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第5話 ライバルとの出会い (コリー視点)

 今日も重い木を父親に言われて運ぶ。

 こんなことを毎日していると嫌になってくる。

 俺はこんなことをする為に生まれてきたのか?

 そんなことを思う毎日だ。


 すると俺の目の前に父親が切った木の下敷きになっているウサギを見つけた。

 すごく弱っているがまだ息はある。

 近づいて気付く。


 ウサギだと思った生き物は違っていた。

 長い耳はあるが顔つきがウサギではない。

 可愛く愛らしい顔は何処にもない。


 赤い目は血走っている。

 口は狼のような口で鋭い牙を持っている。

 こんな生き物を見たことがない。


「そいつは魔獣。近寄ると襲われるぞ」


 いきなり後ろから声がして俺は振り向いた。

 人の気配なんて全くしなかった。

 いつからそこにいたんだ?


「それなら助ける必要はないな」

「そうだな。お前にすることはない」


 何だよこいつ。

 失礼な言い方をする奴だな。

 俺と同じくらいの歳だろう?


「お前にもすることはないんじゃないのか?」

「俺にはあるんだ。この魔獣を殺す」

「何でだよ。いつかこのまま食べ物を食べずに餓死するだろう?」

「こいつらはそんなんじゃ死なないんだ」

「じゃあどうやって?」

「首を切り落とす」


 この魔獣はただ殺される為にここにいるのか?


「こいつが可哀想とか思わないのか?」

「今の方が可哀想なんだよ」

「はあ?」

「重い木の下敷きになって潰れそうで潰れない体がずっと痛んで悲鳴をあげている。そんな痛みを俺は取り除いてやりたい」

「それならこの木を持ち上げてこいつをここから動けるようにしてやればいいだろう?」

「さっきも言ったがこいつは必ず人間を襲うんだ」

「それでも首を切り落とすことまでしなくていいだろう?」

「そっちの方がいいんだ」

「死ぬ方がいいなんてそんなことこいつは思っていないに決まってるだろう?」

「じゃあ見てろよ」

「はあ?」


 すると男は腰にある剣を手に持ち躊躇なく魔獣の首を切り落とした。

 魔獣は煙となり消えていった。

 しかしその魔獣がいた場所にウサギがいた。

 可愛い顔のいつものウサギだ。


「ウサギ?」

「だから言っただろう? 魔獣は首を切り落とされた方がいいんだよ」

「そうなのか?」

「そうなんだ。さっきの魔獣の耳の先に少し傷があったのを覚えているか?」


 そんなの覚えている訳がない。


「それが何だよ」

「傷が同じ所に同じ形で残っているってことはこいつは元に戻ったと判断していいことになるんだ」

「元に戻る?」

「そう。魔獣は動物達が何かが原因で変貌した姿だと俺は思っているんだ」


 こいつは何処から来たのだろう。

 そんなにたくさん魔獣と戦ってきているのか?

