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第21話 人魚の苦悩 (カイン視点)

「きゃー」


 ララの叫び声に俺は急いでララの元へ向かう。


「ララ!」

「カイン!」


 ララの目の前に人の形をした黒い物体がいた。

 まるで人の影のようだ。

 あれがじいさんの中にいた闇なのか?


「じいさんは、もういないだろう?」


 闇は笑いながら言った。


「何が可笑しいんだよ。人が死んでるんだ!」

「人間なんて弱い生き物だ。自分だけ助かればいいと思っているんだからな。ちょっと心を揺さぶるだけで他人なんて見えなくなる」

「人間は弱い生き物だ。でもそれは、お前も同じなんだよ」

「ワタシが同じ? 人間みたいにワタシはバカじゃないし、騙されないんだ」

「お前はバカだよ。お前の方が弱い。だって、人間に寄生しなければ生きていけないんだろう?」

「ワタシは寄生なんてしなくても生きていけるんだよ。ただバカな人間をワタシの思うがままに動かせるのが楽しいんだ」


 また闇は笑った。


「カイン」


 ララの後ろから走ってくる人影が俺を呼ぶ。

 その人影は一つではない。


「ルーイ。それにコリー、ライト、スワン、アラン、アレン」

「ララは俺達の守るべき姫だから」


 ルーイは息を整えながら言った。

 そしてララの婚約者候補達はララの前に立つ。

 ララを守るように。


「どれだけ人間が現れてもワタシの力に勝てる訳がないのだ」


 闇は余裕を見せて言った。


「じゃあ、俺達に寄生してみろよ」

「カインそんなこと言っちゃダメよ。人魚さんやおじいちゃんみたいに孤独になっちゃうよ」

「大丈夫。俺はララが生きていればそれだけでいいんだ」


 俺の一言にララはうつむいた。

 俺の一言に納得して何も言えなくなったのだろう。


「皆さん。守ってくれているのにごめんなさい」


 ララはそう言って俺の元へ走って抱き付いてきた。


「ララ。俺に触れることは闇に、、、」

「カインのバカ。私もカインと一緒なのに。気持ちは一緒なのに」


 ララは俺の言葉を遮り、俺を抱き締めている腕にギュッと力を入れて言った。


「ララ?」

「私もカインと同じなんだって言ったじゃない。カインの笑顔が見られないなら私は生きていけないわ」

「ララが幸せそうにしている。人魚! 俺の元へ来い」


 闇はそう叫ぶと人魚が闇に吸い寄せられるように現れた。

 黒い人魚は泣いていたようだ。

 じいさんの死を悲しんでいたんだ。


「さあ、人魚よ。ララを受け入れろ」

「もう、あなたには従わない」


 人魚はそう言うと光り輝きだした。

 そして眩しくて全員が目を閉じた。



「何で君はそんなに真っ黒なの?」


 俺はどこか遠くから聞こえた声の相手を確認したくて目を開けた。

 目の前には幼い子供とまだ幼い黒い人魚がいた。

 俺の体は透けているから二人には見えないようだ。


「分からないの。生まれた時から真っ黒でみんなに嫌われてるの」

「どうして? こんなに真っ黒で綺麗なのにね」

「そんなこと初めて言われたよ。私の親でもそんなことは言ってくれなかったもの」


 すると次は幼い黒い人魚と幼い子供が光り輝きだし、俺はまた目を閉じた。


「君は君の美しさに気付いてないんだよ」

「私は美しいの? 真っ黒でみんなは怖いって言うのよ?」


