してくれた食事を食べた後、湯あみを済ませベッドに入った。そういえば、明日は貴族学院があるのよね。


我が国には、14歳~17歳までの3年間、貴族学院に通わないといけないのだ。ちなみに今私は15歳で、貴族学院2年生だ。正直憂鬱だが、そんな事は言っていられない。


とにかく、明日から頑張らないと。

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