第7話 生涯の弟との出会い (ライト視点)
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僕はずっと一人。
僕は化け物。
僕は嫌われ者。
僕は愛を知らない。
だって誰も愛してくれないから。
「すみません。どなたかいますか?」
僕の小さな家に誰かが訪ねてきた。
僕は一人で森の中の小さな小屋に住んでいる。
僕はドアを開けて相手を確認した。
旅人の格好をした若い男の人が立っていた。
色んな道具を持ち、優しい眼差しで僕を見ていた。
そんなお兄さんは少し疲れているようだった。
「あっ少し休ませてもらえないでしょうか?」
お兄さんに言われて僕は答えた方がいいのか迷う。
「少しでいいのですが?」
僕は答える事をせずドアを大きく開けて中にどうぞ入って下さいと言うようにドアの端によけた。
「あっいいのですね? ありがとうございます」
お兄さんは部屋の中に入りドアを閉めた。
僕の家にはベッドは一つしかない。
疲れているお兄さんをベッドで寝かせてあげたい。
でもお兄さんはソファでいいと言っている。
お兄さんは何も話さない僕の事を気にすることもなくソファで横になった。
お兄さんからすぐに寝息が聞こえた。
どれほど疲れていたのだろう。
僕はお兄さんの為にご飯を作ってあげることにした。
僕は森の動物達と話すことができる。
熊さんに魚を捕ってきてもらい、山菜を狐さんに採ってきてもらった。
そしてウサギさんには野いちごを採ってきてもらった。
森の動物達は旅人のお兄さんを歓迎しているようだった。
僕も歓迎していた。
だってお兄さんは僕を普通の人間のように扱ってくれる。
「あれ? すごく良い香りがするよ」
お兄さんは起きてそう言った。
僕はできたご飯を机に並べお兄さんが座る椅子を引いてお客さんを案内するように手でどうぞと示した。
お兄さんは椅子に座った。
僕は机を挟んでお兄さんの前に座りご飯を食べる。
「何これ? すごく美味しいよ。君が作ったの?」
僕はお兄さんの言葉にうなずいた。
お兄さんには嫌われたくなかった。
だから僕は話すことをしない。
「声が聞きたいんだけど?」
僕は首を大きく振った。
「俺が何も知らないでここに来たと思う?」
お兄さんの言葉に僕はお兄さんを見た。
お兄さんはニッコリと笑っていた。
「何も怖がらなくていいよ。俺は君のことを知っててここに来たんだから」
『どうしてここに来たの?』
僕はお兄さんの頭の中に話しかける。
お兄さんは僕の声に少し驚いていたがニコニコと笑顔を見せている。
「ここの近くの村で君の話を聞いて気になったんだ」
『僕が怖くないの?』
「どうして? 君はこんなに小さくて可愛いのに」
お兄さんはそう言って僕の頭を撫でた。
子供扱いされたのが嬉しかった。
小さな頃から化け物扱いしかされなかった僕をちゃんと子供扱いしてくれたんだ。
『僕はライトだよ。十一歳だよ』
「俺はカイン。十四歳になったばかりだよ。まだ十一歳なんだね。子供が一人で住むのは大変じゃないのか?」
『森の動物達が手伝ってくれるから大丈夫だよ。今日のご飯もみんなが手伝ってくれたんだ』
「それは良かったな」
カインはそう言ってニッコリ笑ったがその後すぐに真剣な顔つきになった。
『どうしたの?』
「ライトはここにいたら危ないんだ」
『どうして?』
「最近、魔獣が色んな所から出てくるみたいでこの辺りも危険なんだよ。だからライト、俺の村に来ないか?」
『僕は動物達と離れたくないんだ』
「ライトの気持ちは分かるけどライトは人間で動物達と住む世界が違うんだよ?」
『でも、動物達といると楽しいよ? 動物達と話せるから何も違うものなんてないよ』
「ライトは分からないだけで動物は人間には害でもある菌を持っていたり、自分の衝動を抑えられなくなったりしてライトを傷つけたりするかもしれないよ?」
カインはどうして動物達を悪いと言うのか分からない。
動物達は優しいし、いい子だし、僕を助けてくれるのに。
カインも他の大人達と同じなのかなあ?
僕を化け物だと言う大人達と。
『僕はここから動かないよ』
「ライトはそう言うと思ったよ。それなら俺がライトを守る為に傍にいるよ」
『僕には動物達がいるからカインはいらないよ』
「そう言われても俺はライトを守るよ」
『知らない』
僕はそう言って逃げるように寝室に入った。
するとバタンとドアが閉まる音がした。
カインが家から出ていったようだ。
僕は窓から外を見る。
外にはカインがいた。
カインは石の上に座り動物達が囲んでいた。
カインは動物達を悪いモノだと言ったのに動物達に好かれている。
どうして?
動物達は知らないんだ。
教えてあげなきゃ。
僕は家から出て動物達に近づく。
『みんな聞いて。カインは君達を悪いモノ扱いしたんだよ?』
「ライト。動物達は分かってるよ」
僕は動物達に言ったのにカインはそう言った。
カインに僕の声が聞こえてるの?