 俺がまた目を開けると次は大人の男性と大人になった黒い人魚がいた。

 大人の男性はどこか、じいさんに似ている。


「君は黒く輝いているだけだよ。黒でも白でも虹色でも、どんな色でも輝いていれば綺麗なんだ」

「でもみんなと色が違うの」

「どうしてみんなと色が違うとダメなの? みんなと色が違うからいいんじゃないのかな?」

「だって違うのは変でしょう?」

「俺は羨ましいよ。みんなには無いモノを君は持っているんだ」

「あなたはどうしてそんなに優しいの?」

「君が好きだから。君の笑顔をいつまでも見たいからだよ」

「私もあなたの笑顔をいつまでも見たいわ。私もあなたが大好きよ」


 男性は海の中にいる人魚の元へ行く為に海に飛び込み人魚と抱き合った。

 二人は幸せそうだ。

 二人は光り輝きだし、俺は目を閉じた。


「おいっ、そいつはなんだ?」

「おいっ、こいつ真っ黒だ」

「もしかしてこいつのせいで病気が広まったんじゃないのか? 何か悪い虫でも連れてきたんだ」

「待ってくれ。彼女はただの人魚だよ」


 俺が目を開けると黒い人魚がたくさんの男達に囲まれ網に入れられていた。

 さっきまで青年だった男性が少し歳をとって確実にじいさんだと分かる。


 じいさんは必死に黒い人魚を助けようとしている。

 人魚は不安そうにじいさんを見つめじっとしている。


 黒い人魚は少しも歳をとっていないように見える。

 黒い人魚とじいさんの、時間の進み方が違うことがよく分かる。


「真っ黒の人魚なんて不幸の塊だろう?」

「そうだ、そうだ。黒に良い印象なんてないんだ」

「そんなことはない。彼女は美しいんだ」


 じいさんは大きな声で黒い人魚の良さを伝えている。


「お前は黒い人魚に騙されているんだ」

「お前はもう、人魚に会うな」


 そしてじいさんは男達に両手を縛られ何処かへ連れていかれた。

 その様子を何も言わず黒い人魚は見ていた。


 そして俺の目の前に大きな光の玉が現れ光り輝き俺は目を閉じた。



「ごめんな。君を守れなくて」


 俺はゆっくりと目を開けると弱々しいじいさんが黒い人魚の水槽の前にいた。


「君には幸せになって欲しいんだ。君の幸せはなんだい?」


 人魚はじいさんを見つめるだけで何も言わない。


「君はワシのことも信じられらなくなったんだね。どんな辛い思いをしたのか考えるとワシは情けない」


 すると人魚は大きく首を横に振った。


「君はワシを許してくれるのかい? ワシにはもう、時間がないんだ。ワシの手で君を幸せにしたいんじゃ。だから君の幸せはなんだい?」


 すると人魚はじいさんを指差す。


「ワシ? ワシがなんじゃ?」

「おいっ、何をしている。もう動けないほど弱っていると思って牢屋から普通の部屋へと移してやったのに」


 じいさんの後ろから男が現れてじいさんの腕を引っ張る。

 じいさんはそれに驚き咳き込んでいる。


 黒い人魚は心配そうに水槽に手を当ててじいさんを見ている。

 じいさんも苦しそうにしながら、黒い人魚を見ている。


「ゴホッ、ゴホッ、これが最後じゃ。君の幸せはなんだい?」


 すると黒い人魚はじいさんを指差した後に、自分自身の胸をトントンと叩いた。


「そうか。ワシと同じなんじゃな」


 そうじいさんが言うと黒い人魚から黒い何かが出てきてじいさんを包み、すぐに消えた。

 そしてじいさんの目は真っ黒になり、さっきまで弱っていたのは何処へいったのか分からないほど力強く立ち上がり、男を見下ろしていた。


