滝って?
俺、コバノケンスケ、21歳、大学生。
気象予報士を目指し、気象予報専門チャンネル「ソラモヨウ」でバイト中。
主な仕事は電話の応対。要は苦情処理。
感謝の電話なんて滅多にない。ほとんどは苦情。
「晴れって言ったのに雨じゃないか」って予報が外れたときの〝お怒り〟が大半だが、「キャスターの服装が変」「出演している女性と付き合いたい」といったやや気持ち悪いものも少なくない。
そして今も電話が鳴っている。
コバノ「はい、もしもし。気象予報専門チャンネル『ソラモヨウ』です」
女「あ、もしもし」
コバノ「はい、こちら『ソラモヨウ』ですが」
女「あ、あのー。先ほどそちらのチャンネルを見てまして」
コバノ「あ、はい。ありがとうございます」
女「で、ですね。今日の天気なんですけど、午後から雨が降るとかで…」
コバノ「はい、そうなんですよ」
女「…で、その時キャスターさんが〝滝のような雨〟が降るって言ってたんですけど…」
コバノ「はい。大雨のようですね」
女「どの滝ですか?」
コバノ「えっ?」
女「〝滝のような雨〟の滝って、どの滝ですか?」
コバノ「どの滝?いや、それは…」
女「いえ、ほら滝も色々あるじゃないです」
コバノ「確かに色々ありますけど、どの滝って言われましても…」
女「ナイアガラですか、華厳ですか、イグアスですか、那智ですか」
コバノ「詳しいですね」
女「そんなことはいいんです。どこの滝か知りたいだけなんです」
コバノ「そう言われましても、〝滝のような〟って例えでして、どこって言われましても…」
女「ないんですか、滝」
コバノ「いや滝はありますけど」
女「じゃあどこですか?」
コバノ「いや、だから」
女「私『ソラモヨウ』毎日見てるんです。信頼してるんです。知らないはずなんてない!」
コバノ「わ、分かりました。答えます」
女「ホントですか!」
コバノ「はい」
女「どこですか」
コバノ「それはぁ…」
女「それは?」
コバノ「それはぁ…」
女「それは?」
コバノ「…そ、それはぁ…」
女「それは?」
コバノ「バ…バ…バリューマの滝です!」
女「バリューマの滝?」
コバノ「はい、バリューマの滝です」
女「ってあの、イタリアの?」
コバノ「え、イタリア?」
女「はい、バリューマの滝ってイタリアのですよね」
コバノ「え、は…はい、イタリアのバリューマの滝です」
女「なんだ、そうだったんですね。ありがとうございました!」
コバノ「はい、いえ、どうも」
電話が切れた。今のはクレームだったのか。けど最後は感謝された。
それにしても、ホントにあんのか「バリューマの滝」。