死神さんが教えてくれたこと
なんでいつもこうなんだ…
1章
僕は飛び降り自殺をしました。
なのに何故か草むらの上で寝転がってるだけでした。そして僕の目の前には黒い羽衣を着て仮面をつけた人がいました。
「初めまして、僕は、死神です。」
…。夢かなと思い自分のほっぺを叩きましたが、どうやら夢じゃないようです。
「君はまだ寿命がある、だから自殺しても生きてるんですよ」
死神さんって死ぬ前に出てくるんじゃなかったっけ?と思いながらも、また死ねなかった事実に絶望した僕がいました。
「もう、君はいつも自殺しようとするんだからー。これで何回目だよ。僕の仕事を増やさないでくれ。」
死神さんはそう言う。いや、仕事ってなんだよ。命奪うことが仕事じゃないのかよ。
「あー君が言いたいことはわかってる。僕の仕事はね、ちゃんと寿命通りに生かす為。」
「あぁ、言い忘れてたけど、僕君にしか見えないし、一時一緒に暮らすから監視するために」
あぁ、なんてこった。死のうとしたら死神というものに助けられるなんて。そして、一緒に住むとか人生終わってる。
「人生クソゲーだよ…。」
ついついそんな言葉が僕の口から出てしまいました。
2章
それから死神さんとの2人生活がはじまった。
「ねぇ、死神さん。なんで僕は死ねないんですか?」
僕は、昔から悪運に強い。目の前にバスが突っ込んできたこともあった、1mある溝に落ちたこともあった、地震で大きな棚が倒れてきたこともあった。でもどれも無傷だ。
本当にその度に思う、なんで死ねないんだよと。
「君はなぜそんなに死にたいんだい?」
死神は言う
「だって辛いから…。ODもした、リスカもした飛び降りもした、首絞めもしたでも全部だめだった」
絶望しか無かった。死にたいのに死ねない。何も上手くいった試しがなかった。仕事も友達関係も親子関係も何もかも、こんな落ちこぼれなのに生きてていいのかと思う毎日。
うんざりだった。
「辛いってのは生きてるから感じれるものでは無いのかい?」
「死神さん、どうせなら辛い気持ちなんて感じたくないんだよ、辛い気持ちを隠そうとすればするほど楽しい気持ちも無くなっていくんだ」
「そうか、人間ってのは難しいな。僕は感情というものがあまり分からないから、君のことが知りたい」
死神さんはどうやら僕に興味津々らしい。
死神さんは色々と質問をしてくる。
正直うっとおしい。ほっておいて欲しい。
でも渋々答える僕がいた。
「死神さん、次は僕からの質問だけど、寿命って分かるの?」
「あぁ、わかる。」
「僕は僕の寿命が知りたい」
「それは、したいこととするべきことの順序を決めるためかい?」
僕は、少し考えた。したいことってなんだろう。するべきことってなんだろうと。そういえばよく考えたことがなかった。
ただ、寿命が分かれば、ゴールが分かれば楽かなと思ったからだ。
「寿命が分かれば君は必死に生きるのかい?」
死神は言う
果たして僕は必死に生きれるのだろうか。
こんな無気力で死ぬことしか考えていない自分が、生きることが出来るのか、答えは否だ。
「生きる理由が分からないんだ、だから生きれないと思う。どうせなら寿命をわけれるなら、生きたい人に分けたい。」
「生きる理由になんの意味がある」
死神は言う
「理由がなかったら生きてはいけないのか?」
この時の僕は黙ることしか出来なかった。
3章
「ねぇ、死神さん。なんで死神さんは僕を選んだわけ?」