「ワシは彼女と一生この村で住み続ける」


 じいさんは黒い人魚を見ながら言っていた。

 そしてゆっくりとその光景は消えていく。

 俺もゆっくり目を閉じた。


「カ、、イン」


 ララが苦しそうに俺を呼ぶ声で目を開けた。


「ララ!」


 ララは闇に首を捕まれ苦しそうにしていた。


「お前らも幸せになれないんだ」


 闇はそう言って俺の近くにいたララ嬢に黒い小さな塊を投げた。

 その塊はララ嬢を覆いつくし、ララ嬢は大きくなる。

 そして暴れだした。


「ララ嬢。どうしたんだ? 俺の声が聞こえないのか?」

「ワタシの力で動物は簡単に魔獣になるんだ。動物は人間より簡単に操れるから面白くないな」

「お前が動物達を魔獣に変えていたのか? 何も悪いことをしていない動物達に」

「だって、お前が死なないからだろう?」

「俺のせいだと? そのせいでどれだけの動物達が傷ついたと思ってるんだ」

「知らん。豚、早く片付けろ」


 闇がそう言うとララ嬢は俺を襲ってきた。

 ララ嬢が魔獣になってしまった。

 しかし、魔獣になったのならやることは決まっている。


「アランとアレンはララ嬢の動きを止めてくれ」


 俺がそう言うとアランとアレンは力を合わせララ嬢の足を剣で攻撃し、ララ嬢が倒れる。


「ライト、ララ嬢は何て言ってるんだ?」

『ララ嬢は苦しいって言ってるよ』


 ライトが俺の頭の中に話しかけてきた。


「よしっ。スワンはあの日のように俺と一緒に戦ってくれ。そしてルーイとコリーはララを頼む」


 俺の一言で三人は頷き素早く動く。

 コリーの体当たりに闇はララの首から手を離す。

 ララの体をルーイが抱き止める。

 これでいい。


 そして俺はスワンを見る。

 スワンも俺を見て頷く。


「スワン!」

「カイン!」


 俺はララ嬢の首へ剣を向ける。

 大きなララ嬢の首を切ることはできない。

 だがその後、スワンが両手に剣を持ち、クロスにして俺の剣に向けて切りかかる。


 俺の剣は大きなララ嬢の首を切り落とした。

 それから白い煙が俺達を隠した。


「ララ嬢! カイン! スワン様」


 ララの叫ぶ声が聞こえた。

 ララ。

 大丈夫だから。


「ブー」


 ララ嬢の声がする。

 ララ嬢、何処にいるんだ?

 俺は白い煙の中を手で探りながら歩く。


「ララ嬢!」

「ブー」


 ララ嬢は俺を見つけると足元にくっついてきた。

 俺はララ嬢を抱き上げ白い煙の中から出る。

 俺とララ嬢を見てララがほっとしていた。

 スワンは先に白い煙の中から出ていた。


「闇は?」


 俺はそう言いながら、辺りを見たが闇はいない。

 何処へ行ったんだ?


「黒い人魚さんがいないわ」


 ララの言葉に俺は嫌な予感がした。

 あの闇は黒い人魚から出てきたモノだ。

 黒い人魚の苦しかった、寂しかった、悲しかった、そしてその想いは恨みとして闇になって現れたんだ。


 黒い人魚の中に闇が戻ればどうなるんだ?

 鱗になった人達はどうなるんだ?

 それは考えなくても分かる。

 全員の不幸を望む闇は黒い人魚を闇で覆いつくすはず。


 それは全ての終わりだ。

 黒い人魚がそんなことを望んでいなくても闇の力は大きい。

 黒い人魚が行く場所は海だ。


 昔、じいさんと黒い人魚が出会った海があるはず。

 どこなんだ?