 この目の前にいる奴の事が気になった。


「俺はコリー、十三歳だ。宜しく」

「俺はカイン、同じく十三歳だ。宜しく」


 そして俺達は握手をした。

 俺はカインの手に違和感を覚えカインの掌を見た。

 そこにはたくさんのマメができている。

 潰れているものもある。


「何だよこれは?」

「仕方ないんだ。一人で戦っているから武器のせいでこうなるんだ」


 カインは苦笑いをしながら言った。


「決めた。俺もカインと一緒に行くよ」

「俺と?」

「俺に足りないモノが分かったよ」

「足りないモノ?」

「俺は自分の意志がなかったんだ。ただ言われた通りにするだけだった。だから毎日がつまらなかったんだ」

「俺は一人で旅をしている。これからもずっと一人だ」

「俺がいた方がマメもできないかもしれないだろう」

「マメなんて気にしてないさ」


 カインのその言葉はその掌を見れば分かる。

 気にしていないからマメは潰れ、たくさんできているんだ。

 そんな一人で旅をするカインをもっと知りたくなった。


「それなら俺と勝負をして俺が勝ったらカインと旅に出る。それだったらいいか?」

「仕方ないなあ。分かったよ」


 カインは苦笑いをして答えた。

 嫌なら嫌って言えばいいのに。


「カイン。俺はお前に勝てる勝負をしてもいいのか?」

「何でそれを俺に聞くんだ?」

「だってカインは一人で旅をするのは変えないんだろう?」

「そうだよ。でもコリーが楽しそうにしている顔を見たら勝負をしてもいいかなって思ったんだ」

「それならそれぞれ得意な事で勝負してその自分の得意なことで負けたら本当の負けだな」

「その結果でコリーが俺と旅に出るかララの婚約者候補になるかだな」

「おいっ。婚約者候補ってなんだよ?」

「俺の旅の目的は俺の大切な家族みたいな女の子のララの婚約者候補を探すことなんだ」

「分かった。俺がカインの妹の婚約者候補になればいいんだな」

「何か色々間違っているが婚約者候補になるのは間違ってはいないよ」

「それなら勝負を始めるか」

「そうだなそれならまずは俺の大得意な大木持ちだ」


 俺がそう言うとカインは何それと言いながら首を傾げた。


「いつも俺は大木を森から街まで運ぶんだ」

「それが大木持ちなのか?」

「そう。どちらが先に街に着くか勝負だ」

「いいよ。面白そう」


 カインはそう言って笑った。

 初めてカインの笑った顔を見た気がする。

 カインが面白そうにしているから俺まで楽しみになった。


 勝負は俺の勝ちだった。

 しかしカインも速かった。

 大木なんて持ったことがないはずのカインは軽々と持ったんだ。


 最初は誰でも持ち方が分からないはずなのに。

 カインが俺のように毎日、大木を持つ仕事をしていたら俺はすぐにカインに負けると思う。


「カイン。次はお前の得意なことで勝負だ」

「俺はこれだ」


 カインはそう言って背中に背負っていた弓を出した。


「弓? 俺は使ったことがないから無理だな」

「そんなの分からないだろう? ほらっ」


 そしてカインは俺に弓を持たせた。


「この弓はララ以外、誰にも触らせたことがないんだ」

「何で俺に触らせたんだよ?」

「コリーが使ったことがないって言うから俺の弓で一回試してほしいんだ。俺が教えるから」

「分かった。教えてくれ」


 カインは弓の使い方を丁寧に教えてくれた。

 そして俺は近くの木を的にする。


「コリー。真っ直ぐ的を見て、目を離さない」

「うん」

「ほら手を離せ」


 カインに言われて手を離すと真っ直ぐ飛んだ矢は木の真ん中ではないがギリギリ刺さった。


「弓って楽しいんだな」

「そうだろう? だから弓は誰にも負けない。貸して。俺が見せてやるよ」


 そしてカインは綺麗な姿勢で弓を構えた。

 俺とは全然違う構えに俺は少し見惚れてしまった。

 憧れに近い感情が生まれたんだ。


 カインに追いつきたい。

 カインに負けたくない。

 そう思った。

 カインは俺にとってライバルになった。


 カインが放った矢は俺より遠くの木の実を貫いた。

 カインの構えを覚えたくて何度か矢を放ってもらった。

 カインが放った矢は全て命中した。

 カインの弓の腕前は百発百中なんだと思う。


 他にも俺達は勝負をした。

 色々して今はじゃんけんなんかをして二人で歩いていた。


「見てみろよ。仕事もしないで遊んでばっかりいるぞ。いいよな親と一緒に働くって。仕事をしなくてもいいんだからな」


 俺と一緒に父親の指示で働いている同じ歳くらいの奴らに言われた。

 俺はお前達よりも小さい時から働いてんだよ。

 そう思ったら言いたくなってそいつらの元へ行こうとした時カインに腕を掴まれた。


「カイン?」

「気にしなくていいよ。コリーは俺といて楽しいんだろう?」

「うん」

「せっかく楽しいのに人の悪口を聞いて反論してたら楽しい気分が台無しだよ」

「でも」

「イライラするのは分かるけど、それは今だけだから。ほらっ次は何の勝負するんだよ」

「それなら最後はどちらが大きな声を出せるか」

「なんだよそれ? 最後って?」

「カインは早くララ姫に会いたいんだろう?」

「コリーまでララに姫をつけるのか?」

「カインから聞くララ姫はお姫様みたいに感じるからだと思うんだ」

「お姫様かぁ」


 カインは何かを思い出すようにクスッと笑って言った。

 笑った理由を気にはなったがカインのララ姫の自慢話になりそうだから聞かないでおこう。


「カイン。俺はララ姫の婚約者候補になるよ」

「いいのか?」

「うん。その代わり旅が終わったら勝敗が決まるまで勝負を続けるからな」

「分かってるよ」

「じゃあ最後の大声の勝負だ」

「仕方ないなあ。やるか」


 カインは嫌そうに言っていたが顔は嬉しそうだった。

 カインは俺との勝負を楽しんでいたんだと思う。


 それからカインはまたララ姫の婚約者候補を探しに街を出ていった。

 俺はカインから受け取った手紙を持ちララ姫が待つ村へ向かった。


 村へ向かう道に魔獣はいなかった。

 何の危険もなく俺はララ姫がいる街に着いた。

 ララ姫はお姫様のように美しい心を持つ方だった。


 ララ姫が弓の話をしている時、カインの話を思い出した。

 カインが言ったこと全てララ姫が関係していたことに気付いた。


 だからカインは弓が得意になったんだと思うとララ姫の前で言ってしまいそうになった。

 でも俺は言わない。

 これは男同士の秘密にしてやるよ。

 カインが女の子よりも下手で悔しくて上達したことを。


 俺は村でボロボロの家を見つけた。

 まだ使える木材達。

 この家を建て直せば住めるようになるかも。

 俺はここに家を建てる事を決めた。


 村長さんに言うとすぐに承諾してくれた。

 そして村長さんにララ姫には外のことやゲートのことは内密にって言われた。


 ララ姫にはどんな秘密があるんだろうか?

 カインがララ姫の為にやっていることはちゃんとララ姫の役に立っているのだろうか?


 俺はララ姫のことは気になったが今は家を建て直すことが先決だ。

読んで頂き誠にありがとうございます。


楽しいと思って頂ける作品だと嬉しいです。

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