世の中たくさんの人がいる。そんな中で僕が、僕なんかが選ばれたのが不思議だった。でも死神さんはいつも同じことを言う。
「僕は君のためにいるようなもんなんだよ、君にしか見えないんだよ」
それ以上は教えてくれない。全く、なんて厄介なものがぼくについたんだ。死なせてくれない死神なんて聞いたことないぞ。
「なぁ、君はなぜ友達というものがあるのに人に頼らないんだ?」
「なぜって…」
信頼できないからだ。所詮人間は都合のいい人間が好きだ。都合が悪くなれば捨てる。
だから僕は人間が嫌いだ。
「そういえば君は表面上はつくろってるけど内心を言わないよな。」
「だって言ったところでなんになる。解決してくれるのか?他人の偽善の餌食になるだけだ、どうせ僕なんか誰にも信頼されてないし」
「それは君自身が他人を信頼してないからなのではないか?自分のことを信じてくれない人のどこを信じればいいってんだ。都合がよすぎる」
いちいち癪に障るなこの死神野郎。僕は久々にイラッときた。でも多分正論だから、どこかでそう思ってる自分がいるからイラつくのだろう。ぼくはふーと深呼吸をした。
4章
ある日祖母が倒れたと連絡が来た。僕は家出した身だ。それに昔から祖母とは馬が合わない。口煩いのだ。
だから、会いに行かなかった。ピンピンと最近まで仕事してたからちょっと疲れて倒れたのだろうと思ったから、会いに行かなかった。
そしたらその晩、祖母が脳卒中で死んだことを知らされた。
「お通夜の準備かい?」
死神は言う。
「そうだよ。」
僕は淡々と答える。
「後悔してるのかい?」
いちいち僕の心を覗いてるように聞いてくる。
「…。」
僕は黙るしか出来なかった。
実家に帰った。まさかあの元気な祖母がこんなに簡単にも死んでしまうとは思わなかった。
「なぁ、死神さん。僕はなぜ泣けないんだろう。薄情なやつかもしれない」
「どこかの本で読んだぞ、人間は辛すぎることがあると泣けないらしい。」
「後悔したよ。こんな風になるくらいなら、分かってたら行ったのにって。死神さん。寿命分かるんでしょ?なんで教えてくれなかったんだ?」
「君は小説のラストを知ってて読み進めて楽しいかい?」
なぜそんなことを今聞くんだ。そんな気分じゃない。
死神は続けて言う。
「最後のあり方を知ってて感動したり心を揺さぶられたりするかい?」
だからなんだって言うんだ、寿命を知ってれば…後悔なんか…。
「寿命を知らなかったから後悔したんじゃないか?心が悲鳴をあげてるんじゃないか?後悔のない人生なんて、生きてる意味あるのかい?成長するかい?」
僕は何故か涙が出てきた。何もかも知ってればきっと僕は何も感じなかっただろう。
今泣くこともなかっただろう。口煩い祖母に感謝の気持ちなんて持たなかっただろう。
ほんとクソみたいな自分が嫌になる。
ずっとみてこなかった自分を、逃げてた自分を突きつけられてる気がした。
5章
祖母が死んで、家に帰ってからずっとぼーっとする日々。死にたくてたまらなかった。
だが、実際死を目の前にして、僕は死ぬことに躊躇いができた。
「なぁ、君は1人で背負い込むのかい?」
死神さんが聞いてくる。
気分ではないが、この容赦なく聞いてくる死神さんに慣れてきた僕がいた。
「誰に相談すればいいんだよ…」
「あいつとか、あいつとか、あいつとかいるじゃないか」
いるけど、こんな重たい話をして引かれないだろうか?不安しかない。離れていかないだろうか?
