第4話 二人目の婚約者候補 コリー
今日はルーイ様と一緒に家畜のお世話をするのです。
「ルーイ様。そのニワトリさんと豚さんの喧嘩を止めさせて頂いてもよろしいですか?」
「えっでもすごい勢いでニワトリが豚をつついていますよ?」
「豚さんを抱えて他の場所に連れていって頂ければニワトリさんは怒らないので」
「分かりました」
ルーイ様は豚さんを軽々と持ち上げ隣の小屋に入れました。
やはり男の人がいると助かります。
家畜のお世話は終わり少し休憩をします。
「あれ? あの二匹は何をしているのですか?」
「あっニワトリさんと豚さんですか?」
「そうですね」
「あの二匹は競争をしています」
「競争?」
ルーイ様は首を傾げて私を見ます。
美しい顔が私に向くと少しドキッとしてしまいます。
ルーイ様の顔を見れませんので私はニワトリさんと豚さんを見ます。
「どちらが先にあの丘の木まで行けるのか競争をしているんです」
「そんな風には見えないですが?」
「二匹はたまにぶつかりながら士気を高めているんです。お前には負けないからななんて言ってるんでしょうか?」
「変な二匹ですね」
「そうなんです。エサの取り合いをしたりあんな風に競ったりするのにお昼寝の時は二匹、寄り添いながら眠るんですよ」
「ライバルであり、戦友であり、友でもある。不思議な関係なんですね」
「そうですね。だから離れられないのです。カインと私みたいに……」
「ララ?」
カインに似た声に私は反応してルーイ様を見ます。
ルーイ様は眩しい笑顔を私に向けています。
カインではないけれどルーイ様の笑顔も癒されます。
寂しい気持ちも何処かへいってしまいます。
「ララ。また君に訪問者が来たんだが会ってくれるかい?」
村長のおじいちゃんが私達の座っている後ろからいきなり現れました。
「おじいちゃん! いいよ。今から行くよ」
おじいちゃんに驚きながら私は答えました。
「俺がゲートまでララを連れて行きましょうか?」
ルーイ様がそう言ったので私はルーイ様に手を引かれゲートまで目隠しで行きました。
「ララ。君の目の前にカインからの贈り物がいますよ」
「ルーイ様ったらカインの贈り物なんて私の目の前におられる方に失礼ですよ」
「そんなことないですよ。ララの目の前にいる彼も分かってここに来ているんですから」
「そうです。ララ姫」
初めて聞く声は少し喉風邪でもひいているのかと思うほど声がガラガラでした。
「お声はどうしたのですか? 風邪でもひいていらっしゃるのですか?」
「あっ違います。これはカインと勝負をしていて声が変わってしまったんです。何日か経てば治りますよ」
「そうなのですね? 私にはあなたのお顔も分からないので声で判断するしかないのですが今のあなたの声はどんな方か判断はできないのですね?」
「すみません。カインが旅に出ると言うので最後に一勝負したんです」
「ふふっ。カインは仕方ないなぁなんて言いながらあなた様の相手をしたのでしょうね」
「そうですよ。カインは絶対にノーとは言わないんです」
「カインらしいです」
「あっ俺の名前を先に申します。コリーと申します。十三歳です」
「私はララと申します。宜しくお願いします」
「こちらこそ宜しくお願いします」
コリー様が頭を下げたのがなんとなく分かりました。
「ララ。俺はまた後で来るのでそれまではララから離れておきますね。色んな話があるようですから。コリーが」
「あっそうですか? ルーイ様ありがとうございます」
「いいえ」
ルーイ様はそう言って私から離れていきました。
目の前にはコリー様の気配がします。
「何から話せばよろしいですか?」
コリー様は話す事がたくさんあるのでしょうか?