 この村は山の上にあると思っていたのに。


「ララ。この村の近くに海はあるのか?」


 何故か分からないがララに聞いていた。

 でもララなら何か知っているのかもしれない。


「この村の近くに海があるの? だから海辺にしか咲かない植物が咲いてるのね」

「そこだ。そこに連れていってくれ」

「そこはいつも私達が星空を見る場所だよ?」

「それって大きな木がある丘だよな?」

「うん」

「行こう」


 それから丘へ向かい、丘の後ろを見ると砂浜が広がっていた。

 俺はララと海を眺めていた。


「何でだ? ここは崖で崖の下は森が広がっていたはずだろう?」

「そうだよね」

「これもこの村を膜が覆っていたせいなのか?」

「そうなんだろうね。とっても綺麗な海だね」

「うん」


 俺達はこの場所に向かう間にいつの間にか手を繋いでいた。

 自然にどちらが先とかではなく本当に自然に手を繋いでいた。


「ララは危険だからここにいてくれないか?」

「私も行くよ。今度は置いていかないで」


 ララは俺の手をギュッと握って言った。

 ララの気持ちは痛いほど分かる。

 でも、ララがいては闇と全力で戦えない気がする。


「ララはここにいて。あいつらがいるから」


 俺はララの後ろに視線を向ける。

 ララの婚約者候補達が心配そうに見ている。

 ララが後ろを振り向き誰がいるのか確認をする。

 その隙に俺は海へ向かう。


 一歩踏み出すとそこは砂浜になり歩きにくい。

 それでも俺は海を目指す。

 ララが俺の名を呼んでいる。

 ごめん。

 ララ。


 もう、闇は黒い人魚を乗っ取っているかもしれない。

 それでも俺は諦めない。


 波打ち際まで着いたが、人魚も闇もいない。

 何処に行ったのだろう。


「わっ」


 俺は波打ち際で何かに足を掴まれ倒れる。

 そして沖へと引きずりこまれる。

 息ができなくて苦しい。

 少し目を開けると黒い鱗が見えた。


 黒い人魚が闇に乗っ取られたようだ。

 俺を殺そうとしている。

 こんなところで殺されてたまるかよ。


 俺は黒い人魚を蹴った。

 黒い人魚は俺の足から手を離した。

 俺は急いで水面に顔を出す。

 大きく息を吸う。


 すると次は腕を引っ張られた。

 また沖へと引きずりこまれる。

 どうすればいい?

 そう思っていると黒い人魚の鱗が輝いた。


 そうだ。

 黒い人魚の鱗には母親がいるんだ。

 それなら。


 俺はもう一度、黒い人魚を蹴った。

 その後、黒い人魚を水面へと引っ張り顔が出たところで叫ぶ。


「母さん!」


 すると黒い人魚の動きが止まる。

 そして勢いよく俺を砂浜へと引っ張り泳ぐ。

 そして俺は波打ち際まで着くとララが近寄ってきた。


「カイン。大丈夫?」

「うん。母さんが助けてくれたんだ」

「お母さん?」


 ララは首をかしげながら黒い人魚を見る。


「ララ。大きくなったわね」

「えっカインのお母さん?」

「そうよ。今は少しだけ人魚には眠ってもらってるわ」

「私のお母さんは?」

「あなたのお母さんはもう、いないわ」

「えっ」

「人魚の一部になってしまったの。私も、もうすぐそうなるわ」

「嫌よ。絶対に助けるから」

「ララ。いいのよ。私はあなたのお母さんと一緒にいられるからね」

「嫌。カインと一緒にいたくないの?」

「それはあなたが一緒にいてくれるでしょう?」

「嫌。嫌。絶対に嫌よ」

「ララ。もういいから」


 ララは子供のように駄々をこねている。

 そんなララを後ろから抱き締めてララを落ち着かせる。


「カインは諦めるの?」

「諦めてなんかないよ。これは母さんの意思だから」

「だって、、、」

「ララ。分かったから。俺も苦しいんだ」


 ララを後ろからギュッと抱き締めて小さな声で言った。

 母さんは分かっている。

 もう、この人魚から離れることはできないと。


「ララ。母さんと二人で話をしてもいいかな?」

「うん」


 ララはうなずいて少し離れたルーイの元へ行く。


「母さん」

「カイン」

「人魚はどうしてる?」

「まだ眠っているけどすぐに起きるわ」

「人魚は闇に乗っ取られたのか?」

「そうね。でも彼女の弱点は知ってるわ」

「弱点?」

「昔よ。彼女は昔に執着してるの」

「執着」

「ねえ、カイン」

「何?」

「立派になったわね」

「何年経ったと思ってんの?」

「ララをお願いね」

「言われなくても俺はララを一生、守ると決めてんだよ」

「そうね。あっ、人魚が起きそうよ」

「これが最後なんだな」

「うん。あなたの幸せを願うわ」

「俺も母さんの幸せを願うよ」

「ありがとう。忘れないで。弱点は昔よ」

「分かってる」

「カイン。愛してい、、、」


 母さんは言葉を途中で言わず消えた。

 そして目が黒くなり人魚が現れたのが分かる。


「お前は人魚か? それとも闇か? 違うな。どっちも人魚だったな」

「にんげんなんてきらい」

「感情がなくなったのか?」

「にんげんなんてきらい」


 人魚に感情なんてなくなっていた。

 ただ同じ言葉を繰り返していた。


「お前はもう人魚でもなくなったんだな」


 俺がそう言うと人魚は俺の腕を掴み海へと引っ張る。


「今のお前を見てじいさんはどう思うんだろうな」

「にんげん、、、きらい」

「じいさんはお前の笑顔を見たかっただけなのに」

「あの人、、、すき」

「じいさんの幸せはなんだ?」

「あの人の幸せは私の幸せ」


 すると黒い人魚は輝きはじめた。

 眩しい。

 なんだ?

 みんな目を閉じた。

読んでいただき、誠にありがとうございます。


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