それはないはずなのに。
動物達は僕のなのに。
嫌い。
カインも。
動物達も。
僕は家に入って鍵をかけた。
誰にも入ってほしくない。
僕はずっと一人。
僕は化け物。
僕は嫌われ者。
僕は愛を知らない。
それでいい。
僕はそれでいいんだ。
それから次の日も、またその次の日も僕は一人、家に閉じ籠った。
外では動物達とカインが楽しそうに遊んでいた。
言葉なんて通じないのに。
嫌い。
みんな嫌い。
その次の日、嵐がやってくる気配がした。
風が強く吹いて窓を揺らす。
空の色が灰色になって雨が降りそうになり雷が鳴る。
外ではカインは空を見上げ動物達が怖そうに震えていた。
僕には関係ない。
だって動物達はカインの事が好きなんだから。
そして雨が降りだした。
激しい雨と風で窓が割れそうだった。
そんな嵐の中でカイン達はどうしているんだろう。
窓から外を見ても嵐がすごくて視界はゼロだった。
もしかしたらカインは僕を守るのをやめて旅に出るかもしれない。
もう、諦めていなくなっているかもしれない。
そう思いながら僕はベッドに入って朝を迎えた。
昨日の嵐が嘘のように空は晴れていた。
僕はすぐにベッドから出て外に出た。
そこにカインは……いた。
何で?
もういないかと思ったのに。
どうして?
『カイン』
「やっと出てきたか」
カインはそう言って僕にニッコリ笑ったんだ。
髪の毛には葉っぱがいっぱいついて、洋服はビショビショ。
それなのにカインの上着の下から鳴き声が聞こえた。
カインが上着をめくるとそこには小鳥がいた。
「昨日、産まれたんだよ。この子のお母さんが守ってくれって俺に言ってきたからさ、上着の中に入れてやったんだよ」
『鳥の声が聞こえるの?』
「聞こえないよ。ただなんとなくそう思っただけだよ」
カインはすごい人だ。
僕はカインみたいに優しい人になりたい。
化け物じゃなくて人になりたいんだ。
『カイン。僕、カインの弟子になっていい?』
「ダメ。ライトは俺の弟になるから」
『弟?』
「そう。俺の大切な可愛い弟」
カインはそう言って俺の頭を撫でた。
その手は温かい。
違う。
熱いの間違いだ。
カインの腕を触ると熱い。
カインは熱があるみたいだ。
僕はすぐカインを着替えさせてベッドに寝かせた。
「ライト」
『ん?』
「ちゃんと聞けよ。お前は化け物じゃない。お前は俺の大切な可愛い弟だ。それは俺の生涯、変わらない」
『うん。カイン兄さん』
「うん」
そう言ってカインは眠った。
僕は一生懸命カインのお世話をした。
カインは三日間眠った。
疲れが溜まっていたんだと思う。
僕はカインの為に部屋に飾る花を小鳥さんと一緒に探した。
『小鳥さん。この花が綺麗だよ』
僕が小鳥さんの方を向くとそこには小鳥さんはいなかった。
その変わり大きな鳥がいた。
鳥と言っても普通の鳥とは違う。
頭は蛇のようで舌が長く僕を狙っているようだった。
僕はその場所から動けないでいた。
どうしよう。
カインがいれば……。
「ライト。大丈夫か?」
僕は声がした方を見るとカインがいた。
カインはもう元気そうだった。
『カイン。この子はカインが守ってあげた子だよ。何でこんなになっちゃったの? まるで僕みたいだよ』
「ライト。泣くな。助けるから。お前もその小鳥も」
カインはそう言って化け物になった小鳥の首を躊躇なく切り落とした。
蛇の頭は地面へと落ちた瞬間、煙になりその煙の中から小鳥さんが出てきた。
「これで分かっただろう? ライトは俺の村に来るんだ。動物達もお前を傷つけたりしたくないんだよ」
カインの言葉に近くにいた動物達は頷く。
僕の為に離れるの?
僕が傷つかないように。
動物達の気持ちが分かると涙が止まらない。
ごめんねみんな。
嫌いなんて言って、本当にごめんなさい。
カインは泣いている僕の頭を優しく撫でた。
『僕、カインの村に行くよ』
「ライト、俺の村に行くってことは君はララの婚約者候補にならなければならないんだ」
『いいよ。カインの大切な人でしょう?』
「何でそんなこと」
『知ってるのかって? だってカインの心の声が聞こえたから』
「えっそれは困る。全部忘れてくれ」
『いいよ。その代わり絶対に帰って来てよ。僕は生涯、カインの弟なんだからね』
「分かってる。だからお前の姉さんを頼む」
『うん。僕とカインの秘密は絶対に守るよ』
「それとルーイに伝えて欲しいことがあるんだ」
僕はそれからカインの手紙とカインの伝言とカインとの秘密を抱えてララ姫がいる村へ向かった。
魔獣なんて一匹も現れず長旅も危険なんてなかった。
ララ姫を最初に見た時、目隠しをしていてもキラキラ輝いているように見えた。
僕に会いたかったようで嬉しそうに笑っていた。
ララ姫はカインの大切な人だけあってとても優しい雰囲気の方だった。
最初は僕が話さないから不安そうな顔をしていた。
そんな顔をしてほしくなくて僕はすぐにララ姫の頭の中に話かけた。
ララ姫は僕を化け物扱いなんてしなかった。
ララ姫の心の声が聞こえた時、僕は嬉しくなった。
ララ姫も同じ気持ちなんだって思ったから。
カインの秘密もララ姫の秘密も僕はいつか口にするかもしれない。
だってこの秘密はいつか秘密じゃなくなるから。
僕はカインからの伝言をルーイ様に伝えた。
ルーイ様はカインが言ったことをララ姫に伝えた。
ララ姫が少し震えていた。
泣いていたんだと思う。
目隠しをしているから分からないけどそうだと思った。
僕のこの村に来た目的はララ姫を守ることとララ姫と一緒にカイン兄さんを待つこと。
読んで頂き誠にありがとうございます。
次はまた新しい婚約者候補が現れます。
どんな人なのかお楽しみに。