困っているようですね。
「それならコリー様はカインとはどんな関係なのですか?」
「それは簡単です。カインとはライバルです」
「ライバル?」
「はい。カインとは勝負をして勝ち負けを決めなければいけない関係です」
「それがライバルですか?」
「そうです」
「勝敗は決まらなかったのですか?」
「五対五で引き分けなんです」
「勝ちが五で負けが五ってことですよね?」
「そうです。俺にもカインにも得意な勝負はあったので」
「カインの得意なモノは弓ですか?」
「はい。そうです」
コリー様の声を聞いて何故わかるのかと驚いているのが分かります。
「弓は私が教えたんですよ」
「えっ」
「私達が小さな頃に私が先に弓を使えるようになり、カインは私に負けないようにたくさん練習をしていつの間にか私を追い越して私より上手になっていたんです」
「だからカインは……」
「コリー様?」
コリー様は何かを言いかけてやめたようで私は気になりコリー様を呼びました。
「何でもありません」
「何かあったのですか?」
「いいえ。カインの弓の腕は誰も勝てませんよ。百発百中です」
「本当にたくさん練習していたんです。私が寝ている時も夜中まで練習していました」
「カインはそんな百発百中の腕を持っていたのにそれでも練習していました」
「それはカインが昔、私に教えてくれました。」
「おっ気になりますね」
「カインは言っていました。どんなに自信があっても人は失敗をする。そんな事が起きたら守りたいモノも守れない。だから俺はどんなに自信があっても練習は怠らないと」
「そうですね。その通りです。俺は力には自信があります。大きくて重い大木を持ち上げてカインに勝ちました」
コリー様は勝ったのが嬉しかったのでしょう。
声で分かります。
「そんな勝負をしたのですか?」
「はい。カインも案外、力持ちでしたよ?」
「カインの力持ちは私のお手伝いをしてくれていたからでしょうね。コリー様はどんなことで力持ちになったのですか?」
「俺は大工を長年しています」
「長年と言いましても私と変わらない年齢ですよね?」
「小さな頃から親がしていた大工の仕事を手伝っていたんです」
「そうなのですね。腕とか筋肉で太いのでしょうね」
「カインとあまり変わりませんよ」
「えっそうなのですか? コリー様も年齢の割に大人顔負けの体型をしておられるのですか?」
「身長は高いと言われますがそれ以外は普通ですよ」
「見てみたいですわ」
「俺がララ姫の村に入れるなら見られますよ」
「そうですね」
「あっそういえば手紙があるんです」
コリー様はそう言ってカバンから手紙を探しているのかガサゴソ音がします。
「あっありました。どうぞカインからの手紙です」
「待って下さい。私が手を出すのでその手に手紙を置いて下さい」
「はい。それは助かります」
そしてコリー様から手紙を受け取りました。
その時コリー様の指に触れた気がしました。
「ありがとうございます。コリー様」
私はそう言ってカインからの手紙を抱き締めました。
この手紙があるってことはカインは元気である証拠です。
嬉しくて早く手紙を読みたくなりました。
「そこの少年。この村に入ってよいという許可が出た」
門番さんが大きな声で言いました。
「俺はこの村に入ったら家を作るんです」
「えっ」
「カインに言われました。俺やその前の婚約者候補に家を作れと」
「えっそんなことできるのですか?」
「家を作るのは簡単です。でも一人では無理だとカインに言ったら探してくれると言ってくれたんです」
「それなら次の婚約者候補は大工さんですね?」
「そうですね」
「ルーイ様。良かったですね」
ルーイ様は必ず近くにいると思い大きな声で言いました。
「そうですね」
ルーイ様は答えてくれました。
やはり近くにいたみたいですね。
「ルーイ様。帰りましょうか? 早くカインの手紙が読みたいので」
「そうですか。それではそちらに向かいますね」
そう言ってルーイ様は私の方へ向かってきています。
「俺はこの村の何処に家を建てるといいのか見て回ります」
コリー様はそう言って私から離れていくのが分かりました。
私の返事を聞くことなく行ってしまったコリー様は考えるより行動をされる方なんだなぁって思いました。
コリー様がいなくなるとすぐにルーイ様が私の手を握ってくれました。
そして私はルーイ様に手を引かれゲートが見えない位置でルーイ様に目隠しを取られました。
光に慣れていない私の目は太陽なんて見ていないのに眩しく感じました。
「ルーイ様はコリー様のことをどう思いましたか?」
「俺はララの婚約者候補の事に対して何か言うつもりはないですよ」
「どうしてですか?」
「婚約者を決めるのはララだからです。だから俺は何も言いませんよ」
「そうなのですね。分かりました。コリー様の事を考えるよりもまずはカインの手紙を読みますね」
「はい。お一人で読みますよね?」
「はい」
そして私は家へ入りソファに座ってカインの手紙を読みます。
『 ララへ
ルーイとは仲良くやっているか?
寂しくないか?
泣いたりしていないか?
やっぱり俺はララのことが心配だよ
今はコリーのせいで声がガラガラだよ
理由はコリーにでも聞いてくれ
今日も弓の練習をしたんだ
ララが教えてくれたことを忘れない
真っ直ぐ的を見る
目を離さない
だからララ待っててくれ
俺は真っ直ぐララだけを見ているから
カイン 』
もっとたくさんカインの旅の事を書いて欲しいのにやはり手紙は短いです。
私だったら便箋十枚は書けるわよなんて思いながら大事にまた手紙を抱き締めました。
どうか神様。
私のカインを御守り下さい。
私は待つことしかできません。
私は願うことしかできません。
私は一生懸命、毎日を生きることしかできません。
私は真っ直ぐカインだけを想うことしかできません。
読んで頂き誠にありがとうございます。
ジャンルを何にするのか迷ってヒューマンドラマにしましたがそれで合っているのか不安です。
もしかしたらジャンルを変えるかもしれません。
内容には影響はないと思いますので楽しんで読んで頂ければ幸いです。