「離れるかどうかは相手次第なところはある。だが必要な存在は残り、必要じゃない存在は離れていく。」
また心を読んだかのように言ってくる死神さん。
「みんな離れていったらどうすんのさ…」
「それはそれまでの人だということだ。君の努力ももちろん必要だ、だが、君が助けを求めてる時に助けてくれない友達は友達と言えるのかい?僕ならそんな友達ごめんだね」
はぁ、嫌になるほどの正論だ。全く可愛げのない死神だ。
「行動を起こさないと何も変わらないぞ」
はいはい、分かりましたよ
僕は渋々と携帯を開き友達に連絡をとった。
僕が友達に祖母が死んだことを話したら、家に来ると言い出した。電車で2時間はかかるのにわざわざ来てくれるらしい。少し僕は嬉しかった。
友達は親身になって話を聞いてくれた。
僕が死のうとしてたことを聞いた時は泣いていた。なんで早く言ってくれなかったんだ!ひとりじゃねーんだぞと怒ってくれた。
僕は知らなかった、こんな友達がそばにいてくれたことを。
僕のために泣いてくれる友達がいてくれる事を。知らなかった。
「知らないって罪だな、ほら知れてよかっただろ?」
本当に死神野郎は癪に障る。だが僕は少し感謝した。もしこのまま行動しなくて知らなかったら、友達というものをなくしてた気がするからだ。勝手に被害妄想して、人間不信になって。そんな人生嫌になるはずだ。
「知らないって罪か…」
友達はキョトンとしてる。
「いや、独り言。ありがとな」
僕は22年生きてやっと信頼出来る友達というものを手に入れた。きっと行動しなかったら、打ち明けなかったら自分の弱い所を晒し出すことが出来なかったら、こんな奇跡起こりえなかった。
6章
相談してから、その友達と頻繁に連絡を取るようになった。どうやらしんぱいしてくれてるらしい。嬉しかった。
「そういえば君は最近死にたいと言わなくなったな」
言われてみればそうだ、死神さんと生活して色んなことが変わった。価値観、考え方。考え方が変わると行動も変わっていった。
「なぁ、死神さん僕は今でも辛い。この世の中したくないこともしなきゃいけない。でもしたいことも増えてしまった。祖母の死もあって死ぬ事が怖くなった。友達に必要とされてる分死んじゃいけないと思ってしまった。でも重くて重くて消えたい」
「それは、生きてるからだ。生きてるから重みを感じ感情を感じる。僕は生きてるようで生きていないから何も感じないけどね」
「死神さんみたいになりたいよ。何も感じたくない。辛い思いをしたくない。」
「人間はなぜ辛いと感じるかずっと不思議に思ってたが、僕は思うんだ。人間は1人では生きていけない。だからこそ辛さを感じるのだと。辛さを感じるからこそ人の気持ちを痛みを理解できるのではないか?」
そんなの嫌ってほど分かっている。だからこそ自分が嫌いでしょうがない。分かりすぎててなのに何も出来ない無力な塊でほんとに自分が嫌いだ。
「君はまだ自分で自分を殺してるな」
死神は言う。
最近は友達の助言もあって、リスカもODも自殺未遂もしていない。なのになぜ殺していると言われてるのか分からなかった。
7章
「君はまだ自分で自分を殺してるな」
その意味がわからなかった。いくら考えてもわからなかった。だから死神さんにその理由を聞いてみても教えてくれなかった。ただ言うのは
「世界は多面体だ、見方を変えれば違う形に見える」
とだけ。ほんとにモヤモヤする。
ある日、街に出かけるとちょうど強盗と遭遇した。怖くてしょうがなかったが、僕の体はいつの間にか強盗の元へと向かい何とか取り抑えようとしていた。
グサッ
強盗が持ってた刃物が腹に刺さった。
遠のく意識。だが後悔はなかった。初めて、僕はこんな僕でよかったと思えた。偽善かもしれないでも、人を助けるために動けた自分がなんだか誇らしく思えた。
「サヨナラだな。僕は安心して僕は僕の中にいれるよ」
死神は言った
あぁ、僕は死ぬのか…死神さんが消えるってことはそうなんだろうな。
人々が悲鳴をあげる中で僕は意識を手放した。
8章
目を覚ますと白い天井だった。
どうやら病院みたいだ。
目を覚ましたぞと声が聞こえる。
そこには涙を流している親がいた。
少し回復してから警察に事情を聞かれ、僕は生きている。
だがあれから死神さんの姿は見えない。
声も聞こえない。
なんだか寂しかった。
そういえば最後に死神さんが言った言葉を考えてみた。
するとだんだん思い出してきた。
そう、あの時初めて仮面を外したのだ。
その時の顔は…
僕だった。
そう、死神さんは僕だったのだ。
僕が僕を殺しているというのは、自分のことを嫌って蔑んでいたからかもしれない。
夢みたいな話だけど、僕は僕という死神さんに自分自身を見つめることを教えられた。
28歳現在。僕はまだ今でも覚えてる。死神さんが教えてくれたたくさんのことを忘れないように今日も失敗しながらも自分らしく生きている。